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流転の國 vol.2 〜闇堕ち編〜  作者: 川口冬至夜


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第55話 永遠の約束

後半のルーリと王子の会話は、前作第十九話のルーリとマヤリィの会話に酷似しています。

ぜひ、読み比べを。



シャドーレが生後まもない我が子を遺してこの世を去ってから15年。

15歳になった王子は父の跡を継いで、来年には即位することが決まっている。

さすがはシャドーレとダークの子どもと言うべきか、幼い頃から黒魔術の申し子と呼ばれてきた王子は、本人の希望により流転の國に「留学」することになった。期間はおよそ半年。

「流転の國には、桜色の都一番と言われた亡き母上をも凌ぐという魔術師がいると聞いている。私は、その者に会ってみたいのだ。そして、出来れば教えを請いたいと思っている」

15歳ながら、既に国王の風格が漂っている。

身長は160cm。18歳までには母上を超えてみせる…!と本人は言っている。

「流転の國ならば問題はあるまい。お前の好きなようにせよ」

父親のダークは王子に甘い。

乳母も側近も王子に甘い。

甘やかされて育ったにもかかわらず、王子は自分の立場を、自分の将来を、冷静に見据えることの出来る少年に育っていた。部屋には、母シャドーレが遺した、桜色の都の国づくりに関する書類が大切に保管されている。王子は母の思いを受け継ぎ、将来に渡って、自由で平等な桜色の都を維持していきたいと考えている。


「ご無沙汰しております、ルーリ様」

王子が流転の國へ旅立つ日に『転移』を使って迎えに現れたのは、流転の國の主その人だった。

「流転の國の主様直々にお迎えに来て下さるとは、有り難き幸せにございます」

王子がそう言って頭を下げる。

「とんでもないことですわ。桜色の都の大切な王子様をお預かりするのですから、こちらとしても最大限の礼儀を尽くすのは当然のことにございます」

淡い桜色のドレスを身に纏ったルーリがお辞儀をすると、その場にいる者全てがその美しさに魅了される。

「ルーリ様、此度はこちらまで足を運んで頂き、恐悦至極に存じます。至らない点も多いかと思いますが、何卒我が息子をよろしくお願い申し上げます。流転の國の皆様にも、よろしくお伝え下さいませ」

ダークがそう言って頭を下げる。

「承知しました、国王陛下。責任を持って王子様をお預かりさせて頂くことをお約束致しますわ」

ルーリが微笑む。あの日から15年の歳月が流れているというのに、その美貌は全く変わりないように見える。

「それでは、参りましょうか」

そう言って、ルーリは『長距離転移』の魔法陣を展開する。いつ見ても難解で複雑で美しい魔法陣だと、ダークは思う。

「失礼致します、ルーリ様」

王子が魔法陣の中に足を踏み入れる。

『長距離転移』は初めてだ。

「父上、行って参ります」

「ああ。くれぐれも失礼のないようにな」

「はい!」

王子が頭を下げる。

「それでは、ごきげんよう。国王陛下、そして桜色の都の皆様」

ルーリは美しい所作でお辞儀をすると、すぐに『転移』を発動した。

王子が次に目を開けた時には、そこは流転の國の玉座の間。

「ここが…流転の國……!」

「王子様、我が流転の國へようこそ」

隣でルーリが微笑んでいる。

「ルーリ様…!こ、これからしばらくの間、お世話になります…!」

王子はそう言って頭を下げる。そして、

「あ、あの…ルーリ様……」

「どうかなさいましたか?王子様」

ルーリが微笑みながら首を傾げる。

その様子は息を呑むほど美しい。

王子はルーリの美貌に見とれて頬を紅潮させながら、

「出来ましたら…こ、こちらでは、名前で呼んで下さると…嬉しいです」

桜色の都で見た時とは打って変わって15歳の少年らしい表情になる王子。

「畏まりました。それでは…マヤリー様」

「は、はいっ!」

「これからよろしくお願い致します」

「はいっ!こちらこそ…!」

《『透明化』解くの忘れちゃった〜…》

《ネクロ様…いつになったらタイミングを読めるようになるのですか?》

玉座の間の片隅で待機していたネクロは、何やら王子がルーリと二人で話したがっているのを感じて、咄嗟に『透明化』してしまった。隣にいたシロマはそれに巻き込まれた。二人は今、念話で会話している。

「これから配下の者達を呼びますから、少々お待ち下さいませ、マヤリー様」

「はいっ!畏まりました、ルーリ様…!」

《ネクロ、シロマ、そこにいるのは分かっている。さっさと出てこい!》

《はっ!》

何事もなかったかのように現れる二人。

「お初にお目にかかります。私はシロマ。流転の國の主様に仕える白魔術師にございます」

彼女は普通の人間なので、普通に歳をとる。

「初めまして。本日よりお世話になります、桜色の都のマヤリーと申します。よろしくお願い致します」

「こちらはネクロ。最上位の黒魔術師にして、鉄壁のネクロマンサーと呼ばれる、流転の國最強の魔力を持つ魔術師ですわ」

ネクロ本人が名乗る前にルーリが紹介する。

「貴方様が…最上位の黒魔術のみならず禁術をも使いこなすという魔術師様でございますか!」

「いかにも。私が流転の國を代表する黒魔術師、ネクロにございます。マヤリー様、お会い出来る日を楽しみにしておりましたぞ」

念の為『隠遁』のローブを被り、クロネちゃんを封印して、ネクロが挨拶する。

「はっ!ネクロ様、お会い出来て光栄に存じます!桜色の都一と言われた我が母上をも凌ぐネクロ様の黒魔術を、ぜひ私に伝授して下さいませ!」

「はっ。畏まりました、マヤリー様」

ルーリはそのやり取りを聞きながら、複雑な気持ちを抱えていた。

(マヤリー様、か…。綴りは違うが、我が國のマヤリィ様と同じ名前…。いざ呼ぶとなると複雑な気分だな…)

マヤリィは二度甦り、二度葬られた。

それでも、今もルーリの夢の中に出てくるのは、優しく美しいマヤリィだった。

シャドーレが出産の苦しみに耐えながら呼んだというマヤリィの名前。その場にいた白魔術師からそれを聞いたダークは、ルーリの許可を得て、綴りだけを変えた同じ名前を王子に付けたのだった。桜色の都においては、今も宙色の大魔術師マヤリィは伝説と讃えられる人物である。…誰も真相を知らないから。

挨拶を終えると、ルーリは王子を部屋まで案内する。

「流転の國にいらっしゃる間はこちらのお部屋をお使い下さい。何か必要な物がありましたらすぐに用意させますので、何でもお申し付け下さいませ」

「あ、あの…ルーリ様…。貴女様も魔術師でいらっしゃるのですよね?」

実はいまだにダークも知らない彼女の専門を、ずっと王子は聞きたいと思っていた。

「ええ。私の専門は雷系統魔術。『流転の閃光』と呼ばれる、いわばマジックアイテムのような物が我が身に宿っております」

「雷系統魔術…!」

意外な返事に、王子は驚く。

雷系統といえば、攻撃特化の魔術である。

「それと、もう一つ。『魅惑』魔術を得意としております」

「『魅惑』!?そ、それは常時発動なさっているものなのでしょうか!?」

それを聞いて、王子はさらに驚く。

「とんでもないですわ。雷系統魔術と同じく『魅惑』も敵に対して発動する魔術にございます。味方に使役することは致しません」

嘘でしょ。使いまくってるでしょ。

「で、では…私は貴女様の魔術にかかっているのではなく……」

王子は色白の肌を赤く染めて、

「貴女様に…恋をしてしまったようです…」

「えっ……」

(マジかよ。え?なんで?)

ルーリさん、心の声は口に出さないでね。

さっきから王子の様子が都にいた時と違うとは思っていたが、なんでこうなるんだ?

「ルーリ様、好きです。きっと、初めて貴女様にお会いした時から…!」

それって、シャドーレの葬儀の時よね。

美しいマヤリー王子にいきなり告白されて困惑するルーリ。

「マヤリー様…。貴方と私では、あまりに年齢が離れすぎております。それに…私は普通の人間ではございません」

「年齢など関係ございません!たとえ貴女様が人間でなくとも私は…!」

(シャドーレ、どうしたらいい?このまま王子を襲っても、許してくれるか?)

ルーリは本気で困っているが、夢魔としては目の前の少年を襲いたくなってきた。

ルーリさん、そういう所だぞ。

その時、王子が不思議そうな顔をする。

「貴女様が…普通の人間ではない?」

(しまった。まぁ、仕方ないな…)

「ええ。先ほど私の専門は雷系統魔術と『魅惑』魔術であるとお伝え致しました」

「はい。確かに、伺いました」

「マヤリー様。『魅惑』魔術を使えるのは、夢魔と呼ばれる悪魔種だけなのですよ…!」

ルーリはそう言って軽々とマヤリーを抱き上げ、第2会議室に『転移』した。

「ルーリ様…!」

「国王陛下に殺される覚悟で貴方を襲わせて頂きますわ。『夢魔変化』」

ちょっと!展開早すぎだよ、ルーリさん!

先ほどの優美な桜色のドレスとは違い、露出度の高い真っ赤なドレスを身に纏った、蠱惑的な夢魔の姿に変貌したルーリに押し倒されるマヤリー王子。

しかし、彼は動じない。

「ルーリ様…!ずっと、貴女とこうして二人きりになりたかった。貴女が桜色の都にいらっしゃるたびに、僕はいつかルーリ様をお妃に迎えたいと思っておりました」

王子は『夢魔変化』に驚くこともなく、夢見心地でルーリに脱がされる。

「ルーリ様…なんて美しい…!」

王子はむしろこの展開を喜んでいる。

「マヤリー様。貴方が私に恋をしたなんておっしゃるからいけないんですよ?ファーストキスも、初めてのセックスも、全てこの私が教えて差し上げましょう」

王子、貴方は黒魔術を勉強しに来たのでは…?

「んっ……」

マヤリーの唇を奪うルーリ。

(柔らかい唇…。若い身体…。いいねぇ)

サキュバスの血が騒ぐ。さすがのルーリも、若く美しい王子に告白されては、身体が黙っていない。赤いドレスをさっさと脱ぐと、豊満な乳房をあらわにする。

「申し上げましたでしょう?私は夢魔。…マヤリー様。貴方の全てを頂きます」

色っぽい声で、王子の耳元でささやく。

「っ…ルーリ様…!貴女の乳房…柔らかい…」

母を知らない王子はルーリの乳房に飛び付き赤子のように乳首をしゃぶる。

「んっ……」

予想外のことにルーリもつい感じてしまう。

愛液があふれ始める。

「マヤリー様、大きくなられましたね」

そう言って王子の男根をまさぐる。そして、優しく愛撫しながら、自分の中に挿入する。

「マヤリー様、これが女の身体なのですよ」

そう言いながらキスをする。

舌を絡め、甘く激しいキスをする。

「ルーリ様……」

王子は蕩けそうな顔で言う。

「僕は…貴女を愛しています」

『魅惑』をかけられ『夢魔変化』を目の当たりにして、彼女に自分の全てを捧げた王子。

それでも彼は真面目な顔で愛を告げる。

「将来、貴女と結婚したい。…駄目ですか?」

「私は貴方よりもかなり年上なのですよ?」

「…だとしても、貴女が姉上で、僕が弟と名乗ってもいけそうな年齢差に見えます」

王子は怯まない。

「貴女が産まれたばかりの僕を抱っこして下さったということは知っています。そして、その頃から変わらぬ美貌であるということも。一体、お幾つになられるのですか?」

ルーリは少年の無邪気な問いに答えないわけにはいかなかった。

「わ、私は64にございます」

王子はルーリを見つめて、

「教えて下さってありがとうございます。絶世の美女に年齢を聞くなんて、いけないことをしました」

そう言って王子はルーリに抱き付く。

「こんなに綺麗な64歳、初めて見ました」

「…勿体ないお言葉にございます。されど、貴方は15歳。まだ本当にお若い。…私も、マヤリー様のように若かったら…綺麗だったら…王妃様になれたかもしれませんね」

改めて自分の年齢を顧みると切ないような悔しいような気分になるルーリ。そういえば、あの御方に歳を聞かれた時も言うのを躊躇したっけ…。そんなことを考えていると、

「ルーリ様、貴女様はご自分で分かっていらっしゃらないのですか?」

突然、マヤリーが言う。

「えっ…」

「僕は貴女様のことを世界一の美女だと思っています。年齢なんか関係ないんです」

マヤリーの純粋な言葉がルーリの複雑な感情をかき消そうとする。

「貴女様に出逢えて、よかった…」

王子の輝く瞳がルーリを真っ直ぐに見ている。

しかし、ルーリは思わず目を逸らしてしまう。

(なんだ、この違和感は……)

先程から感じていたのだ。

(これは、彼から聞くべき言葉じゃない……)

ルーリは戸惑う。

(何かが、違う……。いや、違わない)

彼女の姿が脳裏にちらつく。

(私は……この場面を知っている……)


どこかで耳にした台詞。

遥か昔に交わした言葉。

永遠の愛を誓った記憶。

時を超えた二人の約束。



「マヤリー様……」

ルーリは目の前にいる金髪の少年を見る。

よく見れば、往時のマヤリィと同じ髪型をしている。華奢な身体つきをしており、背丈も同じくらいだろう。

はい。王子もマヤリィと同じく160cmです。

「マヤリィ様……!」

ルーリは彼の名を…いや、彼女の名を呼ぶ。

「マヤリィ様……!ルーリは…ルーリは、今も貴女様のことを愛しています…!!」

「ルーリ様…?」

王子が不思議そうにルーリを見る。

「ああ、マヤリィ様ぁ…!!」

ルーリは夢中で目の前の少年を抱きしめる。

「どうかルーリをお許し下さいませ…!」

「一体どうなさったのですか?ルーリ様…」

涙を流しながら少年を抱きしめるルーリ。

確かにルーリは自分の名を呼んでいるはずなのに、王子は違和感を覚えて困惑する。

「ルーリ様、大丈夫ですか…?」

「マヤリィ様ぁ……!」

なおもルーリは涙を流し続ける。

泣きながら、愛しい女性の名を呼ぶルーリ。

「貴女様に……会いたい…………」

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