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流転の國 vol.2 〜闇堕ち編〜  作者: 川口冬至夜


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第24話

マヤリィ様、貴女様にお仕えすることが出来て、シャドーレは幸せにございました。

私はこれからも桜色の都で生きて参りますわ。

どうか、見守っていて下さいませ。

「悪いけれど、私には出来ないわ」

シャドーレは話を聞くと、共に『忘却』魔術を使って、甦ったマヤリィの記憶を消し去ることを拒んだ。

「シャドーレ…!」

「むしろ、私の記憶を消して欲しいわ。…あの御方はマヤリィ様ではない。私の知っているマヤリィ様では…決してない!」

シャドーレはルーリを睨むと、自身の魔術具である『暗黒のティーザー』を取り出した。

「私は自分自身で記憶を消去する。…桜色の都の人々に『忘却』魔術をかけることは、国王の名において許しましょう。…幾つかの集落が滅びてしまったのは悲劇としか言いようがないけれど、万が一そのことが復活したマヤリィ様と結び付けられるようなことになったら、それこそ大変なことになるわ。そして、復活したはずの宙色の大魔術師が再びお隠れになられたとなれば、さらに桜色の都の民は混乱する。…協力することに関してはお断りしますが、貴女方が我が国の民を『忘却』によって救って下さるというならば、止めませんわ」

シャドーレは厳しい口調で三人に言った後、昔を懐かしむような表情になって、

「…思い返せば、とても遠い日のことみたいですわ。誰よりも気高く美しく、優しさに満ちあふれたマヤリィ様…。あの御方にひとときでもお仕えすることが出来たのは私にとって本当に幸せなことでした。それほど前のことではありませんのに…もう、あの日のマヤリィ様にお会いすることは叶わないのですね」

そして、シャドーレは魔法陣を展開し、魔術を発動する。

「待て、シャドーレ!!」

「大丈夫よ。最近の記憶を消すだけなら私にも出来ますわ」

そう言って微笑むと、

「では、少しの間、失礼致します。流転の國の皆様、ごきげんよう」

シャドーレは確かに黒魔術の腕を上げた。

自分自身に『忘却』魔術をかけられるほどに。

魔法陣の中央に立ったシャドーレの周りを、あっという間に黒い靄が覆い尽くす。

「…ネクロ、止められないか?」

呆気に取られていたルーリがそう聞いた時には、魔術は完全に発動していた。

「残念ながら、それは無理でございます。中途半端な状態で止めれば、シャドーレ様の身の安全は保証できませぬ。『忘却』は他の魔術に比べて特に危険を伴うものなのです」

ネクロはそう言って俯く。

「シャドーレ様はあのマヤリィ様を受け入れることが出来なかったのでございましょう。…私だって…」

何か言いかけるが、それきり黙る。


しばらく後、魔法陣は消え去り、シャドーレはその場に倒れ込んだ。

「シャドーレ!大丈夫か?」

ルーリがシャドーレを抱き起こすと、彼女は驚いて、

「ルーリ様…!?なぜこちらへ…?次の会談の日取りは調整中だったはずですが…」

シャドーレは流転の國の主ルーリとの最初の会談については覚えていたが、その後の流転の國に関する記憶を全て失っていた。

「…いや、その……なんとか時間を見計らって前のように話が出来ないかと思ったんだが…忙しそうだな。突然来て悪かったよ」

ルーリは懸命に取り繕う。

ネクロはといえば『透明化』していた。

(私まで一緒に来たとなれば、ややこしいどころの騒ぎではなくなりますからな…)

シロマは机の陰に隠れていた。

(見つかったらどうしましょう…)

ネクロさん、彼女にも『透明化』魔術をかけてあげて。

「…では、またお会いしましょう。国王陛下」

ルーリが美しい所作でお辞儀をする。

「ええ。今度はゆっくり時間を取りますわ。…それでは失礼致します、ルーリ様」


その後、流転の國の三人が全力を上げて桜色の都全土に『忘却』魔術を放ったのは言うまでもない。

「…シロマ、大丈夫か?」

「はっ」

魔力を全て使い果たしたのではないかと思うほど、シロマは疲れ切った表情をしている。

「シロマ殿、私の魔力をお受け取り下され」

このままでは彼女が意識を失うかもしれない。そう思ったネクロは『ダイヤモンドロック』に自身の魔力を分け与える。

「感謝致します、ネクロ様」

『ダイヤモンドロック』を通して魔力を回復したシロマはネクロに頭を下げる。

「…二人共、ご苦労だった。お陰で、作戦はうまくいったようだ」

作戦が成功したのを確認して、ルーリが安堵する。

そして、三人は『飛行』しながら、改めて桜色の都を見下ろす。

皆が『飛行』魔術を使えるわけではない。マヤリィが遺した宝玉を使っている。

「…それにしても、まさかシャドーレが自分自身に『忘却』を使うとはな……」

ルーリはかなり落ち込んでいる様子。

「シャドーレ様は、生前のお優しかったマヤリィ様のことを思い出していらっしゃいましたね」

シロマが言う。『忘却』によって彼女が救われたのではないかとすら考えている。

「ああ。私には理解が及ばなかったマヤリィ様のお心をシャドーレはよく分かっていた。そのせいで、彼女にもつらい思いをさせてしまった…」

「そのようにご自分を責めていては、マヤリィ様が悲しまれますぞ」

ネクロはそう言うと、

「貴女様はマヤリィ様の跡を継ぐ御方です。流転の國の最高権力者にして、閃光の大魔術師ルーリ様にあられます。皆、貴女様に絶対の忠誠をお誓い申し上げ、どこまでも貴女様について参る所存でございます」

シロマはその言葉を聞いて微笑む。

「閃光の大魔術師様、ですか。……素敵ですね」

ルーリの二つ名がまた増えた。

「…ネクロ、シロマ、ありがとう。確かに、私がいつまでも沈んでいたら、マヤリィ様から託された仕事も捗らない。流転の國の主として決意を新たにせねばな」

ルーリはそう言うと、

「では、そろそろ流転の國へ帰ろう」

「はっ」

「畏まりました、ご主人様」

二人を連れて『転移』した。


流転の國に戻ったルーリは、皆に作戦の成功を伝えると共に、シャドーレのことを話した。

「では、あの時ミノリに会ったことも、シャドーレは忘れてしまったのね…」

ミノリは悲しそうな顔をしながら、

「でも、シャドーレがそう決めたのなら、ミノリがどうこう言える問題ではないわね。またいつかきっと彼女に会えると信じてるわ…」

かつて流転の國で共に過ごした恋人に思いを馳せるのだった。

次回より、物語の舞台は桜色の都へと移ります。

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