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大抵豪邸のテーブルってすごい長い(前編)

お金持ちの家にあるテーブルってなんであんな長いんだろう

「……うっ」


 瞼に強い光を感じて、目が醒める。ステンドグラスで彩られた窓から、美しい朝の光が差し込んでいるようだ。俺は若干左半身に痺れのような違和感を感じるものの、ムクリと体を起こす。


「……そっか。やっぱり夢ではなかったのな」


 俺の事故物件ワンルームとは似ても似つかない立派な部屋だ。今いるベットだって、ふわふわのふかふかだし。

 気持ち良い朝を感じつつ、俺は伸びをして、痺れている左手をさすりながらそっと下ろすと。


 ぽん、と、柔らかいものに手が当たった。

 んー?と視線を動かしていくと、どうやら、誰かのお腹のようだ。


 続いて、うぅん、という明らかに俺の声では無い誰かの声。


 意識が急速に目覚めていく。頭が冷え、全身の血が逆流し―――


「……えっ?」


 脳で認識しつつあるものを理性で否定しつつ、寝惚け眼を擦って見てみるとそこには、エファちゃんがいる。


 その瞬間、パチリと。寝ぼけ眼のエファちゃんと目が合って―――――!?


「キャーーーーーーーーーー!」


 この悲鳴は決して彼女の物ではない。情けないことに、俺が上げたものである。


 "ナンデ!?ナンデイルノ!?事案!?ハニートラップ!?タイホ!?イヤーー!?"


 頭の中にお巡りさんが来る想像が駆け巡った俺は、そのまま転がるようにしてベットから飛びのこうとする。が、恐らくエファちゃんがいた関係で動かせなかったのであろう。未だ痺れる左手のせいでバランスを崩してしまう。


「アバーー!」


 とはいえ、高そうな家具には触れて壊したりしたらまずい!

 あれぇ?こんなことこの間もあったな!?なんて考えつつ、咄嗟に身を捻って倒れたため、余計に体にダメージが来る倒れ方をしてしまった。

 ドスン!という音と共に叩きつけられる我が体。我ながら情けない。

 だがこの音が決定打になったようで。


「なにやってるんですか?きょうやさん…」


 と、呑気に伸びをしながら、エファちゃんが目を覚ますのだった。


 ―――――――――――――――――――――


「あー、じゃあ俺のせいだね。ごめん!」


 朝の騒動の後。とりあえずベットに2人して座り、なぜ隣にいたのかを聞いてみた所。

 昨晩呼びに来たのに俺が起きず。起こそうと思ったものの俺の寝相が非常に独特だった為、声をかけるのが難しく。

 ならばとベットに上がって起こそうとするも、エファちゃんも疲れが溜まっていたためそのまま寝てしまったとのことだった。

 疲れているなか起こしに来てくれたのに、朝から珍妙な騒ぎを起こして申し訳なかった。


「昨日のご飯も、多分だけど無駄にしちゃったよね?本当にごめん」


「ご飯は大丈夫です。氷魔室で保管してありますし、今日の爺やたちのお昼になります。それに、私も男性の部屋で軽率な振る舞いでした。すみません」


 それは良かった。ご飯が無駄にはならなかったことに安堵する。ちなみに氷魔室とは、壁全体に氷の魔術が編み込んである冷蔵庫的なものらしい。


 そんなことを答えてくれながら、サラサラの金の髪をサササと手櫛で整えるエファちゃん。

 ふと見ると、昨日森であった時の動きやすそうな服装から一変、今は会食で着るような白いドレス姿だった。寝てしまった影響で多少シワがついてしまったみたいだが、明らかに上等な生地で作られているのがわかる。


 "この家といい、とんでもない娘と知り合いになってしまったのかもな"


 そう考えながらもつい、俺は思わず――


「そのドレス、似合ってるね」


「えっ?」


 と、口を衝いて出てしまった。

 それに対してキョトンとしたような顔のエファちゃん。


 "やっべ。状況的になんか色々怪しい感じなのに、これはあれか?"


 頭の中に三十路近いやつのセクハラだーだのなんだのと考えが過ぎる中、クスリと笑ったエファちゃんは嬉しそうに、しかし少し昔を儚むような表情で続ける。


「これ、お母様の形見のドレスなんです。だから、そう言っていただけると嬉しいです」


 すこし、シワがついちゃいましたけど、と。


 ああ、よかった。不快な思いはさせてな―――


 "って逆に特大の地雷踏み抜いたじゃねぇか!?"


 アカン、やらかした!てかこれ罠だろ?誰か回避できるやついんのか?しかも俺を起こしにきたせいでシワできてんぞ!?

 

 変な汗が額に滲みそうになる中、何か気の利いた言葉を返そうとしつつ、しかし答えに窮する中。

 コンコンコンという少し強めのノックが聞こえ、ガチャリとドアノブが回る音がし、この状況を打破する救いの神が現れた。


「おはようございます。お嬢様、キョウヤ様。お食事の準備が整ってございます」


 ガウスさんである。


 ――――――――――――――――――――

 カチャリ、カチャリと食器の音だけが木霊する中、無言で黙々と食べる俺とエファちゃん。

 世界が違うとは言え、食べてるものはほとんど一緒のようでパンとオムレツ、スープやフルーツが並んでいる。

 のだが、いかんせん、落ち着かない。ソワソワする俺に、ガウスさんが声をかけてくる。


「どうされました?キョウヤ様。お口に合わないものでも?」

「いや、全部美味しいです!」


「ではやはりお嬢様のドレスのシワのことですか?なに、あの程度5分もかからず消して見せますよ。ご安心くださいませ」


「よかった!?じゃなくて、あの。なんか、みんな距離がとおいなぁ、と」


 エファちゃんのドレスにシワが残らない事は非常に良かったのだがそうではない。

 ここは左右に10人は座れそうなロングテーブルが鎮座する食堂である。ついでに言えば周囲でダンスパーティが開けそうな程広い。

 だというのに、今いるのは丁度ロングテーブルの対角線上にいるエファちゃんと、ガウスさん。

 シャエルさんとリスタさんもいるものの、この食堂の出入り口付近で待機しているようだ。


 いや、わかるよ?使用人の方は屋敷の主人と一緒には食べられない、とかそういうのあるんだろうし。


でも会話がないからか?明らかに――


「ぶっすうー」


 エファちゃんが不機嫌になっている。最初にこの食堂に来るまでは笑顔だったのに。


『あの、爺や?この席の配置は。もっと近くても……』


『お嬢様、食事のマナー、席の順。当家のしきたりをお忘れですか?』


そんな会話や、なにやら一言二言問答があったのち、渋々向こう側に座って行ったのである。


「申し訳ありません。キョウヤ様、当家では席順はこうだと決まっているのです」


 深く、申し訳なさそうにするガウスさん。が、こちらは客人の立場なのだ。言われたことには従うのが筋だろう。


「いやいや。なんか、慣習とか凄そうですもんね。自分的には郷に行っては郷に従え、です」


「はて、ゴウニイッテハ?」


「あ、はい。自分のいたところの諺で―――」


なんて。にこやかに会話を続けてしまったからだろうか。

「ずるいですよ、ガウス!私もお話ししたい!」


 テーブルの反対側で、エファちゃんが子供のように喚くことになってしまったのは。


テーブルマナー?知らない子ですねぇ

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