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【闇堕ち直前】主人公の色なし観察日誌1  作者: 荒屋朔市
主人公覚醒

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16/50

歩き出しましょう。現実さえも置き去りにして。その一歩は人類の何でしたっけ?(6-5)

マッサラな朝日が瞼に染みる。そう思い目を開ければ、光り輝いて見えているのは自分自身でした。

もう逃げられないみたいです。



 茂みの向こうで、明滅する淡い光が誘う。


 足元は柔らかい苔と湿った土で覆われ、時折、硬い岩盤が顔を出す。滴る雫が葉を叩き、その微かな響きさえ、厚い苔に吸い込まれる。

 周囲には不思議なほどの静けさが満ちていた。


 いくらか歩いた先で、地面の一部が穿り返されたような場所を見つけた。近づいて調べてみると、岩の窪みに、毟った苔と小石が敷き詰められている。窪みの付近には植物か何かの青い染み。


 しっかり地面を掴んでいる苔と比べ、毟られた苔は乾いている。その苔と小石の隙間から、岩肌とは異質な何かが覗いていた。


 乾いた苔の一つを拾い上げた途端、思わず目を丸くした。見慣れた古い革表紙の本が、ひっそりと置かれていたのだ。その表紙には見覚えのある銀色の箔押しで、タイトルが刻まれている。


 僕の愛読書だ。表紙の擦れ具合、ページの角に残った小さな折り目の跡にも見覚えがある。


 湿気でページの端は僅かに波打っているが、カビに侵されることなく、ほぼ変わりない。おそらく、北門の向こうで集めた苔が湿気を吸って、本を守ってくれたのだろう。

 僕はそれを抱え、更に先へ進んだ。


 湖畔を一周するつもりで、岩壁に沿って歩く。本の中でしか見たことのない奇妙な植物や生物の形跡を見つける度、立ち止まった。


 これほど多様な生命が息づいているのに、存在さえ知らなかった。その事実だけでも、変な驚きと感心を覚える。

 


 

 それは半周ほど歩いた辺りだっただろうか。


 岩壁に人工的な加工が施された場所へ行き着いた。歴史を感じさせる壁画が掘り込まれている。


 壁の凹凸を指先で、そっと触れてみた。長年の風化で摩耗し、欠けた箇所がいくつもある。そもそも随分古い時代の字体であるために、読めない文字が多かった。


「其は煌々と輝く。人々の祈りに目覚め、声に導かれて、厄災と混沌の世に終焉をもたらす」


 それでも内容を理解できたのは、見覚えがあったからだ。

 歴史教材として充てがわれた本に、同じ字体の原文と現代語訳が併記されていた。うろ覚えな記憶からの引用と補足だが、大筋は間違っていないはずだ。


 祖先が遺した伝承。要約すれば、人々の信仰心が、この地に神を降ろし、困難を退ける礎となる。という教えだ。


 神が伝説や童話の中だけの存在となった現代で、子供向け教材として訳せば、心を清く正しく保ちなさい。そうすれば、他人からの支援を得やすくなりますよ。

 と、こうなるのだから不思議だ。


 太古の昔には実在したとされる神。

 どのような姿形で顕現し、神格を有するに相応しい権能で、厄災から人々を救ったのだろうか?

 


 

 壁画の隣には、上へ伸びる細長い階段があった。これも、かなり古い造りで、どこか妙に見覚えがある。


 この先へ進めば、僕の知る場所へ帰れるだろうか?

 

 

 

見つけたのは、過去が示す道標でした。

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