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大抵豪邸のテーブルってすごい長い(後編)

顔合わせ回はここまで

「私もキョウヤさんと沢山話をしたいです!」


 椅子をバァン!という音を伴って立ち上がり、俺の方にカツカツカツと歩いてくるエファちゃん。それを見て、ガウスさんが眉を細め、嗜めるが。


「お嬢様!お行儀が悪いですぞ!」

「しりません!どうせここにはっ!」


 と、感極まったかのように叫び、何かを言おうとしたエファちゃん。だが、俺の方を見て深呼吸し、コホンと咳払いをした。今、何かを誤魔化したように見えたが、一体どうしたというのだろう


「……とにかく。爺や、いえガウス。わたくしは客人と話をしたいのです。無言の会席など聞いたことがありません」


 どこか否定は許さないとばかりの意思を込めて強くガウスさんに向かうが、ガウスさんも負けてはいない。慄然とした態度で向き合う。


「先ほども申したではありませぬか。お嬢様、あなた様は―――」


 と、ガウスさんも俺の方を見ると何かを考慮するかのように間を開ける。


 何かを隠しているような、そんな空気が漂う中。


 ガウスさんが口を開いた。


「そう!あなた様は、お食事中に喋るとボロボロとこぼす癖がありますな?レディが客人にそのような姿を見せても構わないのですか?」


「なっっっ!?ななななな!?そんなことありません!キョウヤさん、今の嘘!嘘ですからね?!」


「いいえ!お嬢様、この際ですから申し上げますが、貴女さまには淑女(しゅくじょ)としての(たしな)みがですな!」


 キャイキャイわいわい。いつの間にか吹き飛んだ妙な空気。ガウスさんとエファちゃんの丁々発止のやり取りが続く中、俺はそれを楽しく見ながらご飯を食べ終わり、呟く。


「ご馳走様です」

 ――――――――――――――――――――

 食後、エファちゃんは淑女にあるまじき速度でご飯をかきこみ、ご馳走様!と叫んで部屋に戻ってしまった。その際、俺の方にバッと振り返り。


『あとで屋敷をお散歩しましょう!爺や抜きで!』

 

 と叫んで行ってしまった。妙に大人らしい表情、振る舞いをする時もあるが、あれが彼女の素なのだろう。ガウスさんも顔を顰めていたものの、やれやれと苦笑いをしていた。


 そんなやりとりの後、俺は食後にとコーヒーをご馳走になっている。このコーヒーもまた、絶品だった。あまりコーヒーのことはわからないが、あの喫茶店で飲んでいた物よりも美味しいかもしれない。マスターには悪いけど。


「朝ごはんおいしかったです。ガウスさん」


「それは何よりです。朝食ゆえ簡単なものではありましたが、彼女たちも腕によりをかけた甲斐があるでしょう」


 彼女達とはたぶん、シャエルさんとリスタさんのことだろうか。そう思い、聞いてみる。


「えと、シャエルさんとリスタさんのことですか?」


「はい。そもそも、この屋敷には私たち3人の使用人とお嬢様しかおりませぬゆえ」


 びっくりだ。まだ外には出ていないが、かなりの広さだと思えるこの屋敷を、たった三人で管理してるのか!?


「そ、そうなんですか?じゃあ、あの二人にも後でお礼を言っておかないと」


 ふと二人が先ほど立っていたところを見ると、既にいない。おそらく、エファちゃんが部屋に戻った時に着いて行ったのだろう。


 しかし、俺の発言が何かおかしかったのだろうか?物珍しい顔をするかのようなガウスさん。なんだろう。


「あ、あれ?変なこと言いました?」


「いえいえ。そうですな。彼女達もきっと、顔には出せないでしょうが喜ぶと思います。ですが……」


 俺が飲み干したコーヒーカップを片付けながら、昨日も申し上げましたが、と続ける。


「彼女達は少々心を病んでおります。返答がご期待に添えるかは、わかりかねますな」


 ……そんな、返答に期待って言われてもな。


「いいんです。美味しいものを作ってもらった。それに対して単純にお礼を言いたいだけですから」


 そう告げると、どこか安心したように。ガウスさんは一言だけ。


「……ありがとうございます、キョウヤ様」


 そう言った。


 ――――――――――――――――――――


「とはいえ、あの2人はどこに居るんだろう?」


 俺は部屋に戻る途中、思考を回らせていた。人様の屋敷を闇雲に歩き回るわけにもいかないし、そもそもエファちゃんが呼びに来るだろうからそれで待っておいて、あの2人を呼び出してもらうのが一番早いだろう。

 だが、最初の挨拶の時のような空気感を考えると少し抵抗があるし、なにより。


「忙しいだろうに、お礼を言う為だけに態々呼び出してもらうってのは、なんかなぁ」


 そう呟きながら、ドアを開けると。


「「おかえりなさいませ」」


 (くだん)の二人がそこにいた。


「えっ!?あ、たっただいま?」


 思いっきり(ども)ってしまう。それはそうだろう。探していた相手とは言え、いきなり2人揃って、しかも自室で出くわすとは思わない。


「ベットメイキングはしておいた。他、要望はあるか?」と、リスタさん。


「このあとお嬢様と館内を散策されると聞いております。夕食の時刻はお知らせいたしますのでごゆっくりと」と、シャエルさん。


どちらも冷静を通り越して氷のような口調だ。


「え、あいや。大丈夫っす!完璧です!」


 だが、俺はそれに対してちょっとテンション高め、三十路近い男がやるには痛いくらいに元気に返答してみる。だが、それに何の反応もないまま。


「「畏まりました。それでは」」


 どちらも真顔。まるで凍りついたような表情で述べたのち、俺の横を通り過ぎて行こうとする。

 

 だが、俺はここで怯んではいけない。ここで言わないと、伝える機会を見失う確信がある。


「あ、あの!」


「「はい」」


 くるりと、微動だにしない表情でこちらを向く二人。

 その二人に対して、俺は言う。


「ありがとう。朝ごはん美味しかったです」


「「……」」


 ほんの少し、間があったように思えたものの、それは一瞬。顔を合わせた2人は示し合わせるかのように同時に。


「「お礼など不要です。仕事ですので」」


 そう言って、颯爽と去っていった。


 ――――――――――――――――――――

 コンコンコンと、部屋にノックの音がなったのはその数分後。動きやすさ重視だからだろうか。ワンピースに着替えたエファちゃんが部屋にやってきた。


「キョウヤさん?今日は起きてらっしゃいますか?」


「勿論、起きてるよ。ほんと、昨日はごめんね」


 エファちゃんはふふふ、と微笑み、くるりと回る。


「冗談です。さぁ、行きましょう!」


 元気いっぱい。そんな言葉がよく似合うエファちゃんに連れられ、俺は屋敷の探索に出ることとなったのだった。


次回から世界観の説明あったり、力的なものが目覚めたり。お出かけしたりするかもしれない


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