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流転の國 vol.2 〜闇堕ち編〜  作者: 川口冬至夜


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第54話

マヤリィ様…。

シャドーレは、役目を果たせたのでしょうか…。

シャドーレ王亡き後、桜色の都の国王としてダークが正式に即位した。

アカリが言っていた通り、シャドーレの執務室には、桜色の都のこれからの国づくりに関する書類が遺されていた。

(シャドーレ、どうか見守っていてくれ…!)

愛する妻が目指していた、桜色の都の美しき未来を築く為、ダークは決意を新たにするのだった。


あの日、シャドーレが自らの命と引き換えに遺した王子は健やかに育っていた。

過労によって一時的に魔力がなくなった際に授かった命であることをシャドーレは分かっていた。それと同時に、自分の魔力値が元に戻れば、お腹の子どもに何らかの影響を及ぼすのではないかと危惧していた。

その為、国王としての仕事はこなしつつも、魔術を使うことは控えていた。それでも、

(本当に大丈夫かしら。この子は無事に産まれてきてくれるの…?)

時折、不安に襲われた。王宮に仕える白魔術師の話では、順調に育っているとのことだったが、やはり不安は消えなかった。

そして、出産の時を迎えた。難産だった。

シャドーレは長時間に及ぶ出産の痛みと苦しみに体力を消耗し、思わず『体力強化』魔術を発動しようとした。…しかし、その瞬間、今まさに産まれようとしている子どもの生命力が弱まっていくのを直感した。まるで母親の魔力の強さにあてられて、力を失っていくような、そんな感覚だった。

(シャドーレ、耐えるのよ。今、魔術を発動してはいけませんわ…!)

体力を消耗した身体で無意識に発動してしまいそうになる魔術を抑え込む。それは思った以上に難しかった。

(この子は私の、そして、桜色の都の希望…!ここで私の命が尽きるとしても、この子だけは無事に産まれてきて欲しい…)

魔力値を下げる。同時に、体力も落ちる。

「マヤリィ様……」

シャドーレは祈るようにその名を呼ぶ。

なぜかこんな時に思い出すのは、部屋の外で待っているダークでもなく、流転の國のミノリでもなく、ミノリ・アルバでもなく、マヤリィの姿だった。

「マヤリィ様……」

(私は…役目を果たせたのでしょうか…)

意識が遠のく。命の時間が終わろうとしているのを静かに感じている。

それでも、シャドーレは力を振り絞る。

(お願い…私の赤ちゃん…出てきて…)

全て失くしても、この子だけは…!

シャドーレは目を閉じ、耳を澄ます。

一瞬の静寂。

その直後、声が聞こえる。

苦しみの中で待ち続けた、産声が聞こえる。

「シャドーレ様!お産まれになりました!!」

「王子様にございます!!」

王宮の白魔術師は、赤子を抱き上げ、すぐにシャドーレの枕元へ連れていく。

「シャドーレ様、貴女様がお産みになられた王子様にございます」

産まれたばかりの赤子を見て、シャドーレはすぐにでも抱きたかった。けれど、身体がまだ動かない。

「よかった…元気に、産まれてきてくれて…。ずっと、貴方の顔を見たかったのよ…」

そう言って、シャドーレは微笑む。

(もう、大丈夫…)

無事に産まれてきた我が子を見て、今生きている自分に気付いて、彼女は言う。

「抱っこしたいわ…私の…可愛い子…」

「王子様、母上様にございますよ」

シャドーレは手を伸ばす。

「産まれてきてくれて…ありがとう」

母親の顔で、シャドーレは優しく微笑む。

直後。

赤子に向かって伸ばしていた手が力を失う。

赤子を抱こうとしていたその手が力を失う。

「シャドーレ様!?」

その時、既にシャドーレの意識はなかった。

我が子を抱こうと伸ばした手を広げたまま、力なく横たわっている。

彼女の異変に気付き、その場にいた者達は迅速に、そして出来る限りの手を尽くした。

しかし、シャドーレが目覚めることは二度となかった。彼女の命の時間は尽きた。

我が子を抱くこともなく、静かに旅立った。


息を引き取ったシャドーレは、愛しい我が子を見た時のまま、微笑んでいた。

とても幸せそうな、穏やかな顔だった。


純白のドレスを着せるのは、亡くなった女性を美しく飾って見送るという、昔から伝わる桜色の都の伝統。

沢山の花々に囲まれ、沢山の人々に囲まれ、シャドーレは優しい微笑みをたたえたまま、この世に永遠の別れを告げた。

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