第12話
今朝、ルーリは本当にジェイに起こしてもらったのか…?
それは謎です。
次の日。玉座の間。
「ご主人様。一つ、よろしいですかな」
珍しく、真っ先にネクロが発言する。
「どうした?何か気になっていることがあるのか?」
「はっ。畏れながら、申し上げます。宙色の大魔術師様がお隠れになったという事実は桜色の都だけでなく、天界の者達も察知していることと存じます。…となれば、この先どんな脅威が待ち構えているか分かりませぬ」
確かに、誰も知らない間に水晶球に『星の刻印』を仕込むような連中だ。
「お前の言う通りだな。…ユキ、バイオ、仮に天界の者達が我が國に攻め込んできたとして、奴等はどの程度の戦力を有しているだろうか?」
「はっ。わたくしの知る限りでは、戦力的には流転の國の皆様の敵ではございません。…しかし『星の刻印』の存在はわたくしもバイオも知らされていなかったことゆえ、未使用の『時限爆弾』がまだ天界にあるとすれば非常に厄介な事態になるかと存じます」
十年以上前に天界から見限られたバイオよりもユキの方が近況に詳しい。
「確かに『星の刻印』は想像以上に恐ろしい代物だ。仮に、奴等がそれを大量に隠し持っているとすれば…我が國とて、悠長に構えてもいられないな」
ルーリが厳しい表情になる。
「あれの一番の恐ろしさは、本人も周りも気付かぬうちに身体に埋め込まれるということだ。そして、取り除く為には強大な魔力を刻印に向けて打ち込まなければならない。…シロマ、あの時私が放った『閃光』は刻印ごとマヤリィ様の御手を吹き飛ばしたんだったな?」
「はっ。私が光の中に入った時には、既にマヤリィ様の御手は刻印と共に消えておりました。その為、すぐに『再生魔術』を発動させて頂いたのでございます」
そうして顕現直後にマヤリィの手に埋め込まれた星の刻印は処理された。
お陰で突然の爆発による被害は防げたが、シロマはあの時のことを思い出すと今も心が苦しくなる。
「畏れながらご主人様、私の場合は…」
「いや、それ以上は言うな。思い出さないでくれ」
バイオが話そうとするのを、ルーリは止めた。
「ご主人様…!」
「思い出したくないことは思い出さない方がいい。お前が話したいというなら止めないが」
ルーリは優しい声で言う。
「はっ。ご主人様のお優しいご配慮に感謝致します。…確かに、思い出したくないことですので、お話しすることは控えさせて頂きます」
バイオは跪き、頭を下げる。
その後ろでは、ランジュが安堵の表情を浮かべている。
「…では、ご主人様。出来る限り『魔力探知』を強化し、警戒に当たる他ないということですな」
「ああ。現時点で有効な対策を打ち出せないのがつらい所だが、星の刻印が刻まれれば必ずその模様が身体に表れることは分かっている。最悪の事態を防ぐ為にも、自分の身体に異変を感じることがあれば、すぐに申し出るように」
「はっ!」
ルーリの言葉に、皆が跪いて頭を下げる。
しかし、あの時と同じように、魔力探知をすり抜けた『星の刻印』は容易く流転の國に忍び込んだ。
『星の刻印』再登場。
宙色の大魔術師亡き今、天使達はこれを好機と捉えたのか、流転の國にダメージを与えようとしています。




