主人公覚醒イベント(のようなもの)前編
チート?んなもんねぇかもしれんし、あるかもしれない。そう、みんなの心の中に。
「ここが噴水広場です。周りにある花は爺やが管理しているんですよ?」
「これは、凄いね」
エファちゃんに連れられ、屋敷の探索に出ている俺は改めてここが大豪邸だと確信した。
今いるところは大きな吹き抜けになっている噴水がある広場。上を見上げればどこまでも晴れ渡る晴天、下を見れば床はきめ細かいタイルのようなもので覆われており、噴水の周囲の四方にはガウスさんが手入れしているという草花が色彩を放っている。
正直それだけでも凄いのに、ここに来るまでもう20は扉を開けたのだ。
しかも、どの部屋も相当広い。厨房や、応接間、何かよくわからない魔法陣みたいなものがびっしりある部屋など。正直色々言われても覚えきれなかったが、そのどれもが華美な装飾で彩られていた。
ちなみに、俺が一番興奮したのは鎧やら剣やらがあった部屋だったということをここに記しておく。
「さって、つぎはー!」
ルンルン気分のエファちゃん。だが、俺は気になっていたことを聞いてみる。
「あ、エファちゃん。俺、屋敷を外から見てみたいんだけど」
当然だろう。こんなに立派な屋敷だ。外から見たらさぞ凄いことになっているに違いない。
だが、そう告げた時、あからさまにエファちゃんは動揺した。
「……えっ?あ、いやあの。そ、外なんて面白くないですよ?普通のお家ですし、それに、ほら、あれです。今から雨が降るので、外にいるのは危ないですよ?」
「え、雨?」
再度上を見上げる。だが、雨雲なんてどこにもないどころか、晴れ渡る晴天だ。それに、雨が危険って。
「こんなに晴れてるのに?それに、雨くらい大丈夫だよ。それにもし降っても、エファちゃんが濡れちゃうから一瞬待っててくれれば大丈夫。パッと見たいだけだから」
そう言うと、エファちゃんは凄い勢いで首を振った。
「だ、だめです!あの、えと。そう!この世界の雨は、強力な魔力を伴ってるんです。降ってきて当たったら、あれですよ?人は猫さんとか、猫さんに変身しちゃうんです!」
「えー?ほんとにぃ?」
「ほんと!ほんとなんです!」
すごい勢いで首を振り、俺の手を取り屋敷の中に引っ張り込もうとするエファちゃん。
しかし、猫に変身しちゃうって。可愛らしい嘘だなぁ、と思いつつ、気分的に家の外には出たくないのであれば無理強いするのもなとも思う。
"でも、玄関の扉をちょっと出るだけなのに?"
なんて、そう思っているうち。ポツポツと、雨が降ってきた。
「えっ!?」
おかしい、さっきまでとても雨なんか降りそうもない天気だったのに。
ポツポツという音は次第にザーーという強い雨に代わり、豪雨に変わり始めた。
「さっ!雨も降ってきましたし、屋敷の中へ!危ないですよー!ほらほら!猫さんになりたいですか?」
「えっ!?あ、ああ。うん、わかったよ」
俺は何か釈然としないものを覚えつつ、おとなしく屋敷の探索に戻るのだった。
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「つ、つかれたぁ……」
あれからおよそ一時間ほど。エファちゃん主導の屋敷探索は続き、ついに終わって部屋に戻ってきたのだが。
やはりこの家は相当広い。中にはこの世界の映画館らしき所や、図書館のようなものまであった。
大袈裟かもしれないが、ここは一つの町のようである。
「でも、楽しかったな」
自然と笑みが溢れる。エファちゃんのはしゃぎようもそうだし、文字通り自分の知らない世界を覗いた感慨はひとしお。
剣や鎧、魔法陣なんかを見てしまっては、かつて憧れたファンタジーの世界に来た、という実感が湧いてくる。
「となると、あれかな。冒険者とか、ギルドとかもあるのかな?」
異世界での基本。冒険だ。
エファちゃんは最初、迷いの森をダンジョンと言っていた。
であれば、そういったものもあるのかもしれない。
「よし、ガウスさんにでも聞きに行ってみようかなぁ」
年甲斐もなく、少しワクワクしながら部屋の扉を出る。部屋を出てしばらく行くと、窓からはつい先ほどの中庭が見えた。
「……あの雨って、花に当たっても大丈夫なのかな?」
気になった俺は、中庭に行ってみることにした。
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「うん、やっぱり綺麗だ」
雨は既に止んでいたようで、吹き抜けのど真ん中にある噴水まで出てみる。
「うーん、やっぱり凄いな。なんていうか、心が洗われるというか……」
だが、いつまでもここにいるわけにも行かない。とりあえずガウスさんを探しに行こう。そう思って踵を返したのだが。
ザリ……
「……?」
ザリザリ
通常であれば、普通のこと。誰が気にするでもない、本当に普通のこと。
だが、それは。今の俺には異常に見えた。
「確かに雨、降ってたよな」
恐らく花壇から土が風で飛んだのであろう。靴裏でそれを踏んでしまった。ただそれだけだったのだが。
「え、あれ?なんで?」
土は一切の湿り気を帯びておらず。
花壇の土も、花も、全く濡れていなかったのだ。
「……いや、確かに雨が降ったはず、だよな。これも魔術的な何かって、ことなのかな?」
そう納得しようとした。したのだが。
なにか、うすら寒いものを背中に感じた俺は、急いで屋敷の中に引き返すのだった。
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「ガウスさん、居ますか?ガウスさーん!」
「おや、キョウヤ様?どうされました?」
俺は先ほどの件はひとまず置いておいて。部屋で気になった事を聞くため、ガウスさんに会いにきていた。
ちなみに厨房にいらしたようで、中からはいい匂いがただやってくる。
開いた扉からふと見ると、シャエルさんとリスタさんもテキパキと料理をしているようだった。
「夕食には、まだお時間をいただきますが?」
「ああいや。そうじゃなくて。ちょっと聞きたいことがあったので。でもお忙しそうですし、あとでも全然!」
俺はそういうと、会話を切り上げようとしたのだが、ガウスさんが気を利かせてくれた。
「構いません。お嬢様からキョウヤ様の現状は軽くですがお伺いしております。気になることばかりでしょう。二人とも、あとは任せます」
「「承知しました」」
そういうと、話ができる場所に案内してくれるのだった。
あっれぇ?前編後編でおさまんないぞぉ?