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【闇堕ち直前】主人公の色なし観察日誌1  作者: 荒屋朔市
呼び名・ロエル

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31/50

呼び名、それは君が僕に求める役割(10-1)

短編【24.5】を読んでいただけましたでしょうか?



 僕は埃を被った神話の本に手を伸ばした。


 開かれたページには、古い時代に忘れ去られた英雄の物語が書かれている。主催者が朗読してくれたのは、別の本だったけど、この物語は有名だから聞き覚えがある。

 


 

 不意に、エシュが視界の隅に入ったのを察知した。隣に立って、机に置かれた本を覗き込んでいる。


「文字は読まないのだっけ?」


 エシュは何も答えなかった。

 それなら、挿絵が珍しくて眺めているのだろうか?


「この国では有名な地底神の絵だ。こっちが、大地の慈母神」


 挿絵を指さし、輪郭をなぞりながら説明する。エシュは黙って聞いていた。その視線が、本から僕の顔へと移る。


「……未だ、お前の呼び名を決めておらぬ」


「ああ、そうだね」


 視線を返しながら、僕は気のない返事をした。呼び名の話を持ちかけた後に提示された案が、再び頭をもたげたせいだ。


 好きなように呼べと口では言ったけど、呼ばれたくない名がいくつかある。例えば、外見を揶揄する差別用語のが、それに該当する。


 あれ以来、自分でも考えてはみたが、納得できるものは思い浮かばなかった。出てくるのは、本名をもじっただけの未練がましい呼び名ばかりだ。


「ここなら名前を探すのに向いているかも」


 僕は、視線を本棚に広げた。

 参考資料に溢れた場で呼び名の話題に触れてきた。期待するなというのは無理だ。


 エシュは少し間を開け、やがて静かに告げた。


「お前は、……ロエル。だ」


 そもそも文字が読めないなら、どれだけ多くの参考資料に囲まれていようとも、素晴らしい案が頭に捻じ込まれる余地はない。

 肩の力が抜けて行くのを感じつつ、不満の代わりに質問を投げかける。


「それを選んだ理由、意味を聞いてもいい?」


 すると、エシュの視線が静かに僕を捕らえた。僕は続ける。


「勿論、理由も意味もないなら、それでも構わない。全部が思い付きの気まぐれ。次の瞬間、泡のように消える顛末を君が望んでいるなら」


 責任を放棄した僕が、それを他人に押し付ける。そんな矛盾を許してもらえるなら、どんなに小さくても意味が欲しい。

 我が侭を言い出せず、物分かりの良い顔で捻くれた言葉をぶつける僕に、エシュは答えた。


「ロエルは、種火を見守る者の名だ」


 顔を上げると、視線が重なった。僕は瞼を伏せ、顎に手を当て、考え込むフリをする。


「それは、ちょっと荷が重いかも」


 なんて言いながら、ふざけてみる。


 聞かれなかったから言わずにいたけど、「エシュ」は火のように赤い癖毛にちなんで付けた呼び名だ。


 それ以上、エシュは何も語らなかった。僕が呼び名を受け入れたと理解したのだろう。


 この呼び名が新しい物語の始まりになる。それだけは、僕も確信していた。


「そろそろ、パンを買って帰ろうか?」

 

 

 

辞書の中から名を見つけ出す時代もありました。


今はAIに相談すれば、いくらでも候補を挙げてくれる現代。音だけで選んだ意味のない名など、恥ずかしくて公表できんよ。


その割りに扱いヒドイが?

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