第46話
気が利くマジックアイテム。
その名は、鉄壁の細枝(性別:男)。
「ルーリ様、皆様、こちらをご覧下さいませ」
流転の國に帰還したネクロは『記憶の記録』を発動した。あの戦闘の最中、國に戻った後のことを考えた『鉄壁の細枝』が自主的に発動した魔術だ。悪魔を消す際の『サイレント』といい、機転の利くマジックアイテムだ。
ネクロさん、何をどうやったらこんな魔術具が出来るの?
最初、彼女は躊躇っていたが、
「お前もまともに見ていないだろ、ネクロ。目を背けたいのは知ってるが、これは見るべきだ。…皆と一緒にな」
青年の声で細枝が言う。確かに、マヤリィの最期を報告しないわけにはいかない。
ネクロは沈痛な面持ちで頷くと『記憶の記録』を発動したのだった。
そして、その最後には『魔国』が滅び去る瞬間も記録されていた……。
「ネクロ…」
「はい、ご主人様…」
依然としてクロネのままだが、今は真面目な顔で答える。
「よく流転の國を守ってくれた。ここにいる者が無事なのは全てお前のお陰だ」
「有り難きお言葉にございます、ご主人様」
ネクロは跪き、頭を下げる。
「…それにしても『記憶の記録』とは、本当に便利な魔術だな」
ルーリはそう言うと少し厳しい顔になり、
「だが、普段から私とアンナコトやコンナコトをしている…というのを偉そうに述べる必要はあったか?」
一緒に見ていたシロマ、ユキ、バイオの三人は黙り込んで、二人の会話を見守る。
「だ〜ってぇ、私が魅惑耐性を持っているのは夜な夜な魅惑の死神様が私をお召し上がりになるからでございますゆえ、ここはちょっと偉そうに言ってもいいかなって〜」
「つまり、魔国のサキュバスに自慢したと?」
「はい。それもありますが〜」
ネクロは少し寂しげな表情になって、
「マヤリィ様にも自慢したかったんです〜。今、宇宙で一番美しいサキュバス様に抱かれているのはネクロです、ってね」
「…しかし、お前がマヤリィ様のことを本気で想っていたとは…」
「戯れにございます、ルーリ様。私は所詮ネクロマンサー。恋とは如何なるものなのか、理解出来ぬ者にございますゆえ」
ネクロはそう言うと、悲しげに微笑む。
「されど、貴女様はこんな私に初めての感情を教えて下さいました。ルーリ様~、ネクロは貴女様が大好きです〜〜!!」
ver.クロネだとテンションも上がるのか、欲望のままにルーリを押し倒す。
「落ち着け、ネクロ。そして『変化』を解け」
「嫌です〜」
あっさり命令を拒まれる。
「この姿はルーリ様が任務の為に私に作って下さったクロネという者。ですが、マヤリィ様に似た姿に戻るのは嫌なのです〜。私はこれより先、ご主人様の側近兼、黒魔術師兼、メイドという肩書きを名乗ろうと思います〜」
肩書きが長すぎる。しかもちゃっかりメイド業を始めようとしている。
「『隠遁』のローブはどうした?」
「もう皆にバレてるんですから、城の中では被らずともよろしいでしょ〜?」
「分かったよ。…もう、好きにしろ」
ルーリは笑いながら、ネクロを抱きしめる。
「…では、ネクロには私の側近と最上位黒魔術師と見習いメイドという超忙しそうな肩書きを与えよう」
「はっ!」
三人はルーリとネクロのやり取りを微笑ましく見守っていたが、急に、まだネクロに伝えていなかった事実を思い出す。
ミノリさん、色々と可哀想すぎる。
「畏れながら、ルーリ様。ミノリ様のこと…」
バイオの言葉で、ルーリも思い出す。
「そうか…そうだった、お前にはまだ言ってなかったな…ミノリのこと」
先程ルーリは「ここにいる者は無事」と言った。だが、この場にミノリがいない。
「ミノリ殿は、解放されたはずでは…?」
マヤリィに身体を乗っ取られていたミノリだが、戦闘中に彼女の身体が傷付くことはなく、ネクロの魔術によってすぐにマヤリィが正体を現したから、無事でいると思っていた。
「確かに、ミノリ様は悪魔と契約されたマヤリィ様から解放され、その後私の魔術によって目を覚まされました。しかし…」
シロマが悲しそうな目をする。
あの時、魔法陣を展開したミノリは自らに魔術をかけると、意識を失った。
そして、今も眠ったままだという…。
夜な夜な魅惑の死神様がネクロを召し上がる…。
ルーリよ、そこは否定しなくていいのか?




