地底世界の片隅で囁く。それは親愛か、或いは挑発か(間7)
11話の裏側。
人探しを終えたついでに、苦戦を強いられる幼馴染を見ていた高嶺の華ヒロイン。戦闘モードが抜け切らない刺客のリーダー。
そして、《声》に沈む者……。
「お仕事、お疲れ様。ハル」
瓦礫の陰から聞こえてきた柔らかな声と足音に、リーダー格の男が警戒を向けた。疲労を滲ませながら、彼は聞き覚えのある声から心当たりを探り、いつでも動けるように身構える。
「……レナ?」
視線の先で、長身の女が外套のフードを脱いだ。流れる白銀の髪をサッと片手で振り払い、躊躇なく傍らまで歩み寄る。
「一人か? 今この一帯は危険だ。早く戻れ。……いや、俺が街まで送ろう」
相手の身を案じ、提案したが、レナと呼ばれた女は耳を貸さない。幼馴染に再会できた喜びと、負傷が軽度である様子を見た安堵から、表情を緩め、頭を撫でようと手を伸ばす。
緊張が残っていた男は、やや反射的に手を払い除ける。
直後に、やり過ぎを自覚して反省した彼は、それ以上の拒絶をしなかった。
「ねぇ、サハル……」
レナの《声》には、彼の今後を案じる思いが滲んでいた。
「……そんな顔するな。次は、勝つさ」
彼女の声色と表情を読み取り、相手を安心させたい一心で、根拠のない強がりを口にした。それに気づいたレナは、言わんとした言葉を引っ込め、代わりに明るい声で応じる。
「そうね。次は、ちゃんと応援してあげる。『がんばれ、ハル』って」
茶化すレナに、サハルは僅かな間だけ心を乱されるが、すぐに気を引き締めた。
「見ていたなら教えてくれ。アレをどう見る?」
サハルの真剣な声を受けて、レナも真面目に答える。
「身体能力の素地は外見の通りか、それ以上。そこに居るようでいて気配がないのに、干渉はしてくる。言葉も、意図も理解する。そして何より、学習速度が異常ね」
足元の穴を飛び越えながら、彼女は最後に付け加えた。
「でも、良い子よ? 少なくとも、私が見た限りの現状では」
振り返り、呆気に取られている顔を見て笑みを浮かべながら、レナは穴の向こう側へ去っていく。手を貸すつもりでいたサハルは、やり場のなくなった手を乱暴に振り下ろした。
次の瞬間、レナの発した言葉が、彼の中で意味を変えていく。
「……奴と話したのか? それも単独で」
サハルの声が低く、震えた。
「立場ってものを考えろ。お前の代わりはいないんだぞ」
レナは一瞬だけ立ち止まり、肩越しに振り返る。
「あら、怒られちゃった。私だって偶然居合わせたのよ? 気が気じゃなかったんだから」
わざとらしく、くるりと背を向け、穴の向こうへ歩き出す。その背や歩調に、しおらしさを感じさせる反省がないことをサハルは見て取った。
「待て、レヴァナリア。お前がいなくなったら……」
「ハルがいなくなったら、私も困るわ」
被せるように小さく呟き、軽やかに進むレナ。彼女を追うサハルの声と足音が、瓦礫の向こうへ消えていった。
次回、サハルがエシュから「街の見回り、お疲れ様ハル」と呼ばれる。
それは、労い付きの画期的なアダ名が生まれた瞬間であった。
今日から金曜まで、4日連続で投稿します。
金曜日は、いつも通り21時20分の投稿です。




