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流転の國 vol.2 〜闇堕ち編〜  作者: 川口冬至夜


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第13話

嫌な予感は当たった。

危惧していた通りのことが起こった。

あの時と同じように、天使達がどんな方法を用いたのかは分からない。

分かっているのは、想定以上に天界の動きが素早かったということだけ。

「…危惧していた通りだったな」

そう言ってルーリは冷静に事実を受け止めるが、皆は動揺を隠せない。

彼女の首には確かに星の刻印の模様が表れているのだ。

「最高権力者を狙いに来ましたか…」

ミノリが悔しそうに唇を噛む。

「場所が場所だけに、爆発すれば命の危険があります。早急に除去の手段を探らなくては」

「…私の力が及ばなかったということですな。ご主人様、誠に申し訳ございません」

ネクロがそう言って跪き、深く頭を下げる。

「いや、お前が天界の目論見を予測してくれたお陰で、対処法を考えることが出来た。もしこれが本当に突然の出来事だったならば、今このように冷静に話し合うことは不可能だっただろう。…マヤリィ様でさえ気付くことの出来なかった時限爆弾だ。お前が責任を感じることはない」

どうやら、ルーリは自分が狙われることを覚悟していたらしい。

「それに、これが私の身体に刻まれた以上は爆発するまでこのままにしておくのが最善策だと思う」

ルーリは淡々とそう言うが、

「それでは、ご主人様のお命が…!」

激しく動揺する皆を見て、ルーリは力強い声で話し始める。

「皆、忘れているかもしれないが、私は普通の人間ではなく、悪魔だ。色々と考えてみたが、天使の魔力が込められている星の刻印は、魔力値の高い悪魔には効かない可能性が高い」

それを聞いたミノリは、

「確かに、天使と悪魔の相性は最悪で、まともにぶつかり合えば魔力値の低い方は消滅してしまう場合もあるとのことにございます」

そう言って『種族別魔力相性早見表』という本を見せる。そんなのがあるんだね。

ルーリは手を打って、

「やはり、そういうことになるのか」

自分の仮説がミノリの持っている本によって裏付けられたことで自信を持つ。

「ルーリ様って人間ではないのですか?」

バイオが訊ねる。

「ああ。お前には言ってなかったっけ?」

ルーリが軽い口調で言う。

「『魅惑』魔術を使役なさることは伺っておりましたが…」

「マヤリィ様が別格なだけで、普通の人間が『魅惑』を使うことはかなり難しい。それに、人間には『夢魔変化』は出来ない」

確かに、マヤリィもそれは出来なかった。

「では…ルーリ様は本物の…悪魔……」

バイオが僅かに後ずさりする。

「そんなの今さらにございますぞ、バイオ殿」

ネクロはそう言って(恐らくローブの下では)微笑んでいる。

「では、今日は『夢魔変化』ではなく、ルーリ様の本性を見せて頂けるということで、よろしいですかな?」

「いや、むしろ人間に近い今の姿が私の本性だと思うんだが…。まぁ、いいか」

ルーリはそう言うと、瞬く間に姿を変える。

それは普通の人間でもなく蠱惑的なサキュバスでもなく、悪魔としか言いようのない姿。

一同はそれを見て恐れおののく。

ルーリさん、貴女の変化のレパートリーはあと幾つあるんですか?

「私はこのまま第4会議室で星の刻印が発動するのを待つ。そして、天使共の切り札など、我が魔力をもって消し去ってやろう。…星の刻印を刻まれたのが私でよかったよ」

ルーリはそう言うと、

「これが片付くまでの間は、ミノリが皆を率いてくれ。全てお前に任せる」

「はっ。畏まりました、ご主人様」

ミノリは素直に頭を下げる。

そこへ、

「ご主人様。私も共に第4に行きますぞ」

ネクロが言う。

「私の『シールド』ならば爆発にも耐えることが出来ましょう。…それに、万が一のことを考えれば、誰かが傍についていなければなりませぬ」

マヤリィを蘇生することは出来なかったが、もしルーリが星の刻印によって命を落とした場合、その場にいればすぐに蘇生魔術をかけ、甦らせることが出来るかもしれない。

ネクロはそう思った。

「確かに、お前が傍にいてくれれば心強いな。では、共に結界部屋に行こう」

ルーリはネクロの申し出を受け入れる。

「ミノリ。どのくらい時間がかかるかは分からないが、その間、皆を頼む」

「はっ!畏まりました、ご主人様」

そして、ルーリとネクロは結界部屋こと第4会議室へ転移した。


「はぁ…」

「ミノリ様、大丈夫ですか?」

深いため息をつくミノリを見て、シロマが心配そうに訊ねる。

「ええ…大丈夫だけど…。今のご主人様、怖かったわね」

まさしく悪魔と呼ぶに相応しい姿だった。

「マヤリィ様はご存知だったのでしょうか?」

バイオが聞く。

「当然でしょう。いつもは普通の人間の姿をしているけれど彼女は悪魔。そうと知っていてマヤリィ様は彼女を傍に置いていたのよ」

ミノリは話し続ける。

「彼女は『流転の閃光』を持つ雷系統魔術の天才であり、『魅惑』を自在に操る夢魔。誰もがその美しさに見とれている間に情け容赦なく殺戮を行う悪魔なのよ」

「だから魅惑の死神、ですか…」

「天性の殺戮者。女神の顔をした死神。彼女を表す恐ろしい言葉は幾つもある。それでも、マヤリィ様は彼女を頼りにしていたわ」

それは事実だが、ミノリは少し悔しい。

「マヤリィ様は誰よりも優しい御方でございましたから、それを補う形でルーリ様が傍に控えておられたのでしょう」

シロマは、常に玉座の間でマヤリィの傍に控えていた頃のルーリを思い出す。

そして、思わず瞳を潤ませる。

「シロマ…。今は皆で力を尽くして、マヤリィ様を生き返らせる方法を探しましょう」

ミノリが言う。それがマヤリィにとって幸せなことなのかどうかは誰にも分からないが。

「ミノリが指揮をとるからには、皆には書物の解析を手伝ってもらう。流転の國に存在するあらゆる書物を解析し、マヤリィ様を蘇生する方法を見つけ出すのよ!」

「はっ!」

書物を読み解く者であるミノリ以外は皆、専門外の仕事である。しかし、何もせず時間を無駄に過ごすわけにはいかない。

マヤリィが主だった頃から、書庫への転移は禁じられている為、歩いて移動する。

時短を考えれば、書庫の扉の前に転移すればいいだけの話だが、歩いて移動する。

「ルーリ様だけは敵に回したくないわね…」

バイオが隣を歩いているユキにそっと話しかける。

「本当に…恐ろしいお姿でした…」

ユキは先程のルーリを思い出して震える。

二人は元天使というだけあって、普通の人間以上に悪魔の存在が怖いのかもしれない。

そこへシロマが、

「実は、私も怖かったです…。ルーリ様だと分かっていても、怖かったです…」

「味方で良かったわね…」

ミノリの笑顔は引きつっている。

「しかし、ネクロ様は全く動じておられませんでした。さすがは黒魔術師様ですね…」

ランジュが呟く。あの悪魔の正体がルーリだと分かっていても、二人きりになるのは皆怖い。

今夜、悪夢を見ませんように…。

一同は同じことを考えながら、書庫へ向かって歩いてゆくのだった。

天使達はうまくやったと思っていることでしょうが、彼等の盲点はルーリが悪魔種だったということ。

これ以降、新たな星の刻印が表れないとしたら、天界の切り札はなくなったということになります。

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