第33話
シャドーレ王の個人的な相談は幕を閉じ、ひとまず安心して流転の國に帰還する三人。
しかし、そこで待ち構えていたのは…。
「単刀直入に申し上げます。残念ながら、ミノリ・アルバ様は妊娠しづらい身体をなさっています」
桜色の都の王宮。結界を張った部屋で、シロマが直接シャドーレに報告する。
「そうでしたか…」
予想していたこととはいえ、シャドーレは肩を落とす。
「しかし、体力・気力・魔力ともに非常に良い数値が出ています。とても丈夫な健康な身体をなさっていらっしゃいますね」
何をどんな風に調べたかは分からないが、健康な身体であると聞いて、その点に関してはシャドーレは安心した。
「シロマ様、ありがとうございます。何とお礼を申し上げたら良いか…」
「どうか、お気になさらず。国王陛下のお望みとあらば、いつでも協力させて頂きます」
他人行儀のシロマに、シャドーレは少し寂しさを感じつつ、
「…ルーリ、この間の話の通りでしたわね」
「ああ。…これからどうする?このままでは、ミノリ嬢は恐らく妊娠出来ない」
隣で話を聞いていたルーリは、シャドーレの今後を心配していた。
「…しかし、これで『性転換』魔術の件は白紙になりましたな」
ネクロは気の進まない魔術を避けられて安心している。シャドーレには申し訳ないが。
「お前は…ミノリ嬢との間に子どもが欲しいんだったよな」
「ええ。愛する女性が私の子を産んでくれたらそれはとても嬉しいことだと思うの」
「…いつから、貴女様はお心まで男性になってしまわれたのですか?」
珍しくシロマが厳しい口調で話す。
「桜色の都の国王という立場が貴女様を変えてしまったのでしょうか?」
「シロマ殿、言い過ぎにございますぞ」
普段は穏やかなシロマの物言いに、ネクロが口を挟む。
「シロマ様…」
シャドーレは俯く。
「ミノリ・アルバ様にお会いして、貴女様が彼女を愛する理由が分かりました。…あの御方は我が國のミノリ様に似ていらっしゃる」
シロマはなおも話し続ける。
「口を慎め、シロマ」
ルーリが耐えかねてシロマを止める。
「はっ。申し訳ございません、ご主人様」
「シャドーレはつらい立場にある。…せめて、我々がシャドーレを支えていかなければ」
ルーリはそう言うと、話題を変えて、
「ミノリ嬢は変わりないか?」
「ええ。相変わらず真面目に私に尽くしてくれているわ。…でも、時々思うの。このまま王宮に仕え続けることが、本当に彼女の幸せに繋がるのかどうか…」
「愛する御方に仕えることが出来るというだけで幸せだと私は思うがな」
ルーリはマヤリィの顔を思い出す。
「それは確かでございますな」
ネクロも頷く。そして、思い出したように、
「…ところで、この間言っていた不妊治療とやらは出来ないのでございますか?」
「不妊治療…?」
シロマが難しい表情になる。
「不可能とは言いませんが、貴女様にもミノリ様にも大変な負担がかかる魔術を幾つもかけさせて頂くことになります。どうしてもミノリ様との間にお子を望まれるのであれば、リスクをご承知の上でお命じ下さい。されど、私はおすすめ致しません。どうなさるかは貴女様がお決め下さいませ」
「…………」
いつになく厳しい顔で話すシロマ。ルーリもネクロも何を言っていいか分からなくなる。
「…分かりましたわ。シロマ様がそこまでおっしゃるなら、私とミノリの子どもを望むことは諦めた方が良いのでしょう。私の個人的な都合で我儘ばかり言って、皆様のお手を煩わせてしまったこと、大変申し訳なく思います」
シャドーレは深々と頭を下げる。
「…たとえ子が出来なくとも、これからも彼女を愛することに変わりはありません。皆様、此度は本当にありがとうございました」
「ああ。ミノリ嬢にとっても、シャドーレは大切な存在だと思う。私が言うまでもないが、ずっと彼女を大事にするんだ」
ルーリがそう言って微笑む。
こうして、シャドーレ王の個人的な相談は幕を閉じた。ルーリ、ネクロ、シロマの三人はひとまず安心して、流転の國に帰還する。
しかし、そこで待っていたのは…。
「最近、皆ミノリに対してよそよそしい気がするのだけれど、気のせいかしら」
既に証拠を掴んでいそうな顔で、流転の國のミノリが三人を睨む。
「一体、ミノリを置いてどこへ遊びに行っていたのか、説明してもらいましょうか…!」
ミノリの周囲には何冊もの魔術書が浮かび上がっている。
「落ち着け、ミノリ…!」
玉座の間で魔力爆発が起きる。
「あら…ミノリ様がご乱心だわ」
バイオがミノリの魔力爆発を探知する。
「怖いわ、何が起きたのかしら」
一緒にバイオの部屋にいるユキが怖がる。
「大丈夫よ。私達はここにいましょう。きっとご主人様が何とかして下さるわ」
バイオはユキを抱き寄せ、頭を撫でる。
最近、二人は一緒にいることが多くなった。
出身地や元の種族が同じということに加えて似た境遇に置かれていた者同士、一緒にいると安心するのかもしれない。
一方、桜色の都。
ミノリ・アルバはシャドーレ直々に健康診断の結果を聞いていた。勿論、妊娠率以外の項目についてだ。
「お前の身体が健康だと分かって安心したぞ。…だからといって、無理はするなよ?」
「はっ。陛下のご配慮に心から感謝致します。これからもお傍近くでお仕えすることをお許し下さいませ」
「ああ。頼りにしている」
この後、ミノリは久々に実家に帰ることになっていた。お嬢様がベリーショートの髪になっていたら驚かれると考えたシャドーレは、
「髪型について聞かれたら、国王に命じられて泣く泣く切ったと話しておけ」
真面目な顔で言う。しかし、ミノリは首を横に振って、
「そのようなことは申しません。…陛下に憧れて断髪したと胸を張って答えます!」
「…そうか、それは嬉しいことだな」
シャドーレは微笑む。
「ミノリ、お前が王宮に戻ってくるのを心待ちにしている。ゆっくり休養して、また私の元へ帰ってきてくれ」
「はっ。畏まりました、シャドーレ様」
ミノリは名残り惜しそうな表情で、深くお辞儀をすると、王宮を後にした。
シャドーレは笑顔で見送った。
「ミノリが帰ってきたら、たまには白魔術について教えてもらうのもいいかもしれないな」
白魔術は完全にシャドーレの専門外。
だからこそ、ミノリに教わってみたい。
何しろ、彼女は魔術学校を首席で卒業した、実力ある白魔術師なのだから。
「ミノリ、愛してる…」
思わずそう呟いてから、さっきミノリに直接言えば良かったとシャドーレは思った。
(帰ってきたら、必ず伝えよう)
さっき言えなかったことを残念に思いながらも、自分にそう言い聞かせて、シャドーレは仕事に戻るのだった。
…その日を最後に、二度とミノリに会えなくなることも知らずに。




