表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
流転の國 vol.2 〜闇堕ち編〜  作者: 川口冬至夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

42/73

第28話

全ては愛する貴女(ミノリ)と結ばれる為に。

私は本物の男性になりたい…。

【ネクロ様、ご無沙汰致しております。桜色の都のシャドーレにございます。…実は、折り入ってお願いしたいことがありますゆえ、直接お会いすることは出来ますでしょうか?大変お手数をおかけ致しますが、お返事はこの使い魔に託して頂きたく存じます。何卒よろしくお願い申し上げます。 シャドーレ】


ネクロが城の西端で物思いに耽っていると、突然カラスが飛んできた。

その場所は有事の際にネクロが『魔力探知』を行う最前線であり、かつて「予言者」が國に向かっていることを見抜いた所である。しかし今は魔力探知は使い魔に任せているので、城の最西端に位置するこの場所はネクロが一人になりたい時に来る場所になっている。

今は『隠遁』のローブも着ていない。マヤリィのことを考えながら一人佇んでいた。

そんな時、見知らぬカラスが飛んできたのである。ネクロは特に驚くこともなく、真っ黒なカラスを見て、

「恐らくは桜色の都からの使い魔でございますな。私に何用でございましょうか?」

ネクロの言葉を聞いて、カラスは安心したように一声鳴くと、足で掴んでいた封筒をネクロに手渡す。そして、その場所に留まる。

「…お返事が必要ということですな?」

カラスはもう一声鳴く。

「では、この場で拝見するとしましょう。使い魔殿、しばらく待っていて下され」

そう言うとすぐに手紙を読む。

「シャドーレ様が私にお願いを…?はて、何のことやら想像がつきませんな」

ネクロは首を傾げるが、いつまでも使い魔を待たせておくわけにもいかない。

「ルーリ様にご報告を…といきたい所ではありますが、今日は休日。…たまには、一人で桜色の都に行くのも良いかもしれませんな」

ネクロはそう呟くと、

【シャドーレ様。委細承知仕りました。早急に貴女様の元へ転移致しますゆえ、しばしお待ち下さいませ。 ネクロ】

「さぁ、頼みましたぞ」

使い魔のカラスに簡潔な手紙を託す。

カラスの姿はあっという間に見えなくなる。

「一応、お返事は必要でしょうからな…」

使い魔の為にも、すぐに『転移』することはせず、ネクロは時間を見計らって桜色の都の王宮を訪れた。

「『透明化』」

手紙の内容からしてプライベートな相談である可能性が高い為、ネクロはこっそり王宮に入り、シャドーレの魔力を辿って、執務室に辿り着いた。

今まさに手紙を読んでいる所だった。

「…ご苦労だった。また何かあれば頼む」

シャドーレはそう言って使い魔のカラスを下がらせる。

「ネクロ様はいついらっしゃるかしら…」

「畏れながら、ここにおります。国王陛下」

ネクロが『透明化』を解く。

「っ…!ネクロ様、早速いらして下さったのですね…!感謝致します」

シャドーレは驚きつつも、ネクロならばこんな現れ方をするのではないかとどこかで思っていた。

「個人的なご相談ではないかと思いましてな。突然の執務室への転移をお許し下され」

「とんでもございません。確かに、個人的な相談ですので、このような形で来て下さって助かりますわ」

黒魔術師同士、もっと話したいことは沢山あるが、あまり時間はない。

「お伺いしたいことがございますの。ネクロ様は『人化』魔術を使役出来ますよね…?」

「はっ。いつでも発動出来ますぞ」

目の前の相手は人間だが。

すると、シャドーレは言いづらそうに、

「で、では…『性転換』魔術…というのも存在するのでしょうか…?」

「『性転換』でございますか…」

ネクロは気難しい表情になる。隠遁のローブによって素顔は見えないが、あまり気の進まないような声である。

「出来ないことはございませんが、私は今までに一度も使役したことがありませぬ。…まさか、シャドーレ様…」

ネクロは察する。

「本当の男性になられるとおっしゃるのですか…?」

「ええ。その通りですわ」

口調は相変わらず貴族の令嬢なのに。

「そこまでせずとも、今のお姿のままでよろしい気が致しますが…」

隠遁のローブの下で、ネクロは戸惑いの表情を浮かべる。

「それに…『人化』と同じで、一度かけてしまえば元に戻すことは不可能ですぞ」

ネクロは言う。実はかなり困惑している。

「貴女様が本当の男性になられたら、ミノリ殿が悲しむかもしれませぬ…」

ていうか、ネクロが殺されかねない。

「ルーリ様とて、悩まれるはず。たとえ個人的なご相談であったとしても、この件はルーリ様にご報告しないわけには参りません」

さて、どうしたものか…。

ネクロが考え込んでいると、シャドーレが話し始める。

「…実を申しますと、好きな娘がいるのです。22歳にして国王の側近を務めている白魔術師です。…私が本当の男になれば、彼女との間に子が出来るかもしれません」

シャドーレの表情を見て、ネクロは全てを察する。

「その側近殿とは、既に関係をお持ちなのですな…?」

「ええ。されど、私は女の身体…。どうにかして彼女との間に世継ぎが欲しいのです」

ネクロはますます困惑する。

その時、執務室のドアをノックする音。

「ネクロ様、そのままで。…入れ」

シャドーレは一瞬で威厳ある国王の顔になる。誰が来たかはもう分かっている。

「失礼致します、陛下。…こちらの御方はお客様でございますか…?」

「ああ。私の古い友人だ。…この者は私の側近を務めているミノリ・アルバです。都においてはトップクラスの実力を持つ白魔術師なのですよ」

シャドーレが桜色の都のミノリを紹介する。

(…そういうことでございましたか…)

「初めまして。私はネクロと申す黒魔術師にございます。シャドーレ殿とは古き仲にございますゆえ、今日は突然訪ねてきてしまいました。…ミノリ・アルバ殿、どうぞよろしくお願い致します」

『隠遁』のローブは着たままだが、丁寧に挨拶をするネクロに、ミノリは安心する。

「お初にお目にかかります。国王陛下の側近を務めさせて頂いております、ミノリ・アルバと申します。ネクロ様、本日はようこそお越し下さいました。お会い出来て光栄に存じます。…陛下、お飲み物をお持ち致してもよろしいでしょうか?」

「ああ。そこの貴賓室に持ってきてくれ。黒魔術の話をしていたゆえ、つい専門書が揃っている執務室で話し込んでしまった。…最高級のコーヒーを用意して参れ」

「はっ。畏まりました、陛下」

ミノリ・アルバは一礼すると、すぐに準備をしに執務室を出ていった。

そこの貴賓室というのは、以前ジェイを迎えたこともある、新しい方の貴賓室である。

「…成程、シャドーレ様のお心を射止めたのは、ミノリ殿でございましたか…」

短く刈り上げた黒髪はシャドーレの影響だろう。身長は低く、胸は大きく、女性らしい身体つきをしている。とても可愛らしい顔をした若い娘だ。

「あの女性に、流転の國のミノリ殿を重ねておられるのですか…?」

ネクロが聞く。珍しく厳しい声だ。

「…そうかもしれません。私は彼女の白魔術師としての実力を知っていながら、側近を務めることを命じました。そして、彼女と二人きりになった時、ついキスをしてしまって…。後はご想像にお任せしますが、ミノリは私に恋をしていると言いました。私も、彼女を心から愛しています」

想像させられても困るよね、ネクロさん。

「貴女様が性転換したいとおっしゃるのは、彼女と本当に結ばれる為なのですね…」

ネクロはミノリ・アルバが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、複雑な気持ちだった。

「…ここまで伺ってしまっては断れませんな。しかし、貴女様が今望んでおられるのは禁術に分類される魔術でございます。黒魔術師である貴女様には言うまでもないことと存じますが、少なからず危険を伴うということを十分に理解して下され」

「ありがとうございます、ネクロ様…」

シャドーレは深々と頭を下げる。

「されど、ルーリ様をはじめ、我が國の皆様には非常に言いづらい話でございますな…」

「ミノリは、私を軽蔑するでしょうか」

かつて流転の國で愛し合ったミノリ。

シャドーレは黒髪ロングにメイド服姿だった頃の彼女を思い出し、寂しげな表情を浮かべる。

(いや、その前に私が殺されます)

ネクロは首を横に振る。

「そのような心配はないと思いますが…我が國のミノリ殿は同性愛者にございます。愛した女性が性転換をすると聞けば悲しむでしょうな」

分かったような口を利いてみるが、ネクロはいまだかつて恋をしたことがない。

もしかしたら、マヤリィ様に対して忠誠を誓うのとはまた別の、言い表すことの出来ないような淡い感情…。あれが、恋……?

「…分かりましたわ、ネクロ様。もう少し時間をかけて冷静に考えてみます」

シャドーレは難しい顔でそう言った。

「今はそれが良いと思います。…まだ誰にもこのお話はしない方がよろしいですかな?」

「ええ。ご配慮頂き、感謝致しますわ」

今ここにはネクロしかいないので、シャドーレは国王らしい低い声を作ることもなく、普通に話している。

マヤリィに少し似ている、澄んだ高い声。甘く、優しく、魅力的な女性の声。

(『性転換』魔術は当然ながら声帯まで完全に変えてしまう…)

正直な話、その魔術は危険ではない。今までに一度も使役したことがなくとも、ネクロは完璧に禁術(それ)を操ることが出来るから。

(何と言えば良いのか分かりませんな…)

ネクロはシャドーレに思い留まって欲しいと思っていたが、その理由をうまく言葉にして伝えることは難しい。

とにかく、今は彼女の言う通り、時間をかけて冷静に考えてもらおう。

「…では、私はこれにて失礼致します」

「ネクロ様、本日は誠にありがとうございました。お会い出来て良かったです」

「私も、シャドーレ様のお顔を拝見することが出来て幸せにございました。…私はこのまま転移致しますゆえ、ミノリ・アルバ殿によろしくお伝え下され。…この上なく香り高い、最高のコーヒーにございましたと」

「はい。彼女も喜ぶと思いますわ」

ネクロはお辞儀すると、すぐに流転の國へ『転移』した。

「ネクロ様、ブラックコーヒーをお好みなのは相変わらずね…」

貴賓室に残されたシャドーレは、ネクロのカップを見て微笑む。

「…さて、仕事に戻るとしようか」

その瞬間、シャドーレは桜色の都の国王の顔に戻り、貴賓室を出ていった。

高く澄んだ声。

甘く優しい魅力的な声。


ネクロはシャドーレと話している時、彼女と似た声をしていたマヤリィのことを思い出したかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ