第29話
珍しくネクロが探し物。
珍しくネクロが感傷的。
「…これですかな」
珍しくネクロが一人で衣装部屋に来ていた。
お目当ての物はすぐに見つかった。
『マヤリィとお揃いのスーツ』である。
「これが、ワイシャツ…。マヤリィ様はいつも流転の國の正装でいらしたのですな」
桜色の都に初めて赴く際、その場の流れでマヤリィはスーツを「正装」だと言った。
実際はマヤリィ本人が他に何を着たら良いか分からなかっただけなのだが…。
ネクロは『隠遁』のローブを脱ぎ、その下に着ていた黒いロングワンピースを脱ぐと、マヤリィと同じ「正装」に身を包んだ。
そして、珍しく自分の顔や身体をよくよく鏡で確認する。
藍色の瞳。藍色のショートヘア。
透き通るような白い肌。整った顔立ち。
瞳の色や髪の色は異なるが、マヤリィと見紛う美女が映っている。
「でも…私はマヤリィ様ではない…マヤリィ様にはなれない…」
ネクロの瞳から涙がこぼれる。
「今になって、こんなにも貴女様が恋しいなんて。ネクロはどうしたら良いのでしょう…」
マヤリィの優しい微笑みが思い浮かぶ。
「マヤリィ様ぁ……」
人知れず涙を流すネクロ。
気付けば、青い靄の杖が寄り添うように彼女にもたれかかる形になっている。
「マヤリィ様から賜った杖……」
ネクロは愛おしそうにそれを抱きしめる。
いつもはマジックアイテムの顔しかしてないのに、今はマヤリィの形見だと言わんばかりに自己主張している気がする。
「大丈夫、私は死にませんぞ…」
ネクロは杖を持ったまま立ち上がる。
「私にしか出来ぬ仕事もある。…いつまでも感傷に浸っているわけにも参りませんな」
そして、スーツの上に隠遁のローブを羽織り、ネクロは衣装部屋を出る。
隠遁のローブは何もかも隠してしまうので、中に何を着ていようと他人には見えないのだが、今その中身を見たら間違いなくマヤリィだと思われるだろう。誰にも見せないけど。
「『性転換』魔術…。シャドーレ様は今どのように考えていらっしゃるのでしょう…」
ネクロはシャドーレが心配だった。
「今度の首脳会談…私も同行させて頂けるようルーリ様に頼むとしましょう」
流転の國と桜色の都は定期的に会談を行うことにしていた。
会談の合間に休憩などがあれば、もしかしたらあの相談が出来るかもしれない。
ネクロは様々に思いを巡らせながら、ルーリがいるであろう玉座の間へ向かった。
次回、久々にルーリが登場します。




