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流転の國 vol.2 〜闇堕ち編〜  作者: 川口冬至夜


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第22話 〜闇堕ち〜

マヤリィはなぜ殺戮者になってしまったのか。

これが『闇堕ち』の真実です…。

「ここは……」

「お目覚めでしょうか?宙色の大魔術師様」

マヤリィはゆっくりと目を開ける。辺りは薄暗い。

「黄泉の国にようこそ。貴女様のお噂は聞いておりましたが、まさかお亡くなりになるとは思ってもみませんでした。…しかも自死とは」

目の前で喋る男がどんな顔をしているのかは見えない。

「なぜ、貴方は私のことを知っているの?黄泉の国で目覚めるとは、どういうこと?」

「本来、死んで黄泉の国に来た者は順番に魂だけの存在となり、消えていく運命にあります。…しかし、貴女様は生前の魔力値が非常に高かった。…それで、少々お願いしたいことがあり、こちらでお目覚め頂いたしだいにございます」

「私の魔力値と、貴方の願いに何の関係があるというの?…というか、貴方は誰?どうにも状況が掴めないわ」

マヤリィは流転の國の配下に接するような態度で彼に訊ねる。

「これはこれは、大変失礼致しました。私は黄泉の国の責任者を務める者にございます。私もまた、貴女様と同じように生前は非常に強い魔力を持った魔術師であったが為に、魂の列に加わることもなく、黄泉の国に留まっております」

「黄泉の国に責任者っているのね」

「はい。何かやらかせばすぐに粛清される運命ではありますが、逆に大人しくしていればいつまでもここに留まることが出来るのです」

彼はマヤリィの質問に次々と答えていく。

「黄泉の国に留まることは…貴方にとって幸せなことなのかしら?」

「少なくとも、生前の記憶を持ったままでいられますからね。私は現世に未練がありますゆえ、まだここを去るわけにはいかないのです」

淡々と喋り続ける。今も顔は見えない。

「現世に未練って…。それなら、私だって…」

マヤリィは言葉に詰まる。

「こちらにデータがございます。貴女様は宙色の大魔術師として流転の國の最高権力者を務めていらっしゃいました。享年33。『双極性障害』を患い、ご自身の宙色の魔力を用いて衝動的に自死なさったことまでは存じ上げております」

「そこまで…知っているのね」

「はい。その理由までは分かりませんが、衝動的な自死ともなれば、貴女様も現世に未練をお持ちなのでは…?」

「っ…」

マヤリィは一瞬話すのを躊躇うが、黙っておく必要はないと考える。

「…些細なことよ。私は、恋人を傷付けてしまったの。でも、彼女をフォローしようとすればするほど、今度は自分が苦しくてたまらなくなった。愛する人の理想の私になる為には、少なからず苦痛を伴うことになる。それが永遠に続くのはつらすぎるわ。それで、私は宙色の魔力を持っているのをいいことに、確実に死ねると思って、後先考えずに自殺したのよ…」

マヤリィは話し続ける。

「未練といえば、もう二度と彼女に会えないということね。…もう、いいかしら。ここで自殺の理由を話した所で、私は全然楽になれないのだけれど?」

こうなった以上、早く魂の列に加わりたいとマヤリィは思った。そうすれば、全て忘れることが出来るだろう。

「…もし、貴女が現世に甦る方法があると言ったら、どうします?」

相変わらず彼の顔は見えない。

「貴女は生き返って、再び流転の國の主となり、恋人と再会する。それが出来ると言ったら、どうします?」

思わぬ提案に、マヤリィは首を横に振る。

「いいえ。生き返ったとしても、きっと同じことを繰り返すだけだわ。私の病気は治らないし、きっと彼女の理想の女にもなれない。私はもう…苦しみたくない」

「…では、貴女の病気を治した上で、恋人の理想の女性になって甦る方法があると言ったら、どうします?病気が治るのですから、苦しい思いをすることなんてなくなりますよ」

「っ…」

「本当は、魅惑の死神様にお会いしたくて仕方がないのではありませんか?」

それを聞いて、マヤリィの心は動く。

「なぜ、ルーリのことを知っているの?…いえ、それはいいとして。本当に、そんな方法があるの?私が苦しむこともなく、彼女を悲しませることもなく、今まで通り二人で一緒に過ごす。本当に、そんなことが出来るの?」

「はい。少しばかり私のお願いを聞いて頂けるのであれば、貴女様を生き返らせて差し上げましょう。病を完全に治し、恋人の理想の貴女様になって、流転の國に甦るのです」

病気が治る。彼女の理想の女になる。…そして再び流転の國の主になる。

マヤリィは訊ねる。

「先程、貴方は現世に未練があると言っていたわね?それと関係のある願いなのかしら?」

「はい。おっしゃる通りでございます。…生前の私はとある国家の王でありました。人間至上主義を掲げて異種族を次々に滅ぼすと共に、気に入らない者は人間であっても粛清する、暴君と恐れられた王でありました」

彼は話し続ける。

「私が人格破綻者であり、希代の殺戮者であったことは自覚しております。しかし、生きている間にもっと殺したかった。我が魔力を用いて、殺戮の限りを尽くしたかった。暗黒の魔術師としてその名を馳せていた頃のことを思い出すと今でも愉快になりますが、同時にそのことが未練となって、私はここに留まり続けています。そして黄泉の国の責任者となった今、私は死者を生き返らせることが出来ます。一時的に、ではございますが」

「責任者って…そんなことが出来るの?」

マヤリィは彼の経歴よりも、そっちの方が気になる。

「はい。少々、禁術のような側面がありますが、可能です」

「そう…。それで、貴方の願いは何?私がそれを叶える代わりに、私を生き返らせてくれるとでも言うのでしょう?」

彼が大きく頷いたことにマヤリィは気付く。

「はい。私の代わりに、現世で殺戮者となって頂きたいのです。今まで、こんな機会はありませんでしたが、貴女様にならお願い出来ます。流転の國やその周辺国に住む異種族を滅ぼし、貴女様に盾突く者がいれば惨殺し、それを私に見せて欲しい。…ただ、それだけのことです」

いやいや、何という恐ろしいことを言うの?

「殺戮…。生前の私の魔力をもってすれば簡単なことだけれど、何人殺せば貴方は満足してくれるの?」

マヤリィ、話に乗らないで。

「それは、実際にやってみないと分からないですね。人間至上主義の私にしてみれば、異種族を残らず殲滅することは必須事項にしたいですが、とにかく人が殺される様を見たいのです。…どうでしょう?貴女にとっては簡単なノルマではないですか?」

「そうね…確かに、やってみないと分からないわね」

「とりあえず、出来る限りの殺戮を行い、私を楽しませて下さい。無理はなさらずとも良いのです。貴女様は恋人に会う為に、生き返るのですから」

そう言われて、マヤリィは彼女の顔を思い出す。

「…分かったわ。その「出来る限り」というのがノルマってわけね?」

「はい。そう理解して頂けると助かります」

ちょっと待って、そんなの曖昧すぎるでしょう。

「ところで、今の私は生前の姿のままなのかしら。だとしたら、このまま彼女に会うわけにはいかないのだけれど」

彼女の理想の私は黒髪のロングヘア。

それに、綺麗なドレスでも着ていたら喜んでくれるかしら。

「確かに、この薄暗い中ではご自身のお姿も見えないでしょうね。…今、明るくしますから、ご覧になって下さい」

そう言うと、マヤリィにスポットライトを当てる。目の前には姿見。

「そんな……いつの間に…?」

腰まで届く漆黒のロングヘアに、華やかなドレスを身に纏った美しい女性が鏡に映っている。たった今、自分が思い描いた姿。鏡に映るその顔は、紛れもなくマヤリィである。

「これが、恋人の理想の貴女様というわけでございますね?」

相変わらず、彼の顔は見えない。

「ええ。この姿ならきっと、彼女も気に入ってくれるはず…!」

マヤリィは嬉しそうに微笑む。

「…では、契約成立ということでよろしいでしょうか?私はすぐに貴女様の病を治し、流転の國に帰して差し上げます。そして、貴女様は漆黒の殺戮者として、現世で大暴れなさって下さい。因みに、生前の魔術も変わりなく使うことが出来ますが、これからの貴女様の専門は殺人系統魔術でございます。流転の國の皆様と協力して、どうか私の望みを叶えて下さいませ」

「分かったわ。約束しましょう」

そう言うと、

「すぐにでも私を生き返らせて頂戴」

マヤリィは黄泉の国の責任者に命令する。

「畏まりました。…それでは、今をもって貴女様の病が完治したことをお知らせ致します。これより、流転の國の玉座の間にお送りさせて頂きます。…くれぐれも、ノルマのことはお忘れなきよう。私を満足させて下されば、貴女様は完全に生き返り、いつまでも愛する方と流転の國で過ごすことが出来ますので」

「そうね、私がどこまでやれるかで、その後の話が変わってくるというわけね」

「はい。そういうことでございます。…それでは」

薄暗い中で、責任者がお辞儀したのが見えた。

それきり、マヤリィの周りは真っ暗になる。


その直後、視界が明るくなったかと思うと、そこは流転の國だった。

「ここは…玉座の間…!本当に、私は帰ってきたのね!」

ドレスの裾を翻し、長い髪を翻し、マヤリィは喜びを噛みしめる。

それと同時に、マヤリィが入っていた棺は割れ、遺体は消え、その衝撃で第3会議室が崩れた。第4会議室でルーリに刻まれた星の刻印が発動したのと同じ時刻だった。

それからしばらく経って、

「ルーリとネクロが第3に向かっている…!」

マヤリィは魔力探知でルーリを見つける。

そして、不思議なことに、自分が死んでから流転の國で何があったのか、皆が何をしていたのか、ほとんどのことが頭に入っている。それに気付いたマヤリィはこの先の二人の行動を予測する。

「これから書庫にいる皆と合流するつもりなのね。…でも、私に会う方が先よ、ルーリ」

そう呟くと、マヤリィはルーリとネクロに向かって『強制転移』を発動し、二人を玉座の間の扉の前まで移動させる。

(自分達の身に何が起きたか分かっているかしら。いきなり『転移』させられて困っているかしら。…いずれにせよ、もうすぐ貴女に会える)

マヤリィは玉座に座り、二人が入ってくるのを待つ。

ゆっくりと、玉座の間の扉が開かれる。

「あら、早かったわね、二人共」

マヤリィは微笑みながら、ルーリとネクロを迎えるのだった。

精神操作されているのか、ルーリに執着しすぎて正常な判断が出来なくなっているのか、マヤリィはとんでもない契約を結んでしまいました。


ここから第15話に繋がります。

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