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天翔ドラゴンの閃き的なものなら死んでた(後編)

とある日の会話

ガウス「本日は魚を食卓にあげる予定です。何かご要望などはございますか?」

響也「もしあるなら、俺は鯖の塩焼きがいいです」

エファリア「わたしは、そうですねぇ。久しぶりにポスティラモスティルの塩焼きがいいです!」

響也「ポス、なに?」

エファリア「サバ?」

二人「「魚の話だよね」ですよね」


二人「???????」

「っ!はっ!はっ!はっ!はっ…っっっ!…!?」


 心臓が悲鳴を上げ、視界が興奮で狭くなる。淡く鈍く光るそれは、まごうことなき日本刀。

 先ほどのは、恐らく居合。抜刀術とも呼ばれるそれだろう。かつてそうしたことを学んだ時期があったため、動きは見えた。


 パックリと避けた服に、血が滲む。どうやら薄皮一枚とはいえ斬られたようだ。つまりは―――


「ほ、ほんものっ!?」


「……」


 返答はない。ヒュッという音と共に、フードの女性は構え、突進してくる。構えは所謂、八双の構え。


「うわあぁぁ!!」


 ブォンという音と共に切り下げられた袈裟斬りを死ぬ気で転がって避け、体中が土埃に塗れる。


 日本刀での斬撃には、ある程度決まった道筋がある。が、回避できるかどうかは別問題。

 無様ではあるものの、ここまで回避できたのは奇跡だろう。血を見て冷静さを失い、アドレナリンが脳内に駆け巡ったが故の超反応でしかない。


 こういう時、考えてはならないのだ。直感のまま、体が動くままに行動しないといけない。それは命を守るための自然な防衛反応であり、回避行動ゆえのこと。


 だが、俺は考えてしまう。


『にほ、んとう?なんで?こっちの世界にもあるのか?というか、なんで俺、襲われてっ!?』


 判断が遅れる。思考を挟むことで僅か一瞬でも体の回避行動は遅れ、恐怖が頭を蝕む。


 結果


「がっ!?いっつぁぁぁあ!?」


 三の太刀に反応できない。ギリギリで致命傷は避けられたものの、足を斬りつけられ、動けなくなる。

 なんとかして避けないと。そう考える間も無く、女は刀を払って血を飛ばし、より深く突き刺すためか刀身を逆さに持ち変えてこう言った。


「さよなら」


 女は垂直に振りかぶり、俺の心臓目掛けて振り下ろしてくる。


 死ぬ。そう、俺が確信した時だった。


「キョウヤさんっ!!!」


 視界の遠く、金の髪が映る。


 "エファちゃん!?"


 気がついた瞬間、眼前で凄まじい金属のぶつかり合う音が轟いた。


 俺の目の前には、淡く光る盾が現れている。

 ギリギリと、日本刀の切先を阻む盾。それは刀を弾き返し、たたらを踏んだ女も俺から距離を取った。


 "助かった!?"

 

 そう思うも束の間、再度俺に斬りかかろうとする女。しかし、直前で何かを察したように後方に飛ぶと、何処からか現れた無数の飛来する剣を弾き飛ばしている。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「っ!」


 どうやらエファちゃんがこれをやってくれているようだ。ギィン!ギィン!!と金属同士が凄まじい音を立てる。

 剣を弾き飛ばしながら下がり始める女。だが、飛来する剣群はより苛烈さを増し、増えていく。

 その光景に圧倒されていた俺の側に、気がつくとエファちゃんが立っていた。


"震えている"


 だが。その震えは決して恐怖や悲しみからなどではなく、怒りの発露でしかない。


「あなた、だれですか?うちで、何をしてるんですか………?」


「………」


 女はやはり答えない。だが、その表情には薄い笑みが浮かんでいる。それを見て、傍に立つ彼女の怒りは頂点に達した。


「答えなさいっ!あなたキョウヤさんに、何をしているんですかっっっっっ!!!」


 ―――――絶叫


 怒りに満ちた瞳は、女を射殺さんとばかりの目で見つめ、口は呪を紡ぐ。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 途端、中空から豪雨の如く降りそそぐ数百の剣。女は攻撃対象をエファちゃんに変更したのだろう。人とは思えぬ凄まじい速度で剣の雨を回避しつつ、日本刀を投擲してくる。

 まさか願った結果が現れる"願いの呪い"が回避されるとは思わなかったのだろう。一瞬怒りを忘れたように驚愕の表情に変化したエファちゃんに向け、雷の如き速度で飛来する日本刀(ソレ)


「っ!?ぐっ、ヴぉらぁぁぁぁぁ!!」


 俺は咄嗟に動かない足に力を込めて無理やり動かし、跳ねるように立ち上がる。エファちゃんを抱きしめ、庇おうとして。


 死を覚悟した寸前、ここ数日で見慣れた銀の()()を視界に捉えた。


 鈍い音をたてて吹き飛んでいく日本刀。呆気に取られる俺の傍に。


「無事か」


 鎖つきの鉄球を持ったリスタさんが立っていた。無表情だが、どこか俺を労わるような視線。それを受け入れて、俺は笑う。


「は、はは。ええ、はい。多分」


 痛む足を押さえると、力を入れたからだろうか。血が吹き出し、ズボンが真っ赤に染まっていく。動脈を斬られているのかもしれない。確実に俺を殺そうとしてきていることに恐怖を覚える。


 だが、俺の足から噴き出た血を見たエファちゃんの顔は驚愕から、憎悪に似た表情に変わっていく。


 のろのろと、暗く、何処までも濁った視線を女に向けた。


「エファちゃんっ!!?」


 俺が咄嗟に嫌なものを感じ、止める間もなく


()()()()()


 言い放つ。


 直後、女の周囲の空間が歪む。圧縮されていくような音を立て景色が捻じ曲がり、()()()()()()()()が消滅していく。


 俺でもわかる。あれに巻き込まれたら待ち構えるのは確実な死、いやそれでは生ぬるいかもしれない。存在の消滅。そうとしか思えないほどの空間の歪み。

 だが、その真っ只中に立つ女は動じることもなく。それどころか、俺に向けて微笑む。


「また来るよ。逆鏡響也」


 そう言って笑顔のまま。


 跡形もなく消えたのだった。

 ――――――――――――――――――――


()()()()()()()()()


「……ありがとう、エファちゃん」


「……はい」


 女が去ったのち、エファちゃんは俺に対して力を使ってくれた。何事もなかったかのように傷はなくなり、痛みも無い。


「……リスタ。最優先でお願い」


「承知。屋敷の警備を強化します」


 そう言ってリスタさんは居なくなり、場には未だ怒りの表情を表すエファちゃんと俺、そして。


「……刃こぼれ一つしてないや」


 女が残した、日本刀だけが残されるのだった。


ポスティラモスティル。この世界での鯖である。



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