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流転の國 vol.2 〜闇堕ち編〜  作者: 川口冬至夜


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第44話

ミノリはひとりぼっち。

きっと、もう要らない存在なのね…。

ミノリの部屋。ノックをしても返事はないが、鍵は開いている。

「失礼致します、ミノリ様」

シロマとバイオはミノリの部屋に入った。

「ミノリ様…!」

部屋の中が荒らされている様子はなく、ミノリは静かにベッドに横たわっていた。

「脈は正常です。眠っていらっしゃるように見えますが…いつからこの状態なのでしょう」

シロマがミノリの身体を確認している間、バイオが念話を送る。

ルーリとユキはすぐに転移してきた。

「ミノリ!!」

声をかけるが、反応はない。

シロマが『全回復』をかけても、何も変わりはない。

「『強制覚醒』という手段もありますが…どうなさいますか?」

シロマが言う。

「ミノリ様の体力を大量に消費して、昏睡状態から目覚めさせる魔術です」

「それも白魔術なのですか…?」

ユキが不思議そうに聞く。

「そうですね、禁術に分類されますが、白魔術の領域です」

禁術は本来、文字通り禁じられた魔術なのだが…。

流転の國の魔術師は容易くそれを発動する。

シロマも特に躊躇うことなく『強制覚醒』を提案した。

「意識がないという以外にはこれといった身体の異常も見受けられませんので、大丈夫だとは思いますが…ミノリ様の体力値はご存知でしょうか?」

「流転の國で一番だと思う。何しろ、書類仕事を幾つも抱えて働きまくってた奴だから」

ルーリは苦笑する。

(本当に、お前には無理させてばかりだな…)

「ならば、問題はありません。あまりに体力値が低いと、覚醒してもすぐにまた意識を失ってしまう場合もありますので」

シロマは『ダイヤモンドロック』を取り出す。

「離れていた方がよろしいでしょうか…」

バイオがベッドから離れる。

シロマは頷くと、すぐに魔術を発動する。

ミノリの昏睡レベルは予想以上に高く、シロマは魔術に『強化』を施した。そのまま、ダイヤモンドロックはミノリを包み込むように光を放ち続ける。

そして、光が消えると、ミノリは目を開けた。

「ミノリ様…!」

「シ…ロマ……?」

ミノリはそう言ったかと思うと飛び起きる。

「マヤリィ様は!?マヤリィ様はどこ!?」

「ミノリ様、落ち着いて下さいませ」

シロマの制止も聞かず、ミノリは立ち上がる。

「ミノリ、落ち着け。マヤリィ様は…」

「マヤリィ様が甦られたの!今度こそ、生前と変わらないお姿で、甦られたのよ!!」

そう言いながら部屋の中を歩き回るミノリの目に『魔国と魂』の本が飛び込んでくる。

「これ…ミノリが書庫で読んでいた本…。どうしてここに…?」

その時、ミノリは書庫で起きた不思議な現象を思い出す。

「…あの時、ミノリは書庫に閉じ込められた。転移も念話も使えなかった!誰も助けに来てくれなかった!それで…困っていたら、マヤリィ様が来て下さったの。それから、ミノリの部屋に転移して……」

しかし、その後の記憶は曖昧だった。

「どうしてマヤリィ様はミノリ様の身体に乗り移っていたのでしょう…?」

「それは分からないが…。もしかして『流転の羅針盤』を使う為に…?」

マヤリィは羅針盤から銃を取り出していた。

最初から、足りない魔力を補うことが出来る羅針盤を狙っていたのかもしれない。

「待って。それってどういうこと?マヤリィ様は確かに甦られたのよ?本当よ?…ねぇ、今はどちらにいらっしゃるのかしら」

「それは……」

ルーリが言い淀む。

「そうやってまたミノリには何も教えてくれないの?…もういい。ミノリ一人で探しに行くから」

「…ミノリ様、お待ち下さい。貴女様が最後にマヤリィ様にお会いになられてから、既にかなりの時間が経っております」

説明を始めたのはシロマだった。

「大変申し上げづらいことですが…マヤリィ様は『魔国』に住む悪魔と契約したことにより、甦られたのです。そして、理由は分かりませんが、先程まで貴女様のお姿に『変化』していらっしゃいました。部屋の外の様子をご覧下さい。マヤリィ様が何をなさっていたか、お分かり頂けるかと思います」

ミノリはシロマに促されて部屋の外に出る。

砕け散った壁、崩れ落ちた床、血痕…。

「嘘よ!マヤリィ様は、確かにあのお優しいマヤリィ様だった!!…どうして、こんな…」

ミノリは城の惨状を目の当たりにして、激しく動揺する。現実とは思えない。

「マヤリィ様がこんなことするわけない」

ミノリは断言するが、すぐに不安になって『魔国と魂』の本を手に取り、あの時読んだページを読み返す。

「悪魔との契約……。そんな…!マヤリィ様は本当にそんな方法で甦られたの!?ミノリは騙されていたの!?」

いくら目を背けようとしても、今突き付けられている現実がミノリの希望を打ち砕く。

「嫌!嫌!マヤリィ様がミノリのことを騙して利用していたなんて!!」

泣き叫ぶミノリに声をかけられる者はいない。ミノリは涙を流しながら呟く。

「やっぱり、ミノリはひとりぼっちなのね…。シャドーレはミノリを置いて桜色の都へ帰ってしまったし、ルーリ様はネクロやシロマを連れて頻繁にどこかへ出かけてミノリに命令を下さることもない。書庫から出られなくなった時も、誰一人念話に答えてくれなかった。…そうよね、ミノリは要らない存在。…だから、悪魔と契約したマヤリィ様に付け込まれてしまったのね…」

その場に立ち尽くすミノリ。

「ミノリ…。頼む、話を聞いてくれないか?」

ルーリが懇願する。

しかし、その言葉はミノリに届かず、

「『流転の羅針盤』はどこ…?」

いつも手元にあったはずのマジックアイテムを探し始める。

「マヤリィ様が持っていたが、すぐにお前の元に戻ってくるはずだ」

ルーリの言う通り、マヤリィが力を失った今『流転の羅針盤』は本当の持ち主であるミノリの元に戻るはず。

しかし、その言葉もミノリには届かない。

「ミノリはもう羅針盤を手にする資格もないのね…。いいわ、マジックアイテムがなくても魔力は使えるから」

そう言って、魔法陣を展開する。

「ミノリ様、お待ち下さい!」

シロマが止める。

「落ち着け、ミノリ!!」

ルーリが叫ぶ。

しかし、今のミノリには何も聞こえない。

誰も立ち入ることの出来ない魔法陣の中央でミノリは魔術を発動させた。

マヤリィに裏切られた事実にショックを受けたミノリは自らに魔術をかけてしまいます…。

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