第51話
「お帰りなさいませ、ご主人様」
流転の國に帰還したルーリ。
玉座の間でご主人様を待っていたのはネクロとシロマだった。
「ずっとここで待機していたのか。…二人共、ご苦労だった」
「勿体ないお言葉にございます、ご主人様」
二人は跪き、頭を下げる。
「…シャドーレ様のご葬儀は、いかがでございましたか?」
「つつがなく終わった。…シャドーレは立派な棺の中で、沢山の綺麗な花々に囲まれて眠っていたよ。純白のドレスを着て、優しい顔をして眠っていた。…王子様は、シャドーレに似て美しい子だった…」
憂いを帯びた瞳でルーリは言う。
二人はその言葉を聞きながらも、主の美しさを改めて目の当たりにして、ため息が出そうになる。それほどルーリの喪服姿は麗しい。さすがに不謹慎なので口には出さないが。
「シャドーレは我が子を抱くこともなく、逝ってしまったと聞いた。あんなに楽しみにしていたというのに…。王子様が健やかに育っていることがせめてもの救いだな」
ルーリは悲しそうに微笑むと、
「ダークが私に王子様を抱かせてくれたが、その後なかなか私から離れないのだ。てっきり泣かれると思ったのだがな」
「…まぁ、ルーリ様は見た目だけなら女神様ですからな」
敢えてその場の空気を読まないネクロの言葉に、沈んだ雰囲気が少しだけ和らぐ。
「美しいルーリ様に、王子様も魅了されてしまったのではないでしょうか」
シロマまでそんなことを言う。
「言っておくが『魅惑』はかけてないからな」
ルーリの言葉に、二人は微笑む。
「シャドーレ様…素敵な御方にございました…」
ネクロがシャドーレに思いを馳せる。
「ええ。強く美しい女性であられました…」
シロマもシャドーレの姿を思い出している。
「シャドーレは…幸せだったのかな…」
ルーリはその答えを知っている。それでも、彼女の早すぎる死を嘆かずにはいられない。
暫しの沈黙の後。
「ご主人様、お疲れでございましょ〜?そろそろお部屋に戻りませんか~?」
ネクロver.クロネ。
わざと明るい口調で話しかける。
「私なら大丈夫だ。ありがとう、ネクロ」
ルーリはそう言って微笑んでみせると、二人を連れて玉座の間を出る。
「…では、衣装部屋に喪服一式を置いて、着替えてから部屋に戻るとするか」
独り言のように呟くと、ルーリは纏めていた髪をほどく。
輝くように美しいブロンドの髪が窮屈な髪型から解き放たれ、流れるように広がってゆく。
それを見て、二人は思わず息を呑む。
(ルーリ様…やはり貴女様はこの上なく美しい人。きっと、宇宙で一番…)
シロマは時を忘れて見とれている。
(ご主人様…!ネクロは永遠に貴女様の魅惑にかかっていたいです…)
ネクロは今、自分の頬が紅潮していることに気付かないでいる。
微笑み一つで誰をも魅了してしまう女性。
纏め髪をほどいただけで絵になるご主人様。
しかし、本人にその自覚があるのかどうかは定かではない。誰よりも美しく、誰よりもおしゃれで、誰よりもセンスがいい。それは確かなのだが、普段の彼女は実にあっけらかんとしている。サキュバスの常識を覆すような喋り方をする。それもまた彼女の魅力の一つなのかもしれないが。
「やれやれ。髪を纏めるのは苦手だ」
ルーリはそう言って髪留めをネクロに渡し、黒真珠のネックレスを外してシロマに渡す。
かと思えば、
「ネクロ。シロマ。今夜は私の部屋に来てくれないか?」
急にそんなことを言い出す。
「今夜は襲わないからさ。頼む」
そう言って微笑むルーリに、
「分かりました、ご主人様〜」
「たまには、私を襲って下さってもよろしいのですよ?ルーリ様」
二人はそれぞれに返事をする。
それを聞いてルーリは嬉しそうに笑う。
一人ではとても越せそうになかった寂しい夜が女子会に変わる。
ルーリはネクロとシロマと共に、シャドーレと過ごした日々の思い出話をするのだった。




