こんなとこ、いつか出てってやる! そう思ったら身体が勝手に動いていました(間6−1)
家出するなら下見から計画的に。
すぐにカッとして怒り狂う大人を見倣うのは良くありません。ビークールです。
二人して外套を頭からスッポリ被り、妹の手を握って出かけたことがある。
その日、僕らは下層民の住む街、大広場を囲む商店街へ向かった。
色とりどりの古着が並ぶ洋裁屋、見たことのない奇妙な雑貨店、香ばしい串焼きキノコの匂い。
家の中で毎日のように響いていた怒鳴り声や重苦しい沈黙とは違って、この場所は賑やかで笑い声すらも聞こえてくる。
妹は目を丸くしながら、辺りをきょろきょろ見回していた。僕も広がる未知の世界に胸が高鳴るのを感じた。
店主も道行く人たちも異民族だ。違う臭い。違う顔形と体格。
髪の色だけでも、黒、茶、赤、金、白が混じったと様々だ。肌も淡い色から濃い褐色まである。よく見ると目の色まで違う。
外套で顔と手を隠しながら、慎重に周囲を観察していると、隣を歩いていた妹が立ち止まった。
妹が見つめている先を辿って見ると、古紙と布細工を並べた店だった。
痩せた店主の目が妹へ向けられた。
「おや、可愛いお嬢さん、何をお探しかな?」
その声につられ、妹が顔を上げる。それを見た僕は、黙って妹の手を無理に引っぱり、大急ぎで店を離れた。
そんな時だったと思う。妹の手が僕の手からすり抜けた。
「あっ! ……ダメ、押さないで」
消え入りそうな妹の声が背後から聞こえた瞬間、心臓がぎゅっと掴まれた気がした。
振り返っても、妹の姿はどこにもない。視界が歪んで、息が浅くなる。足元がぐらつくような感覚まで迫ってきた。
「あら、迷子かしら?」
どこからか、そんな声が聞こえた。僕を心配そうに見つめる大人たちの視線が集まり出す。
「読書会の子かい?」
僕は何も答えられなかった。喉が張り付いたように、声が出ない。
こんな場所で同族の誰かに見つかり、親に報告されたら、黒い肌の子供が独りでいるのを長命種族嫌いの異種族に知られたら……。
嫌な想像ばかりが浮かぶ。僕は隙間を縫うように人混みをかき分け、妹を探した。
どれほどの距離を移動したのだろう。足が痛くて立ち止まりかけた頃、耳に馴染みのある声が混じって届いた。
路地の角を曲がる。そこは人通りの少ない裏通りで、石畳の隙間から草や苔が覗いていた。
妹を見つけた。外套のフードを目深に被ったまま、しゃがみ込んでいる。
その隣に異民族の特徴を持つ人影があった。大声で何か話している。
そんなに大きい声を出したら、お巡りさんが来ますよ? 良いんですか?
やめてください。
知らない人と口を聞いてはいけないと、キツく言われています。親を呼び出されるのも迷惑です。




