魔女。その名はーー(前編)
依存の波動を感じる……
この二日は飲み過ぎました。読んでくれてる方、ごめんなさい
騒動の後、食堂ではエファちゃん主導で不審者の対策会議が開かれていた。
今はガウスさんに先ほど起きたことの詳細を報告している最中だ。
「それで、そこにエファちゃんがきてくれたってわけでして。多分あのままだと俺、殺されてました」
「そのようなことがあったとは……」
場には俺、エファちゃん、ガウスさんで集まっており、シャエルさんとリスタさんは屋敷の警戒に当たってくれており不在だ。
「でもあの二人だけで見回りって大丈夫なんですか?ああいや、もちろん信頼してないとかじゃなくて」
鉄球で飛んできた刀を吹っ飛ばしているのを見ているし、俺なんかより遥かに強いんだろうというのはわかるけど。それでも心配だ。
そんな気持ちが伝わったのだろう、ガウスさんは微笑み、頷いた。
「大丈夫でございます。たとえ誰であれ、一対一であればおよそ王族特務や魔導連隊にも引けを取らないように私が鍛えてありますゆえ」
「グ、グリムアビス?ロイヤルオーダー?」
何それかっこいい。四天王とか、すごい魔法使いたちとかそんな感じだろうか。
「はい、左様にございます。その二つは言うなれば国家守護の要です。国家間の争いの調停はもとより、魔女たちの監視や殲滅、或いは王命を任とし諜報活動などをする者たちです」
「ってことは、あの二人ってそんなに強いんですか!?」
いや、正直言うと強さの基準はわからないけど。でも話を聞く限り多分公安とか特殊部隊とかそういうものだろうし、相当すごいのではないだろうか。
というか、そんなふうに鍛えられるガウスさんって一体。そんな疑問を置き去りに、ガウスさんは続ける。
「はい。とはいえ、使用人としては確かに鍛え過ぎたとは思っております。ですが私も、思うところがありましてな……」
そう言うとガウスさんは遠くを見てしまう。思う所とはおそらく、例の魔女襲来の件だろう。隣のエファちゃんも瞑目してしまう。
話の流れとはいえ、まずった。俺は何とも言えない微妙な空気感を場から流すため、エファちゃんに話を振ることにした。
「そ、それにしてもエファちゃん。よく俺が居た所がわかったね?本当にありがとう」
「……そういえば、そうでございますな。私でも気がつけなんだといいますのに。屋敷の結界にもなんの警告もなかったのですが」
ガウスさん曰くセキュリティ用の結界が屋敷には張り巡らされており、敵意を持つ人間が敷地に入るとガウスさんたちにわかるようになっているとか。
が、それが反応しなかったなら何でわかったんだろう?
「ああそれなら、朝起きたら隣にキョウヤさんがいらっしゃらなかったので。キョウヤさんは誰とどこにいるのかを示せと呟いただけですよ?そしたらどこに居ても、誰と居ても。すぐにわかります!」
何を言っているんです?とばかりに、首を傾げるエファちゃん。
(そっか。エファちゃんならそんなこともできるのか。…ん…?)
なんでだろう。今、妙に薄寒い感覚が背中に過った。
はっ!と、俺は咄嗟にガウスさんの顔をみる。きっとあれだ。一度目はともかく、二度目はみんな酔い潰れてる時に二人で一緒に寝てしまった。エファちゃんの発言だけだと、ガウスさんに変な誤解をされたかもしれない。
"今の寒気は、きっとガウスさんが怒って―――"
そう思ったのだが。
「なるほどですな。しかしお嬢様、またそんな。もう少し淑女としての嗜みを持っていただきたい。……キョウヤ様、何卒ご容赦くださいませ」
いや、ガウスさんが別に怒ったわけでもないようだ。寧ろまたうちの子が人様に迷惑かけてーみたいな空気を出している。
(あ、あれー?普通は怒ったり注意したりしない?一度目はあれだけど、今回は完全に同意して一緒に寝てんだぞ?いや、何も変なことはしてないけど!)
心中で誰ともしれない相手に言い訳する中、エファちゃんが言う。
「もう!わかってます。ちゃんと許可をいただいて一緒に寝ましたから。今日からは、頑張ってまた一人で寝ます」
「むぅ、それならよろしいのですが。しかし、キョウヤ様。もしご迷惑でなければ、またお嬢様と共に眠って差し上げてください」
「えっ!?」
何言ってんですか!?そう言おうとする前に、エファちゃんも口を開く。
「あ、私からもお願いします。たまにでいいですので……」
「おお、お嬢様。我慢をおぼえられましたな」
「ええ。私だって成長してるのよ?」
「左様でございますなぁ」
そう言って朗らかに笑い合う二人。いやいや。
(いやいやいやいや!!たまにでも本当はよくないだろ!?俺か!?ワンチャン俺がここだとおかしいのか!?)
もしかしたらこの世界は俺の世界とその辺の考えが違うのかもしれない。そのため、常識の擦り合わせの必要性を今後の最優先課題にする。
だからだろうか。俺はさっき過った妙な寒気の事はすっかり忘れてしまっているのだった。
――――――――――――――――――――
先程のやりとりからすぐのこと、どこからか黒い一羽の小鳥がガウスさんの元に訪れると、なにやら囀りはじめた。
「「―――――!」」
「……ふむ、わかった。引き続き警戒を。それと―――」
ガウスさんは飛来した小鳥に対し、なにやら指示を出しているようだ。
「ええっと、あれって」
何となく使い魔的なものなのかな?とか想像しながら、隣のエファちゃんに聞いてみる。
「あれは魔力で作った伝書鳩みたいなものですよ。キョウヤさん。えっと、こうしてですね……」
エファちゃんの手に光が集まったかと思うと、ぽん!という音が似合うほど簡単に目の前に現れる小鳥。
それは金色に淡く光っており、パタパタと飛び立つと俺の頭上を一回転。そのまま耳元に飛んでくると、囀り始める。だがそれは、鳥の鳴き声ではなく。
「『ふふっ。どうですか?聞こえますか?』」
隣と、耳元。そのどちらからも重なるようにエファちゃんの可愛らしい声が聞こえてくる。
「お、おお?すごい。伝書鳩というより、電話みたいなものなんだね」
随分とファンシーな電話だ。俺がそう思っていると。
「……えっと、デンワ?」
不思議そうに何度もデンワ?と呟くエファちゃん。俺は電話について教えながらガウスさんの話が終わるのを待つことにした。
興味深そうに話を聞いてくれるエファちゃんの顔を見ながら、俺は朝のことは何かの夢だったのでは?そう思ってしまう。
だが、もう一羽。白い小鳥がガウスさんの元に現れたことにより、状況は一変した。
「なんだと!!どういうことだ!?」
ビクッと思わず二人で跳ねてしまうほど、大声を出したガウスさん。そんな俺たちに気がつくとガウスさんはぺこりと頭を下げてくるが、尋常ではない焦り方だ。
「……状況は理解した。二人とも、急いで戻ってきなさい。ああ、ソレも忘れずに回収を」
そう伝えると、ふっと消える小鳥たち。俺たちに向き直るガウスさんの顔は、何処か青ざめているように見える。
「どう、したの?爺や」
「ガウスさん……?」
尋常ではない空気に気圧される。
「……お嬢様、キョウヤ様。落ち着いて聞いてください。今朝方、侵入してきた者の正体がわかりました」
すぅ、と息を吐くと。
「その者は、魔女。しかも、位階持ちです」
そう言った。
許してくれてありがとうございます。今後も酒に溺れて行きたいと思います!!