第47話
忘却魔術をかけたことによって眠り続けるミノリ。
今は見守るしかないと、ルーリは判断します…。
『鑑定』によって、ミノリが『忘却』を発動したという所までは判明している。
「しかし、今のミノリがどこまで覚えているのかは分からないな」
皆はミノリの部屋に移動すると、微動だにせず眠り続けるミノリを見守った。
「忘却魔術の副作用で眠っている以上、無理に覚醒させるのは非常に危険ですな」
可愛い声で藍髪縦ロールの見習いメイドが言う。
「それに、この状況から察するに、ミノリ様はマヤリィ様が亡くなられたことさえ忘却している可能性がありますぞ」
「た、確かにな…」
姿も違うし、声も違う。なのに喋り方は元に戻った。ルーリは突っ込みたいのを我慢するが、つい笑ってしまいそうになる。
しかし、突っ込みたい者は他にもいた。
「ネクロ様が…ネクロ様に戻られた…?」
「何を言ってるの、ユキ?」
その姿と喋り方のギャップに混乱しているユキを見て、バイオが笑う。それを見て、ルーリもつられて笑ってしまう。
ネクロは皆が笑っているのを見て、自分も笑い出しそうになりながら、
「あら?こっちの喋り方の方がいいですか~?…どちらにせよ『変化』は解きませぬぞ」
「では、喋り方ではなく、クロネちゃんの声に慣れるしかなさそうですね…」
シロマは平静を装って言うが、彼女の後ろに控えているダイヤモンドロックが人知れず『精神安定化』魔術を発動していた。
「クロネちゃんの声…」
シロマの言葉に一同は再び笑う。
「もう!非常事態だというのに~。皆様そろそろ真面目に考えて下さいませ〜」
「そもそもの元凶はお前だ、ネクロ」
「いえ、クロネを作ったルーリ様が元凶です」
ひとしきり笑った後、皆は再びミノリと向き合う。
「ネクロ様がおっしゃるように、ミノリ様が忘却魔術をかけたことによって眠っておられる以上『強制覚醒』を使うことは出来ません」
シロマが言う。
「忘却魔術は消した記憶の期間が長いほど、意識を失っている時間も長くなるんだったな?」
「はい」
「明日の朝にでも目覚めてくれればいいが…この様子だと、本当にマヤリィ様ご存命の時代まで遡ってしまっているかもしれない」
ルーリは頭を抱える。
「現段階では、手の施しようがありませんな」
ネクロが言う。皆も力なく頷く。
「…では、これからのことを考えるしかなさそうだな」
ルーリはミノリの方を心配そうに見ると、
「ひとまず、ミノリの部屋に結界を張りたいと思う。これは、皆を守る為にもミノリを守る為にも必要なことだ。…それから、彼女には申し訳ないが、常にこの部屋の中を確認出来る状態にしたい。結界を張ると共に『記録』魔術を仕込んでおく」
監視カメラみたいな感じかな。
「そして、ミノリが目覚めた時、最初に声をかける者を決めたい。出来れば私以外でな。…目覚めてすぐに私の顔を見たら、最悪フラッシュバックを起こす危険さえあるからな」
「それは、私とて同じことです〜」
「お前を見たらフラッシュバックどころの騒ぎじゃなくなる。…ネクロは出入り禁止だな」
「えぇ〜?…仕方ありませんね~、ではその時は『隠遁』のローブを着て…」
その時、ネクロの頭を『鉄壁の細枝』が叩く。
「いい加減にしろ。…ルーリ、ネクロは放っておいて話を進めてくれ」
「すまないな、細枝。お前がネクロの傍にいてくれて、色々と助かるよ」
「細枝言うな」
ユキは突然喋り始めたネクロのマジックアイテムに驚いていたが、すぐにルーリの前に跪き、
「ご主人様。畏れながら、お目覚めになられたミノリ様に最初に声をかけるお役目、このわたくしに任せて頂けないでしょうか?…わたくしは流転の國に顕現した時のミノリ様を存じ上げております。いざとなれば『変化』を使い、ミノリ様にお声がけしたいと思うのですが、いかがでございましょうか?」
確かに、最初に声をかける者として、ユキ以上の適任者はいないかもしれない。
「…分かった。全てお前に任せよう。ミノリの記憶がどこまで遡っていようと、ユキの存在を知らないはずはないからな。…ところで、再び『変化』を使えるようになったのか?」
「はっ。いつかお役に立てる日が来ることもあるかと思いまして、再び習得致しました」
「そうか、よくやった。これで安心だな。…ユキ、よろしく頼む」
「はっ。ご主人様のご期待に応えられますよう、力を尽くすことをお約束致します」
ユキは跪いたまま、深く頭を下げる。
ルーリは真面目な顔で頷くと、
「ミノリの部屋の様子は皆が確認出来るようにしておくつもりだ。時間を決めて、見守っていきたいと思っている。…まぁ、彼女が目を覚ませば『魔力探知』に引っかかるだろうがな」
そう言ってネクロを見る。
「はっ。常に発動しておりますゆえ、その点は皆様ご安心下され」
クロネちゃんの声で頼もしいことを言う。
「…さて、それではミノリの部屋に記録魔術をかけ、結界を張るとしよう。ネクロには手伝わせるとして、三人は部屋に戻って休め。色々ありすぎて疲れただろう?」
ルーリの言葉に、三人は揃って跪く。
「はっ!ご主人様のお心遣いに感謝致します」
「何かございましたら、いつでもお呼び下さいませ」
ユキとバイオはそう言って頭を下げ、それぞれの自室に戻っていった。
しかし、シロマだけは跪いたまま、
「ルーリ様、私もお手伝いを致します」
真剣な表情でそう言う。
ルーリはそんな彼女を見て、
「シロマ、気持ちは有り難いが、今は自分の部屋に戻って休んでくれ。ダイヤモンドロックも随分働いたからな。そろそろ、魔力を回復してもいい頃だろう」
ダイヤモンドロックは喋らないが、ルーリの言葉を聞くと、素直にシロマのアイテムボックスに戻るのだった。
「お前とお前の相棒のお陰で、皆が救われた。これは私からのお願いだ。休んで欲しい」
ルーリは優しい眼差しでシロマを見る。
シロマはルーリの優しさを受け取る。
「畏まりました、ご主人様。有り難きご配慮に感謝申し上げます。魔力が回復しましたら、玉座の間にて待機させて頂くことをお許し下さいませ」
マヤリィに攻撃されたり、瓦礫に埋まったり、仲間を助けたり、ミノリの説得にあたったりと、彼女も相当疲れているはずだが、それを全く顔に出さない。
「分かった。私も全てを終えたら、玉座の間へ転移する。それから今後のことについて詳しく話し合おう」
「はっ。畏まりました。…それでは、暫しの間、失礼致します」
深く頭を下げると、シロマは自分の部屋へ戻った。
その場に残されたネクロは、
「私はいかが致しましょうか〜?やはり疲れているので自分の部屋に…」
それを聞いてルーリは首を横に振る。
「お前は壊れた城の修復作業だ」
「魔力の回復タイムはなしですか~?」
「回復の必要などないだろう。まだかなり余裕があることは『鑑定』によって判明している」
ルーリの厳しい言葉に、
「ネクロ、死神の側近は大変な仕事だな」
『鉄壁の細枝』がネクロに話しかける。
「細枝。お前も存分に働け。城を直せ」
「分かったから、細枝言うな」
こうして、ネクロは鉄壁の細枝を携え、マヤリィが銃で破壊した建物の修復にあたった。
一方、ルーリはミノリの部屋に結界を張り、彼女を見守ることが出来るように記録魔術を発動した。
そして、ルーリは眠り続けるミノリを見て、そっと声をかける。
「…ミノリ、また一緒に衣装部屋へ行こう」




