ミステリー始めました。『迷宮探偵ヒラメキ』の推理ショーをご堪能くださいませ(6-6)
直感があれば、論理とか要らないんですよ。
流れと勢いで誤魔化せます。
だって、所詮はファンタジーですもん。
魔法って言っときゃイイんです。
壁画と細長い階段の前を通り過ぎた僕は、更に進んで、湖畔の向こう側へ足を延ばす。
そこで奇妙なキノコを見つけた。
発光する菌類とは異なり、鮮やかな紫色の傘を持ち、表面には粘液。見るからに不気味な雰囲気を放っている。微かに甘く、それでいて、腐敗したような独特の臭いが鼻を突く。
僕は記憶を探りつつ、大急ぎで日記帳を捲った。この匂い。そして、この尖った円錐形。
キノコの成長観察記録を作る際、育成に向いた環境作りと育て方の他にも、種類や特性を調べた。その中には、自由研究に不向きとされる危険な種類も存在した。
幻覚作用のあるキノコだ。確か、意識が混濁し、現実とは異なる光景を見せ、目眩や吐き気などの影響を及ぼす。
足元の小石を拾い、紫色の傘にキズをつけて、しばらく様子を見る。品種名は滲んで読めなくなっていたが、見分ける方法だけは何とか読み取れた。キズが青く変色すれば確定だ。
じわりとキズ口に青みが増していく。
僕は『灼熱沼』へ身を投げる直前に、愛読書を乾いた苔と小石で隠した。そこへ至るよりも前、例えば北門から降りる階段の途中にも、このキノコが自生していたとしたら?
階段を降りた先で見た煮え滾る灼熱の湖。舞い上がる火炎の粒。肌を刺すような熱気。沸々と爆ぜる音。それに、硫黄の臭い。
それら全部が、キノコの幻覚作用によってもたらされた幻だったのではないか? そして、あの赤髪の男の異様な姿。あれも、僕の混乱した意識が作り出した幻覚だったとしたら?
いや、男は確かに実在する。
僕を湖から引き上げ、温かい岩盤の上に運んだのは紛れもない事実だ。僕の肩に外套をかけたのも、豆菓子を置いたのも、ブーツを脱がせてくれたのかは……まだ、ちょっと、ほんの少しだけ信じ難い気がしているけれども。
その判断は少し後に回すとして、『灼熱沼』の光景は、どうだろう?
思考が次々に飛躍していく。
壁画に刻まれた『神の古泉』の伝承と歴史教材の記述。更には、僕が実際に体験した幻覚。
見る者の願望や精神状態に呼応して、全く異なる姿を映し出す。非現実的な伝承が残されるに至った原因は、キノコによる幻覚作用にあるのではないか。
聖地は存在した。そして、それは僕の心の内を鏡のように映し出す不思議な場所だった。
背筋に僅かな震えを覚えながら、僕は朧気な光が溢れる湖を見渡した。
ここは『神の古泉』であると同時に、『灼熱沼』でもあったのだ。
過去と現在、現実と幻覚、そして、生と死。
すべてが、この場所で溶け合う。その分かちがたい真実の狭間に、僕は今、こうして立っているのかも知れない。
お付き合いくださったアナタに感謝を。
地の底より精一杯の祝福を。
よくぞ、ここまで辿り着きましたね。
《声》を聞く男の世界観紹介に始まり、鬱々とした主人公がソレに気づくまで、お付き合いくださった辛抱強いアナタは、もう立派な地底人です。
目を閉じても地底湖が瞼の裏にチラつき、寝起きの頬には壁画の痕が残っていることでしょう。
続きは、キノコ茶をご用意して、お待ちしております。
来月からは、月金の週2投稿させていただきます。




