捕獲された虫の気持ちが理解できそうな気がした。やっぱり気のせいだった(7−2)
ゴメンね。素直じゃなくて。
赤髪の男は、視線だけを僕へ向けた。その琥珀に自身の姿が捉えられた瞬間、妙な緊張に包まれる。
「起こし……た?」
中途半端な言葉が口から転がり出た。
「……いや」
待っていた側としては長く感じられる沈黙。その後に、喋り無精な男は続けた。
「身を横たえ、『声』に耳を澄ませて居った。お前が何を見つけ、何を知るか……」
淡々とした声色と無表情からは、言葉の他に機嫌の良し悪しさえも読み取れない。
「そう」
監視対象とされているようだ。身の上を嘆いて不気味がれば良いのか、自身に感心が向けられていることを喜べば良いのか、実感もないため理解もできなかった。
ゆっくりした動きで大きな片手が、僕の頬へ伸ばされる。一抹の不安が脳を過ぎり、僅かに身を反らして避けた。礼を欠く対応をすれば、相手の機嫌を損ねてしまう。せめて弁明しなければならない。
でも、何の根拠もない話だ。語るべきか迷いながら視線を相手の顔に落として、僕は口を開く。
「心配は不要だ」
遮るように男は言葉を発した。そのまま肩肘をついて身を起こすと、視線の高さが逆転する。
「其の肌の白さは病ではない。感染もせぬ」
僕が探索と考察に意識を注ぐことで、頭の隅へ押しやっていた不安を男は正確に掬い上げた。再び伸ばされた手が、頬と髪に触れる。その温かな感触を僕は静かに受け入れた。
「治してやれぬ」
あれだけ散々に無茶無謀をやってみせた大男が、どこか無念そうな言葉を呟く。
きっと僕の勘違いだ。しかし、一生この姿で生きねばならないことに落胆すべきはずが、笑いたいような気になった。僕は口元の弛みを隠すために唇を噛む。
あの時の記憶が呼び覚まされる。赤髪を引いた僕の手。壁にぶつかった背中の音。責めるでもなく見つめ返す瞳。
頬に触れていた大きな手が、ゆっくりと耳へ移動していった。耳の縁をなぞる指が、先の尖った形を探り当てる。くすぐったさに、身動ぎしそうになるのを我慢した。
「耳なんて親しい間柄でもない相手には触らせないけど、これでオアイコかな?」
こんなのは非常識だ。
そう思いながらも、髪を梳くように滑る指先が、ほんの少しだけ蟠りも解いてくれそうな気がした。
見違えるほど、腕を上げられましたね。
切っ掛けは存じ上げませんが、その調子で、もう少しだけ撫でて貰ってもイイですか?
とか、言える気がしない……。




