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【闇堕ち直前】主人公の色なし観察日誌1  作者: 荒屋朔市
秘密の読書会

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29/50

『片割れちゃん』の思い出は埃まみれだけど、貴女の残した手紙が僕を呼ぶ(9-2)

記憶が腐敗する世界で『神話』を読んだ僕は、文字を見ようともしない君を見て、驚きもせずに推理を始めた。



 エシュが僕に手渡したのは、土地代の通達書だった。


 想像していた通り、エシュは字を読めないか、まったく読む気がないのだ。そして、それを僕に隠す気もないらしい。


「これをどこで?」


 エシュは何も答えなかった。その視線が部屋の本棚へ向けられる。

 僕は諦めて通達書に向き直る。記された日付は随分前のものだ。本当に未払いなら、既に住人は強制退去させられて、物品も売り払われているだろう。


 部屋の状態を見た限り、読書会が開かれなくなってから、随分経っているように見える。


 指先で便箋の表面を擦ったが、土地の権利を持つ上層の連中が使う紙に間違いない。覚えのある甘い香りは、この部屋に長く置かれている間に染み付いたキノコ茶のものだろう。

 


 

 何となく、僕は読書会の主催者が使っていた机に視線を向けた。開かれたまま放置された本が一冊。それは誰もが子供の頃に寝物語として読み聞かせられる神話だった。


 しかし、主催者が好んで集めて本棚に並べ、朗読してくれたのは、地上の物語だった。その棚だけが、もぬけの殻になっている。


 彼女は、いつもフードを目深に被り、腕には肘の上まで覆う手袋を嵌めていた。フードに隠れた頭にも、布を巻いているような用心深い人だった。


 しかし、朗読する彼女の背後へ忍び寄り、それを引っ張ってイタズラした奴がいた。だから、一度だけ見たことがある。


 丁寧に編み込まれて結い上げられた艷やかな白銀の髪と、透き通るような肌。少し開かれた瞳を縁取っていた紅い色。


 朗読は中断されて、その日は解散。イタズラをした子供には、説教と掃除や雑用の手伝いが言い渡された。


 その当時は一瞬の出来事に目を奪われ、帰り道も彼女のことが頭を離れなかった。両親とは違う特徴を持つ彼女に対し、安心感を求め、どこかで親しみを強めてもいた。

 


 

 僕自身の肌が白く変色した現状を見ると、彼女の肌も生来の色ではないように思えてならない。


 本好きで物知り、種族が違っても分け隔てなく、子供に対し柔らかな物腰を崩さない女性。思い返せば、彼女が自身の素性を聞かせてくれたことは、一度もなかった。


 どうにかして彼女に会えないだろうか。

 会って話をしたい。

 

 

 

昔の僕を知る場所が今や廃墟。

貴女が残した『手掛り』はラブレターだと信じてる。

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