第18話
桜色の都に現れた美しき殺戮者マヤリィ。
彼女は真っ先に国王の元へ向かいます。
「国王陛下、宙色の大魔術師様がいらっしゃいました…!甦られたとのことにございます!」
「何だと?それは…本当か!?」
耳を疑うような報告に国王は立ち上がる。
そこへ、
「本当よ。シャドーレ」
そう言ってマヤリィが現れる。
側近も突然のことに困惑している様子だが、彼女は気にすることなく、
「ごきげんよう。桜色の都の国王陛下」
「マヤリィ様、ご無沙汰しております…!」
シャドーレはすぐにマヤリィの元へ駆け寄ろうとするが、その姿を見て足が止まる。
薔薇の花があしらわれた淡いピンク色のドレスに漆黒の長い髪。ピンク色のハイヒール。
「マヤリィ様……?」
確かに目の前にいるのは本物のマヤリィだが、その姿は一体どうしたというのだろう。
「二人だけにして頂戴」
マヤリィは威厳を込めて命じる。
「はっ!畏まりました」
側近は頭を下げると、すぐに退出する。
「シャドーレ。貴女が桜色の都へ戻ったと聞いた時は驚いたけれど、流転の國とより良い関係を築くつもりだと聞いて、嬉しく思うわ」
「有り難きお言葉にございます、マヤリィ様」
「…貴女にも話しておきましょう。私がなぜ流転の國に帰ってくることが出来たのかを」
そう言って、マヤリィは微笑むと、
「私は黄泉の国から来た漆黒の殺戮者。皆が私の蘇生を望む声が聞こえたから、そこの責任者に直訴したら、この世で殺戮を行うという条件付きで私を甦らせてくれたの。つまり、私が流転の國に留まり続ける為には、ノルマを達成する必要がある」
シャドーレは混乱する。
黄泉の国…?殺戮…?ノルマ…?
「黄泉の国の責任者は人間以外の種族に対して排他的よ。だから、初めに私は人間以外の種族を滅ぼし、その後は不必要な人間を殺していく。なぜ彼が人間至上主義なのかは私も分からないけれど、ノルマを達成すれば完全に生き返ることが出来るわ。…貴女達が必死で私を甦らせる方法を探していると知って、何が何でも戻ってこなくてはと思ったのよ」
「その為に、貴女様は殺戮者になられたというのですか…?」
シャドーレは懸命にマヤリィの話を理解しようとする。しかし、理解しようとすればするほど、目の前の彼女が恐ろしい存在だということを思い知らされる。
「ええ。今の私の専門は殺人系統魔術よ。魔術具は全て黒。…だから、漆黒の殺戮者と名乗るようにした」
「殺人系統魔術…でございますか…」
「そう。既に天界とエルフの里は滅ぼしたわ。あとは、貴女の国にいる困った害虫共を駆除しようと思って、今調査をさせている所よ」
それを聞いて、シャドーレは血の気が引いていくのを感じた。
「天界とエルフの里を…滅ぼした…?」
「色々と事後報告でごめんなさいね。流転の國では、私の魔術を皆に見せる為に、ランジュがその身を捧げてくれた。…あと、私の命に背いたエルフ二人を粛清したわ」
「そ、その二人とは…シェルとリスのことでございますか…?」
「ええ。『人化』を拒んだから、仕方なく、ね」
シャドーレは今までに感じたことのないような恐怖を感じる。これだけのことをしておきながら、マヤリィは笑っているのだ。
「わ、私は…貴女様のお姿に驚きましたわ。…その格好は…ルーリの為に…?」
シャドーレは話題を変えようとする。
これ以上、殺人の話は聞きたくない。
「そうよ。私はルーリの恋人だから、彼女の理想の女になれるよう色々考えたのよ。今朝は赤いドレスを着ていたのだけれど、何も言ってくれなかったからいまいちだったのかと思ってこれに着替えたの。ルーリったら、せっかく再会出来たというのに前よりよそよそしい気がするわ。貴女はどう思う?私はルーリの理想のマヤリィになれたかしら?」
美しい漆黒の髪は腰まで届き、淡いピンク色のドレスがよく似合っている。ハイヒールはよほどの高さと見えて、シャドーレと並んでもあまり変わらない気がする。
「はい。そのようにお見受け致しますわ。とても麗しく華やかなお姿にございます。もしやルーリ様は美しすぎる貴女様を前にして照れていらっしゃるのでは?お美しいマヤリィ様に素敵なお声で愛をささやかれたら、平静でいられるはずがございません。私はルーリ様が羨ましいです」
ようやく落ち着いてマヤリィの今の姿を見たシャドーレは、その美貌に見とれるが、
(ルーリの理想って、ロングヘアにドレス姿のマヤリィ様なのかしら…)
内心、あの時の話を思い出している。
「よかった。貴女にそう言ってもらえて安心したわ。そうよね、いきなり私が彼女の理想の女になって現れたりしたものだから、ルーリはまだ驚いているのよね」
シャドーレの言葉を都合よく解釈する。
「本来、黄泉の国に行った者は魂だけになって順番に消えていくものらしいの。でも、私は生前の魔力が高かったせいなのか、なぜか人の姿のままで責任者に会えたのよね。お陰でこうして甦ることが出来たから、詳しいことはどうでもいいのだけれど」
「ええ。お会い出来て本当に嬉しいですわ。桜色の都まで来て下さったこと、感謝致します」
シャドーレはそう答えつつ、考える。
(マヤリィ様が恐ろしい殺戮者になってまで甦られたのは、それだけルーリへの執着が強いということなのでは…?)
マヤリィが異常なほど、ルーリを意識しているのが気になる。
「そういえば、シャドーレ」
ここからが本番だ。マヤリィは言う。
「さっき私が天界とエルフの里を滅ぼしたという話は覚えているわね?」
「はっ。黄泉の国の責任者の方は人間至上主義であると伺いました」
シャドーレはそう言ってから、
「…では、桜色の都に住む異種族も滅ぼされるおつもりなのですか?」
「ええ、その通りよ。こればかりは国王である貴女の許可を取らなくてはと思って、ここに来たの」
(私が断れないことを知っていて、そのようなことをおっしゃるのですね…)
シャドーレは頭を抱えたくなる。どうしてこんなことになってしまったの?
「それと、貴女の地位を狙っている貴族とか、国王陛下に仕えるのに相応しくない人間とか、そういった者達も全員殺してあげるわ。流転の國を離れたとはいえ、貴女は私にとって大切な人。貴女の脅威になる可能性のある者は全て排除したいと思っているの」
(つまり、ターゲットを探していると…?)
「畏れながら、マヤリィ様。大変申し訳ないのですが、考える時間を頂けないでしょうか?現段階では、誰が私の脅威になる者なのか、何も把握出来ていない状態にございます」
シャドーレはそう言って頭を下げる。
しかし、マヤリィはシャドーレの言葉を聞き流すような調子で、
「ああ、そういうことなら心配しないで頂戴。さっき言ったでしょう?今調査をさせていると。そろそろ終わった頃かしら。念話で聞いてみるわ」
マヤリィが念話を送ってから、まもなくシャドーレの前に現れたのは、ミノリだった。
「失礼致します。只今、参上致しました」
「ミノリ……!」
思わぬ人物の登場にシャドーレは動揺する。
(こんな形で貴女と再会するなんて…)
ミノリは複雑な気持ちを隠して、
「ご無沙汰致しております。…シャドーレ様」
そう言って頭を下げる。
「よく来てくれたわ、ミノリ…」
シャドーレはそう答えるのが精一杯だった。
二人はそれきり何を言っていいか分からないが、マヤリィはそんなことはお構いなしに、
「では、ミノリ。後は任せたわよ。シャドーレに調査結果を報告して頂戴」
「はっ。畏まりました、ご主人様」
ミノリの言葉で、シャドーレはマヤリィが再び流転の國の最高権力者となったことに気付く。
「シャドーレ。色々話しすぎてちゃんと答えを聞いていなかったけれど、さっきの話、許可してくれたということでいいのよね?」
「マヤリィ様…!?」
これからどこへ行かれるの?
まさか、異種族の集落へ…?
しかし、シャドーレは何も聞けなかった。
「大丈夫よ。貴女に迷惑をかけるようなことはしないわ。…では、後はよろしくね」
そして、マヤリィはどこかへ『転移』した。
残された二人は再会を喜び合う余裕もなく、仕方なくマヤリィの命令に従うのだった。
戸惑うシャドーレ。
戸惑うミノリ。
されど、彼女を止める術はなく……。




