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流転の國 vol.2 〜闇堕ち編〜  作者: 川口冬至夜


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第31話

ようやくシャドーレはルーリに「あの相談」をする…。

「シャドーレ、そこまで考えているのか?」

『性転換』魔術の話を聞くと、さすがのルーリも困惑した。

「ええ。いずれは世継ぎが必要になるでしょう?私は立場上、男性と結婚するわけにもいかないし、彼女との間の子どもなら堂々と跡継ぎに出来ると思うの」

「だからって、お前が性転換するなんて…」

ルーリは複雑な顔をする。

「実際、ネクロはその禁術を使えるのか?」

「はっ。使役したことはございませんが」

ネクロの表情は見えない。

「ミノリ・アルバと…既にそういう関係にあるんだな?」

「私は彼女を愛している。彼女も私を慕ってくれている。前から王宮に仕えている貴族達も私が彼女に手を出すつもりで側近にしたと思っているみたいよ」

実際、そういうことになってしまった。

「ルーリには話さなければならないと思っていた。…これは、許されることかしら」

シャドーレはルーリに問う。

「お前の人生に口出しする権利は誰にもない。しかし…個人的には反対したい」

「っ…なぜ…?」

ルーリなら受け入れてくれると思ったのに。

「なぜなのかは私にも分からない。…お前は、本当に男になりたいと思っているのか?」

「…………」

「世継ぎを作る為に、桜色の都の未来の為に、お前は彼女に子を産ませるのか?」

ルーリに問われる。しかし返事が出来ない。

「…すまない、シャドーレ。これはあくまで個人的な考えだ。お前が決めたことなら、受け入れるよ」

ルーリが言う。説得はしない。

「ひとつ…よろしいですかな」

ずっと黙っていたネクロが口を開く。

「前々から王都に子どもが少ないことに疑問を感じておりました。そこで、失礼ながら今回調べさせて頂きました」

ネクロは言いづらそうに、

「そのことを私の興味本位の調査であると言ってシロマ殿に報告したところ…」

「何か分かったのか?」

「はっ。…魔力値の高い女性ほど、妊娠率が下がることが判明致しましてございます」

非常に言いづらいが、そのことが分かってしまった以上、言わないわけにもいかない。

「そんな…!」

「…そういえば、バイオは桜色の都で罪人として独房に入れられていた時、毎晩のように看守の男に強姦されていたらしいな。それも、毎晩違う男にだ。…収監されている間に妊娠しなかったことだけが救いだと言っていた」

確かに、それだけ多くの男の性欲の捌け口にされれば、妊娠してしまう可能性は高かっただろう。

「あくまで、これはバイオの話だがな」

バイオの魔力値が高いのはシャドーレもよく知っている。かつてツキヨ王の側近として共に王宮に出入りしていた仲だ。

「…では、もしかしたらミノリには子どもが出来ない可能性があるというの…?」

「あくまで、確率の話でございます。お世継ぎに拘られるのであれば、このことをご報告しないわけにはいかないと思いましてな」

ネクロの言葉に、シャドーレは俯く。

「確かに、ミノリの魔力値は高いわ…」

悲しそうな表情になるシャドーレに、

「これも非常に言いづらい話だが…マヤリィ様の例もある」

ルーリが難しい顔で話し始める。

「マヤリィ様はジェイと関係を持っていた。…恐らく、頻繁にな。お二人の間にお子が出来たとしてもおかしくはないはずなのだが…マヤリィ様は妊娠なさらなかった」

「なにゆえ、ルーリ様がそのような内密っぽいお話をご存知なのですか?」

ネクロが少し引いている。

「…まぁ、ジェイから色々と聞いてだな…。お二人の間にお子が出来た時の話をなさることもあったらしい」

「マヤリィ様が…ジェイ様と…?」

シャドーレはその事実に驚いている。

(マヤリィ様は同性愛者だったのではなかったかしら…)

「お二人の秘密を暴露するようで申し訳ないが、マヤリィ様はお子が出来るなら男の子が欲しいとおっしゃっていたそうだ…」

「それは、なぜ…?」

「私と同じ苦しみを味わわせたくないから、とのことだ……」

ルーリはジェイから聞いた言葉をそのまま言う。

二人は絶句する。

「あの御方はご自身の女性性を好んでおられた。ただ、悲しい境遇ゆえに変わってしまったご自分に悩まれていた。…私はそれを知っていたのに…あの御方を傷付けてしまった…」

ルーリは宙色の魔力を発動する直前の、マヤリィの無表情な顔を覚えている。

悲しみも苦しみも限界を超え、絶望を感じる時、人は表情を失くすのだと知った。

「ルーリ様…」

悲しそうに俯くルーリ。

かける言葉が見つからない。

「…マヤリィ様は強大すぎる魔力の持ち主であられた。それを言いたかっただけなんだがな…二人共、すまない…」

ルーリの碧い瞳から涙がこぼれる。

「マヤリィ様、申し訳ございません…」

ドレスに涙の粒が落ちる。

「あの御方のお子ならば…どんなに美しかったことでしょう。お会いしてみたかったですな」

ネクロも泣き始める。

思わず、ローブを脱いで、ジャケットの袖で涙を拭く。

「マ、マヤリィ様…!?」

シャドーレとて、ネクロの素顔はマヤリィの蘇生中に一度目撃している。

しかし、同じ服装と似た髪型である為、その姿はマヤリィにしか見えない。

(しまった…)

ネクロは一瞬で我に返る。

が、シャドーレは止まらない。

「マヤリィ様ぁ……!貴女様がいらした流転の國を去り、こうして桜色の都に戻ってきてしまったシャドーレをお許し下さいませ…!」

ネクロに抱きつき、泣き続けるシャドーレ。

(さて、どうしたものか…)

仕方なく、ネクロは指を鳴らし、魔力を発動する。ネクロがローブを脱いでから現在までの数分間の出来事を『忘却』させる。

そして、一瞬でローブを着た。

「えっと…何のお話だったかしら…」

『忘却』直後のシャドーレは首を傾げるが、

「お前が本物の男になって側近に手を出してやることやって子どもを産ませようって話だっただろう?」

「身も蓋もない言い方ですな…」

ルーリはさっさと本題に戻る。

「まぁ、お前が男になったら…サキュバスの本領発揮って所だな。夜這いに行くから、覚悟しろよ?」

「なんだか、私が妊娠させられそうね…」

シャドーレは35歳。

思い返せば『クロス』にいた頃、何度もダークと性行為をしたが、子どもは出来なかった。

避妊してくれたことなど一度もないのに…。

「魔力値と妊娠率の関係は確かみたいね。今聞いただけでも、実例が多すぎる」

シャドーレはそう言うと、ため息をつく。

「そうなると『性転換』ではなく不妊治療の方が必要になるかもしれないな」

不妊治療とか言い出すサキュバス。

「…ならば、黒魔術ではどうにもなりませんな。シロマ殿の専門にあたるのでは…?」

確かに、ここからは白魔術の領域である。

「桜色の都のミノリ殿が本当に子どもの出来ない体質かどうかさえ、今は分からない状態です。されど、シロマ殿の力を借りれば、何か分かるかもしれませぬ…」

「…その方が遥かに安全だ。シャドーレの身体を変えるより、彼女の身体を調べることから始めたらどうだ?」

ネクロの言葉に、ルーリも賛同する。

「何とかミノリ嬢を説得して、シロマの所へ連れてくるといい。…勿論、極秘にな」

「お願いしても…いいのかしら?」

「ああ。シロマなら引き受けてくれるはずだ」

ルーリはシロマの優しげな表情を思い出す。

「では、日取りが決まりましたら私がミノリ殿をお迎えに上がりましょう。このことは…我が國のミノリ殿には言わない方がいいですな」

「そうだな。また魔力爆発でもされたら困る。今度こそ城が跡形もなく吹っ飛んでしまう」

そう言ってルーリは笑う。

勿論、死神ジョークである。

「私は…同席しない方が良さそうね」

「はい。陛下はお忙しいと伺っておりますので、私達に全てお任せになり、お仕事に専念して下さいませ」

ルーリはそう言って頭を下げた。それだけなのに。

「っ…」

急に女神の顔をする死神にシャドーレは何も言えず頬を染める。

ルーリの優美な立ち居振る舞いと気品に満ちたよそゆき顔は心臓に悪い。

(そろそろ死人が出ますぞ、ルーリ様…)

ネクロは頭を抱えたくなる。

しかし、ルーリはそんなことはお構いなしに、

「では、近いうちにミノリ嬢に休日を与え、行き先は告げずに特別な健康診断とでも言い訳をしておいてくれ。そうしたら、ネクロを迎えに寄越す。…だが、黒魔術師が迎えに来るというのもなんだから、ネクロ、その日は『変化』しろ」

「なかなか無茶を言いますな…」

「お前の果てしない魔力を使えば全く無茶なことではないだろう」

ルーリは簡単に言う。

「…ありがとうございます。ルーリ様、ネクロ様。どうか、私の大切な側近をよろしくお願い致します」

シャドーレはそう言って頭を下げる。

「畏まりました、国王陛下」

「お任せ下さいませ」

二人も礼儀正しくお辞儀する。


そして、ルーリとネクロは流転の國に帰還。

ルーリはそのままシロマの部屋へ向かった。

帰還後、シロマを玉座の間に呼び出すのではなく、彼女の部屋へ向かうルーリ。

勿論、シャドーレのことを相談する為ですが、他にも何かヤることがあるのでしょうね。

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