おはようございます。お天気ですか?(6-1)
ええ。ここをキテンに再起に元気に頑張ります。あれ今、テンキって言いました?
水底へ沈むように、意識の境界が揺らめいていた。
柔らかな温もりが全身を包み、微かな水音が耳元で囁く。それは、遠い日の記憶の残滓か、あるいは夢の続きか。
そのまどろみの中に、確かに感じ取れる気配があった。
慣れ親しんだ心地よい旋律のような温かさ。その持ち主が誰か、僕は知っている。
会いに来てくれた。どれほど待ち焦がれても、指定された日時に、指定された場所でしか会えない人。最後に会ったのは、いつだっただろうか。そんなこと今は、どうだっていい。
尋ねたいことがある。聞いてほしい話も、たくさんある。きっと、順番にねって笑われてしまうけれど、それでも遮らずに話を聞いてくれる。
その気配が静かに遠ざかっていく。
まだ何も話せていない。それなのに、柔らかく包み込むような手の温もりも、ゆったりと流れるような旋律も。
胸の奥が、ざわめき出す。
イヤだ。行かないで。こんなところに置き去りにしないで。心の中で僕は叫んでいた。
邪魔もしないし、静かに待てるから。
呼び止めれば、一度だけ僕を振り返ってくれる。だけど、その顔は、いつも悲しげで……。
僕は思わず瞼を持ち上げ、身を起こした。
見渡せる限り探したが、周囲には誰の姿もなかった。小さく息を吐く。
何年も前の記憶。幼かった頃の夢だ。
妹にせがまれ、口止めを約束させる目的で連れて行ったこともある「秘密の読書会」。あの頃は、子供向けの物語ばかり読んでいたけど……。
主催者は本が大好きな優しい女性だった。だけど、僕のことなんか、とっくに忘れているだろう。
何故、そんな夢を見たのか、それは重要ではない。
ここは、どこだ?
僕は何故、どうやって、ここへ来たのだろう?
ここは地底です。空模様なんて、ありませんよ。
元気もありません。




