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【闇堕ち直前】主人公の色なし観察日誌1  作者: 荒屋朔市
秘密の読書会

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28/50

『心の聖地』に土足で踏み入る奴は絶対許さんけど、靴くらい履けよ(9-1)

入って来るんはエエけど、何も壊さんといてよ?



 エシュが追いついてきた。その表情や足取りに変化はない。

 商店街の視察に満足したのだろうか。そして、人混みは平気なのだろうか。


 僕は、そろそろ限界だ。この人混みで周囲に気を配り続けるのも、「心の声」を聞かれ続けるのも。

 本人が徹底して無口だから、言い触らされる危険は低い。それでも、漏洩した場合の危険性は無視できない。

 


 

 埃を被った『世界史』の隣に、『妖精と幻獣の生態』と題された本を見つけた。表紙に施された装飾を指先で、そっとなぞる。読みかけのページが僕を待っているような気がした。


 本を棚に戻し、店主の視線を避けるように、古紙店の裏口へ回る。そこにあるのは、肩をすぼめなければ通れない裏路地だ。


 湿った土の気配に、微かなカビの臭いが混じり合う。喧騒が遠ざかった頃、見慣れた木製の扉が見えた。 


 ここだ。


 定期的に読書会が開催されていた場所。この扉の向こうでは、いつも温かいキノコ茶の香りが漂っていた。小さな子供用の椅子と机が並べられ、主催者の優しい声に耳を傾ける子供たちの光景が鮮明に浮かぶ。


 躊躇いながらも、扉に手を伸ばした。古びた木肌が指先に触れる。軋むような音が温かい記憶を呼び覚ます。傾いた扉が地面に擦れながら、ゆっくりと開いた。


 そこに、かつての賑わいはなかった。


 子供用の机と椅子は埃を被り、カップや皿は片隅に積み上げられている。甘いキノコ茶の香りは失われ、代わりに湿った空気と僅かな埃の臭いが鼻を突く。発光菌ランプも、光りをなくした残りカスが中に放置されたままだ。


 部屋を見渡しながら僕は立ち尽くした。


 目を輝かせ、身を乗り出して朗読に聞き入っていた幼い妹の顔が、脳裏に浮かぶ。読書中に横から難読文字の読み方を聞かれ、教えてやったこともある。

 物覚えが悪くて、忘れてしまうのに……。

 


 

 背後から物音が聞こえた。どう身を捩ったか知らないが、ついて来たらしい。


 何も知らない部外者に、土足で踏み荒らされるのは不快だが、そもそもエシュは靴を履いていない。ここに来て、やっと思い至った僕自身に、衝撃を受けた。


 部屋を見回るエシュの足音には、何の感慨も読み取れない。街を視察したのと同じ様、ただ目新しい景色を観察しているのだろう。


「僕にとっては、大切な場所だったんだ」


 背を向けたまま呟いた。


 以前と変わらず定期的に開催されていれば、今日、この時間のはず。

 


 

 見覚えのある椅子が残っていた。隣で堅焼きビスケットを噛っていた妹は、勉学に励んでいる頃だろうか。どんな思いでいるのだろう。


 部屋の隅から古びた茶器セットを手に取った。埃を払い、指で縁をなぞる。


 気配を感じて顔を上げると、エシュが隣に立っていた。視線に気づいた目が、それを僕へ返す。


「手紙だ。お前宛か?」


 エシュが静かに呟いた。僕の前に差し出してきた手には、確かに手紙らしきものが載せられていた。

 カップを棚へ戻し、それを受け取って視線を落とした。


 可能性に過ぎなかったものが、たった今、確かに決定づけられた。

 

 

 

コイツ裸足やんけ。土足って何やっけ?



明日も投稿します。

月曜は休んで、火曜に11話の裏側を投稿します。


30話は、時間・場所・登場人物が変わり、11話の裏話(ヒロイン登場)です。

火曜〜金曜まで30〜33話を連日投稿します。

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