第21話
僕は貴女を愛している。
姫、そろそろ帰りましょう。
「姫、貴女は人間を殺すことは出来ても、スケルトンを殺すことは出来ませんよ」
骸骨と化したジェイは、姫がどこからか取り出した黒いナイフをかわしながら言う。
「分かってるわ。だから、ばらばらにしてあげましょう。ちゃんと骨壺に収まるようにね」
そう言いながらナイフを振り回し、ジェイが身に纏っている黒いローブを切り裂く。
「あ、貴方…!その骨は…!?」
ジェイの身体は確かに骸骨だが、その色は白ではなく、全身真っ赤になっていた。
「この色ですか?…これは姫の血の色です」
ジェイは言う。
「貴女が心臓を貫かれた時に流した夥しい量の血液。僕はカフェテラスに戻った後、それを全て集めて自分の部屋に置いていた。そして、自殺する直前に飲み干したんです」
「正気じゃないわ…」
姫は硬直する。彼は何を言っているの…?
「ずっと前から言ってるじゃないですか。僕は貴女を愛している。貴女に会う為に僕は死に、そしてこの骸骨の身体には姫の血が宿っているんです」
ジェイはローブを拾うこともなく、マヤリィに近付く。姫は動けない。
「さぁ、貴女が本当にそう望んでいるのなら、僕をばらばらにして下さい」
そう言いながら、ジェイは姫を抱きしめる。
黒いナイフが床に落ちる。
「ジェイ…!熱いわ…!」
姫は身体が熱くなるのを感じる。
「貴女の血と共鳴しているからですよ」
ジェイが言う。姫はジェイの骸骨の腕を振りほどこうとするが、力が出ない。
「熱い……!」
「姫、そろそろ帰りましょう」
ジェイはしっかりとマヤリィを抱きしめたまま、ささやくように言う。
「嫌よ、私はずっと流転の國にいるの…!」
凄まじい熱。姫は必死で抗おうとする。
あまりの熱さに耐えかねたのか、ピンク色のドレスが溶けていく。ハイヒールも溶けていく。心臓の部分に大きな穴の空いた、女の身体があらわになる。
「姫、ルーリに会いたいですか?」
「今の私なら、会えるわ…!」
長い黒髪で身体を覆い、姫は強気に言う。
「ドレスなんかなくても会えるわ…!」
熱さに耐えながら、姫は叫ぶように言う。
「これでも…ですか?」
ザクリ。
いつの間に拾っていたのか、ジェイは姫のロングヘアに黒いナイフを入れた。
物凄い量の髪が床に落ちる。
「いやっ…」
「貴女らしくありませんね」
熱さに耐えかねて赤い骸骨から遠ざかろうとする姫を捕まえ、ジェイはその髪を切る。
「帰りましょう、姫…!」
「やめて…」
身体が熱い。姫は必死で意識を保とうとする。
その間にも、ジェイはザクザクと姫の長い髪を切り落としていく。これでは、もう身体を隠せない。
「大好きです、姫」
赤いスケルトンに抱きしめられ、マヤリィは力を失ってその場に膝をつく。意識が朦朧としている。
その時だった。
突然、光り輝く魔法陣が出現する。
「マヤリィ様、お別れのご挨拶を申し上げに参りました」
魔法陣の中からルーリが現れる。
その後ろにはミノリとネクロの姿があった。
ミノリがジェイから黒いナイフを取り上げると、ネクロは自分のアイテムボックスから取り出した白いローブをジェイに着せる。
「マヤリィ様、これを…」
ルーリはマヤリィの身体を白装束で覆う。
彼女の髪は無造作に肩まで切られていた。
「こんな姿じゃ…貴女の顔を見れないわ」
そう言ってマヤリィは泣く。
そんな彼女をルーリは後ろから抱きしめる。
「マヤリィ様、大好きです。誰よりも気高く美しく慈悲深い、私の愛する御方…」
マヤリィが愛した、ルーリのハスキーボイス。
それが今、後ろから聞こえてくる。
ルーリはマヤリィの耳元でささやくように、
「マヤリィ様。私は貴女様に何を求めてしまったのでしょう。貴女様は何に悩んでおいでだったのでしょう。こんなに近くにいながら、貴女様を理解出来なかったルーリを、どうかお許しにならないで下さいませ。…ジェイは流転の國の誰よりも貴女様のことを想っていたのでございますね…」
その時、ジェイの身体が崩れる。
赤い骸骨が白いローブの中に埋もれる。
「ジェイ…!」
マヤリィは彼の名を呼び、傍に駆け寄るが、何の反応も返ってこない。
どうやら、時間切れのようだ。
「ごめんなさい……私も、いかなきゃ……」
マヤリィはジェイの骨を拾い、抱きしめる。
もはや熱さは感じられない。
「マヤリィ様…!」
「ご主人様…!」
皆の呼びかけに振り向く前に、マヤリィは立ち上がり、きちんと白装束を着る。
「愛してるわ、ルーリ」
マヤリィはルーリの頬を撫でると、
「全て、貴女に返すわね」
そう言って、虹色の宝玉を渡す。
「ミノリ、ネクロ、そして皆。ありがとう」
いつの間にか念話が発動している。マヤリィの声は玉座の間まで届いていた。
そして、マヤリィは美しい所作でお辞儀をすると、ジェイと共にその場から消えた。
「マヤリィ様…!?」
「ご主人様…!!」
「ジェイ殿…!!」
しかし、二人の気配はどこにもない。
水晶球の間は何事もなかったかのように静まり返っている。
「マヤリィ様……」
名前を呼んでも、返事はない。
その時、ルーリの手に残された虹色の宝玉が輝き始めた。
「ルーリ、それ……!」
「…………!?」
宝玉から放たれた光がルーリを包む。
次の瞬間、ルーリは『夢魔変化』していた…。
ルーリにかけた禁術『能力強奪』を解き、彼女を夢魔に戻したマヤリィはジェイと共に流転の國から姿を消しました。
本来の自分を取り戻したルーリは、再び流転の國の主として、皆と一緒に生きてゆくことになります。




