今更ですが自己紹介から、お願いします。えっ? 何も覚えてないんですか?(7−3)
職業、年収、年齢、学歴、あとは趣味とか?
居住区はココとして、独り身っぽいね。
視線を交わすだけで、互いの間に沈黙が満ちる。
体格差もある。言葉の選び方も、動き方も、何もかもが似ても似つかない。それでも、目前の男の視線は、僕の言葉を待っているように見えた。
「……君さ」
一度、言葉を止める。
少しだけ息を整えてから、僕は切り出した。
「君って、名前は、あるの?」
問いに対し、男は少しだけ間を開け、首を傾けた。
一連の仕草には、どことなく見覚えがあるような気がした。動きの癖が、知り合いに似ていたのかも知れない。
「名は持たぬ」
返答は、僕の予想通りだった。
短く素っ気なく返されるような話題でも、目的を遂げるまでは終わらせない。今以上の好機が、また訪れるかが知れないのだから、ここからが本題だ。
「……必要か?」
会話の継続を促すような問いだった。足元に転がる石を道端へ蹴り除く感覚。危うく見落としそうなくらいの仕草に、向こう岸へ続く足場の存在を感じる。
拒絶はされてない。言葉選びや声色は平坦で、煩わしげな態度に見えても、まだ僕は発言を許されている。
少しだけ背筋を伸ばし、改めて問い直す。
「呼び名くらい必要さ。僕が困る。何て呼べばいい?」
「好きなように呼べ」
即答だった。
想定内の会話として、予め用意されていたようだ。一切干渉しないという意思表示。呼ばれることに意味を感じてさえいない。そんな声色だ。
無頓着なところがあるとは理解していたが、期待の大きさに比例して、落胆へ変わっていく速度も速い。
それを表情や態度には出すまいと、慌てて取り繕う。
その間も視線は僕へ向けられ続けている。そんな事実に気づいた。関心事と無関心事がハッキリ区別されているのだ。
「僕のことは、好きに呼んでくれて構わない」
男は瞬きもせずに見つめ、微かな沈黙を挟んだ後で口を開く。
「……シロ?」
すかさず僕は咳払いを返した。
不安と後悔が押し寄せるのを感じつつ、呼吸を整える振りをして、大きく息を吐き出す。唇を噛み口元に指の関節を押し当てながら、視線を泳がせ考えを巡らせる。
呼び易いのが良い。安直すぎるのは、いただけない。
でも、役割や在り方を押し付けるような名前をつけて、後で責任に圧し潰されるのは嫌だ。
頭を悩ませながら、僕は相手の顔を見上げた。
「……エシュ」
見て取れるほど明確な反応はなかった。否定でも肯定でもない無表情だ。
でも、声に出して名を呼ぶ許可を得ることはできた。それで十分だ。
この先、何を選ぶかは本人次第。祈りも願いも呪いになるなら、呼び名に意味なんて要らない。
今、チビって言った?
張っ倒すよ? たぶん、倒せんけど。
悪口に聞こえる呼び名は禁止です。




