第53話
鍵の魔術は解かれ、その中身が明らかになる。
されど、贈り主も受け取るべき人物も既にこの世にはいなかった…。
鍵の魔術がかけられた箱の中には高級なネックレスと、メッセージカードが入っていた。
今までに見たこともない美しいジュエリー。
見るからに特別な一品である。
ダークよ、シャドーレ様を見習え。
「ミノリとは…少し前までシャドーレの側近を務めていたという若い魔術師のことか…?」
ダークはメッセージカードを読んで、これがシャドーレからミノリへプレゼントする予定のネックレスだったことを知る。
「魔力事故で死んだという白魔術師、ミノリ・アルバのことか…。よほどこの者を可愛がっていたんだな、シャドーレ」
ダークは知らないが、シャドーレとミノリは身体の関係まで持っていた。彼女と本当に結ばれる為に『性転換』魔術を検討していたほどである。
「ミノリ・アルバ…。アルバ…?聞いたことのある名字だな…」
ダークは考える。
すぐに彼女の顔が浮かぶ。
「そうか…アカリもアルバ家の娘だったな」
白魔術師として国王に仕えていたミノリとは違い、アカリは王宮のメイドである。
ダークは、一介のメイドに過ぎない彼女のことをシャドーレが時折気にかけ、様子を見守っていたことを思い出す。
そういえば、シャドーレが亡くなった直後、真っ先に駆け付け、非礼を詫びながら、陛下のお姿を見たいと泣いていたメイドは彼女だった。ダークは戸惑ったが、その忠誠心に免じて、シャドーレの傍に来ることを許した。
「国王陛下は、これからこの社会は変わっていくとおっしゃっていました。私は陛下が目指される桜色の都の未来を見届けたい一心で王宮に参りました。…ダーク様。この先、桜色の都はどうなってしまうのでしょうか…?」
正直な話、ダークはそれまでシャドーレが目指す国づくりというのがどのようなものなのか、全く分かっていなかった。
「お前は、国王陛下が桜色の都をどんな国にしたいと思っていらっしゃったのか、詳しく知っているのか?」
「はっ。少しばかりではございますが、伺ったことがあります。もう既にその骨組みが出来上がりつつあることも、伺っております」
アカリは跪いて、ダークの質問に答えた。
「そうか。では、きっと陛下の執務室にはそれに関する書類などもあるのだろうな」
ダークがそう言うと、アカリは目を輝かせて頷いた。
「はっ。…あ、あの…大変不躾な質問をお許し頂きたいのですが…。シャドーレ様亡き今、これからこの国を率いていくことになるのはダーク様にございますよね?」
大変不躾な質問だが、その必死な顔を見て、ダークも一生懸命考えて答える。
「…恐らく、そういうことになるだろう。アカリ、教えてくれ。もし、この先 俺が国王を務めることになるのなら、シャドーレ…様の目指していた国づくりを引き継ぎたいと思う。その為にも、お前が彼女から直接聞いた話を俺に聞かせてくれないか?…勿論、全て終わって落ち着いた後でな」
その時、ダークは愛する妻の遺志を継ぐことが出来るのは自分しかいないと思った。
偉大なるシャドーレ王の伴侶に落ち着いたことに安心し、今まで公務に携わってこなかったことを悔やむダーク。しかし、今からでも遅くはない。
「…アカリ。お前のお陰で陛下の遺志を継ぐことが出来そうだ」
果てしない悲しみの中、僅かな希望が見えた気がした。
ダークは目の前の箱に意識を戻す。
シャドーレが鍵の魔術をかけてまで大切にしまっておいたネックレス。これは、アカリに渡すべきだろう。
「それに、まだシャドーレから直接聞いたという桜色の都の未来の話も詳しく聞いていなかったしな…」
そう呟くと、ダークはアカリを呼び出す。
「彼女の忠誠心に報いる為にシャドーレ王が用意していた物だ。残念なことに、ミノリはこれを受け取る前に亡くなってしまったようだが…。せめて姉であるお前が持っていてくれ」
ミノリのネックレスが入った箱を手渡され、その中身を見たアカリは、しばらく何も言うことが出来ずに泣いていた。
メッセージカードには、
【大切なミノリへ。いつも私の傍にいてくれてありがとう。これは私の心からの贈り物だ。どうか受け取って欲しい。 シャドーレ】
シャドーレの美しい直筆でそう書かれていた。




