第5話
改めてマヤリィに謝罪するルーリ。
いつの間にか玉座の間に控えているシャドーレ。
主は配下二人を連れて衣装部屋へ向かいます。
「ご主人様、この度は誠に申し訳ございませんでした」
玉座のマヤリィを前にしてルーリは跪き、頭を下げる。今日は華やかなドレスではなく、正装。
「もう謝るのはやめて頂戴」
ブロンドの髪を短く切り揃え、主と同じパンツスーツに身を包んだルーリは到底サキュバスには見えない。
「…でも、貴女のショートボブ姿を見ることが出来て、嬉しい気もするわ」
少年のように悪戯っぽく笑うマヤリィ。
実際、少年と見紛うほどに髪を短く刈り上げているのだが。
「マヤリィ様…!」
「私は何もかも諦めたけれど、この髪だけは譲らないわ。誰も切ってくれなくなったら、自分でバリカンを使うつもりよ」
この人ならやりかねない。
「可愛らしい服も、化粧品も、普通の女性の喜びも、もういいの。…私のアイデンティティはこの短い髪だけ」
「マヤリィ様…」
ルーリは寂しそうに俯く。
「それに、同志もいるしね」
「はっ。貴女様の苦しみを一番理解出来るのは私であると自負しております」
いつの間に玉座の間に来たのか、シャドーレがマヤリィの前に跪く。
シャドーレは桜色の都出身の黒魔術師にして、元は貴族の令嬢。女は長い髪であるべきという都の風習を嫌い、自らの美しい髪を厭い、魔術師として高い地位を得たのち、ようやく断髪に踏み切った。
流転の國に来てからも定期的に髪を刈り上げているシャドーレ。凛々しく美しい顔立ちにプラチナブロンドの短髪がよく似合う。
「ルーリ、髪を切ったのね。一瞬、誰かと思ってしまったわ」
「シャドーレ…!」
見た目に反して、喋り方は貴族の令嬢だった頃と変わらない。
「バリカンは使わなかったの?うふふっ」
彼女はマヤリィと同じくバリカン好き女子である。
「シャドーレ、ルーリはこれでも髪を切ったことを後悔してるの。あまり問い詰めないであげて頂戴」
「はっ。畏まりました、マヤリィ様。…しかし、貴女様の御髪については詳しくお伺いしたいですわ。美少年の如き短髪…とても素敵です」
シャドーレは頬を染めて、主に見とれる。
身長190cmのシャドーレから見ると、160cmのマヤリィは美しくも可愛らしい。
「ありがとう、シャドーレ。嬉しいわ。…気分が気分だったから、いつもより短くしちゃったのよ。その後、ジェイにボーイッシュなカジュアルコーデをすすめられたり、男子高校生の制服を着せられたり、色々と大変だったわ。ふふっ」
あまり大変そうには聞こえないが。
「カジュアルなコーディネート…?それはぜひ拝見したく存じます。もしかして、貴女様の御髪をお切りになったのはジェイ様…?」
「ええ。彼は昔から私の…忠実な配下よ」
そう言ってマヤリィは微笑む。
本当はそれ以上の関係だが。
「ルーリ、シャドーレ、これから衣装部屋に行きましょう。サキュバスにいつまでもスーツを着せておくわけにもいかないわ」
主は立ち上がり、二人を導く。
シャドーレはどうしてもルーリの新しい髪型が気になるようで、
「ショートヘアも似合うわね、ルーリ。とても美しいわ。貴女のうなじをいつでも見られる日が来るとは思わなかった」
シャドーレはルーリの美しいうなじを見て、蕩けそうな顔をして喜んでいる。
「私にはショートヘアは向いていないように思えるんだがな…」
ルーリは苦笑する。
彼女は身長174cm。ハイヒールを履いても、シャドーレを超えることは難しい。
「ねぇ、触っていいかしら」
「!?」
「ルーリの首筋、すごく綺麗なんだもの」
「ああ、別にいいけど…。っ!?」
言い終わらないうちに、上から細くしなやかな指がルーリの首筋まで下りてくる。
「っ…」
シャドーレにうなじを撫でられて、ルーリは思わず首をすくめる。
「くすぐったいかしら?ごめんなさいね」
そう言いつつもシャドーレは楽しそう。
マヤリィに助けを求めようにも、もっと激しく弄ばれる未来が見える。
「私はとんでもない罪を犯したからな…」
これも罰だと思って、ルーリは諦めた。
そんなこんなで衣装部屋に着く。
「…やはり、私は軍服が一番ですわ。都の黒魔術師部隊にいた頃もずっと着ていましたので、慣れていますの」
シャドーレもマヤリィと同じく、他に何を着たらいいか分からない女子なので、唯一馴染みのある軍服を選ぶ。
「いつ見てもカッコいいわ、シャドーレ。高身長の美男子さん、貴女に恋人がいるのは知っているけれど、私も恋に落ちそうよ」
マヤリィも惚れ惚れするイケメンシャドーレ。
「勿体ないお言葉にございます、マヤリィ様。貴女様にそう言って頂けるなんて、私、とても嬉しいですわ」
シャドーレが本当に嬉しそうに笑う。
その様子を見てマヤリィも微笑みながら、
「ルーリ、貴女はどうする?」
「マヤリィ様、私は…」
ルーリは困惑した顔で、
「何を着ればよろしいでしょうか…」
流転の國で一番おしゃれな人なのに。
「わ、私はほら…そういうわけでファッションに疎いから…」
マヤリィが逃げる。
「わ、私とて…ルーリの洋服を決めるなんて大それたことは出来ませんわ」
シャドーレも逃げる。
「…では『隠遁』のローブで…」
ルーリはとにかく隠れたい。
しかし、許されるわけがない。
「…これなんてどうかしら」
マヤリィが沢山の洋服の中から適当に取り出したドレスを見せる。当然、ローブは却下だ。
「素敵ですわね。…ルーリ、着てみたら?」
仕方なく、着替える。
「…さすがはルーリ。完璧に着こなしてる」
「他にもありますわよ。この靴はいかがでしょうか?」
「あら、いいわね。…ルーリ、とにかく履いてみなさい」
不思議なことに、衣装部屋はその時その人に必要な物が必ず出てくる。お陰で、コーディネーターがいなくても、ルーリに相応しい格好をさせることが出来そうだ。
「やはり、これが一番かと思いますわ」
最初にマヤリィが取り出した漆黒のミニドレスを着たルーリを見て、シャドーレが満足そうに頷く。
「姿見はこちらですわよ、ルーリ」
シャドーレに促され、ルーリは鏡で自分の姿を確認する。
背中が大きく開いているのでうなじを隠せないのが気になるが、着心地の良い服だ。
「素敵よ、ルーリ。よく似合ってるわ」
マヤリィも笑顔で頷く。
やはり、ルーリはこうでなくては。
二人が喜んでいると、
「マヤリィ様、ありがとうございます」
ルーリは主に向き直り、深く頭を下げると、
「シャドーレ、ありがとう」
長身のシャドーレを見上げて、頭を下げる。
「よかった。ようやくいつものルーリになりましたわね」
シャドーレが微笑む。
「…さて、衣装部屋の後に行く場所といえば…分かってるわね?」
「はっ。カフェテラスでございますね?」
マヤリィがコーヒー中毒なのは皆が知っている。
主が配下を連れて潮風の吹くカフェテラスに現れると、すぐにメイドが注文を聞き、それぞれに飲み物を運んできた。
こうして、寛ぎの時間が始まった…はずだった。
ルーリ→漆黒のミニドレス
シャドーレ→軍服
マヤリィ様、貴女着替えていないでしょ?




