第25話
桜色の都の採用面接。
そこでシャドーレが出逢ったのは……
自分自身に『忘却』魔術をかけた後、仕事に戻ったシャドーレは、桜色の都に居住していた異種族の人々が突然何者かによって集落ごと滅ぼされたという報告書を読み、愕然とする。
「そんな…!いつの間にこんなことが…!?」
すぐにこの事件について調べるよう命じると共に、精鋭黒魔術師部隊『クロス』に対し、これ以上の被害を出さない為に、最大限の警戒をもって職務にあたるよう命令を下した。
シャドーレは国民を安心させる為にも、流転の國に協力を要請し、都の専門家にも調査を続けさせていたが、一向に何者の仕業なのかは分からなかった。
その後、何事もなく月日は流れた。
気付けば、王都にある魔術学校の卒業式が終わっていた。
「国王陛下、この度新しく王宮に仕える者を選ぶことになりましてございます。魔術学校の男子学生から選抜することになります」
王宮に仕える魔術師。現在の『クロス』もそうだが、魔術の専門にかかわらず、その年の卒業生の中から優秀な者を選ぶことになっている。
しかし、相変わらず男が優遇される社会は変わらない。シャドーレは自身が採用された時のことを思い出しつつため息をつくと、
「女子学生の中に優秀な者はいないのか?」
「男子では…ご不満でしょうか?」
「そういうことを言っているのではない。男女関係なく、実力のある者を採用したいと思っているのだ。…あとは、貴族出身だからといって驕り高ぶる者は却下だ。そのような者は後々トラブルの原因を作りかねないからな」
シャドーレは威厳に満ちた声で言う。
現に、今の王宮には「ミノリが作ったリスト」に名前が載った、金と名誉の為だけに動いている連中も沢山いる。勿論、シャドーレの記憶には残っていないが。
「面接は私が直接行う。良いな?」
「はっ!」
こうして、桜色の都に仕えようという若者が次々に面接に訪れた。数は少ないが、女子が面接に来ることもあった。
しかし、貴族達の中には、メイドならともかく、女を魔術師として雇うことに対して否定的な者もいる。男尊女卑の風潮が根強く残る桜色の都の現状に頭を抱えながらも、シャドーレはそのような者をわざわざ面接の場に同席させることがあった。
「…では聞く。お前も分かっているだろうが、この国は男社会だ。男達に混じって、働く覚悟はあるか?」
「はっ。畏れながら、白魔術の実力に関しては自信がございます。必ずや国王陛下のお役に立つことが出来ると自負しております」
その日面接に訪れたのは、長い黒髪を後ろで一つに束ねた若い娘だった。言葉は強気だが、穏やかな顔をした優しそうな娘だ。
(今の王宮には白魔術を扱える者は多くない。それに…)
本人が言う通り、この者からは高い魔力値を感じる。
「ならば聞く。…お前は、国の為にその美しい黒髪を切ることが出来るか?」
面接に同席している貴族の男性は国王の思いがけない質問に驚く。
しかし、娘は動じることもなく、
「はっ。国王陛下のご命令とあらば、髪など惜しくはありません」
「では、男のような髪型にせよと命じれば、そうするのか?」
「はっ。仰せの通りに」
冷静さを欠くこともなく、娘は答えた。
「…畏れながら、国王陛下」
同席していた貴族の男が口を挟む。
「なんだ?どうかしたか?」
「どうかしたか、ではございません、陛下。昔から髪は女の命と申します。若い娘に断髪を命じるのは、些か酷なことではないかと」
国王は嘲るような表情で彼を見下ろすと、
「男社会で生き抜く為には、女の命を捨てる覚悟も必要だろう。…お前は、この者の真剣な眼差しを目の当たりにし、力強い決意の言葉を聞き、魔術師としての実力を知ってなお、彼女を否定すると言うのか?」
目の前の娘が魔術学校を首席で卒業したことは彼も知っている。
シャドーレに厳しい視線を向けられ、
「陛下、大変失礼致しました。この者がそれほどまでに覚悟を決めているならば、反対する理由はございません」
国王の前に跪き、深く頭を下げる。
シャドーレは娘の方へ向き直ると、
「私はお前が気に入った。明後日より王宮に仕えることを命じる。国王直属の白魔術師として、存分に力を発揮してくれ」
「はっ。有り難きお言葉を頂き、幸甚の極みにございます。国王陛下のご期待に応えられるよう、全身全霊で働かせて頂く所存にございます」
娘はひれ伏す。艶やかな黒髪が揺れる。
「さっきはああ言ったが、髪はそのまま束ねてくるが良い。慌てて切ることはない」
白魔術師である彼女は恐らく攻撃適性を持っていない。王宮の男達に邪な目で見られない為にも、ある程度の断髪は必要だとシャドーレは思った。それは、彼女も心得ているだろう。
「はっ。畏まりました。陛下のご配慮に心より御礼申し上げます」
改めて、深く頭を下げる。
「…ところで、名は何と言ったかな」
シャドーレは訊ねる。貴族出身であっても家柄は様々。階級による差別は行わないとして、最後まで名前は聞かないことにしている。
「はっ。ミノリ・アルバと申します」
「…ミノリか。然と覚えた。では、明後日からよろしく頼む。…下がって良いぞ」
「はっ。失礼致します、国王陛下」
ミノリ・アルバが退出したのを確認して、先ほど口を挟んだ男性がシャドーレに言う。
「あの娘は、女を捨ててまで男社会に入るつもりなのですね」
綺麗な髪なのに勿体ない、と内心思いつつ。
「ああ。あのように実力と謙虚さを兼ね備えた者こそ、これからの王宮の魔術師として相応しい。私はこの先、大した実力も持たずに自分の出世ばかりを考えて王宮に居座る者ではなく、本気でこの国を愛し、国の為に惜しむことなく力を使ってくれる熱意を持った魔術師を重用していくつもりだ。…あの娘はきっと役に立ってくれるだろうよ」
大した魔力を持たない彼に向かって、国王は淡々と言う。
「では…いずれこの国は実力主義になっていくのでしょうか…」
「私はそれも良いと思っている。桜色の都をよりよい国とする為にはやはり優秀な人材が必要だ。…近い将来、平民であっても実力しだいで採用することになるかもしれないな」
シャドーレの言葉に彼は反論出来ないが、
「…それにしても、清楚な見た目に反して気丈な娘でございましたね。確かに、あの者が白魔術師としての実力を発揮してくれれば、心強い限りです」
女を採用することに対する否定的な気持ちはなくなっていた。
彼が素直に感心している様子を見て、シャドーレは安堵する。
同時に、
(ミノリ…。貴女と同じ名前の可愛らしい娘が私の配下になったわ)
『流転の國』のミノリを思い出し、シャドーレは運命を感じるのだった。
白魔術師のミノリ・アルバ。
フルネームで出てくる登場人物は彼女が初めてです。




