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ねえ、距離ちか、くないですか。そうですか

言わせてくれ。シリアス展開って苦手なんだ

 夕食どき。あの縦に長くだだっ広いテーブルには俺たちが買ってきた品物を含め、かなり豪勢な晩餐が並んでいた。

 その中には俺とシャエルさんが買いに行った品物ももちろん並んでおり、料理とはきちんとすれば食材がこうも化けるのだなと感心する。


 この世界に来て初めての夕食。中でもローストビーフは絶品であり、食も進む、のだが。どうにも、どうにも食べにくい。


なぜならふと右横を見ると、そこには目を輝かせたエファちゃんがいるからだ。


「それでそれでっ?キョウヤさんの世界には他にどんなものがあるんですかっ?」


「ん、んー?他には、そうだなぁ」


 ちなみに、食べている最中でもエファちゃんはピッタリと椅子をつけながら横に並んで座り、常に腕やら肩やらが触れ合っている形である。

 いや、言い訳させて欲しい。決して俺がこうしてくれと頼んだわけではない。


 だってそうだろ?せっかくの料理が、なんか食べずらいじゃないか。女の子が横からじっと俺のことを見てくるんだぞ?

 いくら綺麗に食べよう、マナーを意識しようったって見られてたら色々気にしてしまって限界がある。


 普通ならご飯が取りずらいから少し席離さない?とか言えるのに。態々横に控えているシャエルさんやリスタさんが俺が見たものを的確に、かつ迅速に心を読んでいるのかという精度で取ってくれるためそう言うわけにもいかず。


 ガウスさんを頼ろうにも、無理だろう。なにせ、エファちゃんを嗜めるような顔をしつつ、今強く言うのもなぁという顔をしている。


(でも、まあ。こんな風に誰かと喋りながら食べられるのは嬉しいことなんだろうし。仕方ない、か)


 そう思いながら、俺はほんの一時間ほど前のことを思い出す。

 ――――――――――――――――――――


 一時間前


「やっぱり、やっぱりそう!キョウヤさんに触れてたら、呪いが発動しない!」


 ぶんぶんぶんと、俺の手を振りながら喜び、そのままくるくる踊り出しそうなエファちゃん。ガウスさんはそれに対して驚きつつ、俺たちの方に興奮気味に寄ってくる。


「そ、それは本当なのでございますかっ?」


「本当!ほんとうなの!見てて。雨が降るっ!」


 降らない。


「雪が降るっ!」


 降らない。


「ケーキが落ちてくるっ!!」


 落ちてくることもない。


「お、おおおお!?お嬢様、お嬢様ぁっ!」


 感極まったのか、俺ごとエファちゃんに抱きついてくるガウスさん。ガバァという勢いに圧倒されるも、俺とエファちゃんはもがいて脱しようとするが。ガウスさんの目に光るものが一瞬見えてしまい、二人して大人しくなってしまう。


「って、待って!待ってくれ二人とも!俺に触れてたらって、本当なのエファちゃん!?」


 自慢じゃないが俺は平凡なサラリーマンだったのだ。そんな異能を消す右手的な力があるわけでも、妖怪を滅する左手を持っていたわけでもない。

 "なにかの偶然が重なっただけでは?"そうとしか思えない。そうなるとぬか喜びさせてしまっては申し訳ないと思い、確認を取ったのだが。


「……はい、本当です。あの、爺や?そしてキョウヤさん。少し、離れてください」


 迷わず首を縦に振ったエファちゃん。それを聞いてガウスさんはおずおずと離れ、俺も遅れて少し下がる。


 それを見て、エファちゃんはすぅ、と息を吸った。


 まるで、祈りを捧げるように―――


「ゴクッ」


 神秘的にすら見えてしまうその瞬間に、俺は生唾を飲み込む。ガウスさんからは何があったのかも聞いて、実際に何もない空間に一瞬でベンチを作ったりするのも見た。雨だってそう。確かに願いの呪いというものは実在して。


 であれば、彼女は一体何を言うつもりなのだろう?


 俺は今、エファちゃんの苦悩を知って尚。少しだけ期待してしまう。


 そう、どんな神秘的な光景を見ることになるのだろう、と。


 エファちゃんは口を開く。まるで世界に宣言するように。カッと目を見開いて――――



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 そう、言い放った。


「…‥って、え?」


 瞬間。ザザザザザザ!凄まじい音を伴って、現れる猫、猫、猫、猫、猫、猫。


 およそ数十匹の猫が集まってくると、エファちゃんの周りで、一斉にくつろぎ始める。


「ねっ?ねっ?!爺や!キョウヤさん!!本当でしょっ?」


 ふんすという顔がピッタリの顔で、俺とガウスさんを見てくるエファちゃん。そんなエファちゃんを見ながら、感涙に咽ぶガウスさん。


 俺は、猫が好きなんだなぁという感想のほか、どこか釈然としないものを感じつつも。素直に頷いたのだった。

 ―――――――――――――――――――――

 そんなことがあってからずっと。文字通りずっとエファちゃんは俺の隣を離れなくなった。

 言葉に出しても何も起きない。そんな当たり前の事がとても嬉しいようで、夕食の間も。


「ワインが水になる!」 


「なってないよ。おいしいね、これ」


「やった!」


 と、色々試してはコロコロと笑う。ガウスさんのの頬も緩みっぱなしだ。無表情の二人も心なしか喜んでいるように見える。だから、そこで俺は少し提案をしてみた。


「あの、ガウスさん、シャエルさんリスタさん。皆さんも一緒に食べませんか?本当に俺の影響かどうかは、正直まだ信じきれてないですけど。めでたい席じゃないですか」


 そう言って見渡すと、既に二人は無言で首を横に振っている。更には「キョウヤ様?いや、それは……」と、エファちゃんを見ながら遠慮しようとするガウスさん。


 そこでエファちゃんが畳み掛ける。


「シャエル、リスタ、爺や。ぜひ座って。この席は、皆で楽しみたいのです」


「お嬢様。しかしですな?祝いの席といえど、使用人が主人と同じ席に着くなど」


 ああ、やっぱりそういうのあったんだ。郷に行っては郷に従えとはいうものの、折角の祝いの席なのに。そう思った時、イタズラっぽい笑みを浮かべたエファちゃんはおもむろに立ち上がる。


「この家には、使用人と一緒にご飯を食べてはならない規則なんて、今後ありません」


 無論、どんな影響がどんな形で起こるかがわからないからだろう。俺の背中に手が触れている。しかしガウスさんには見えないようにしており、シャエルさんとリスタさんには目配せを行っていた。


「お、お嬢様っ!?そんな力の使い方などっ」


 案の定慌てるガウスさん。だが俺もここぞとばかりにエファちゃんに乗ってみることにした。


「し、しまったー!離れてたからきっと力が使われちゃったー!」


「キョウヤ様までっ!?」


 演技下手くそな俺が言った言葉は、棒読みもいいところである。が、ワインを飲んでいるからだろう。酔っ払いの発言としてみたら、きっと信憑性がある。


「「体が勝手に動いてしまいます」」


 すすすす、と。やれやれと無表情の裏に浮かんでいるように見える二人は、既に着席し。


「お、お前たちまでっ!?というか、お嬢様、戯れはおやめくださいっ!」


 流石に、演技には気づかれたようだ。だが、残り立っているのは、結局ガウスさんだけ。四人からジッと見つめられること数十秒。ついに根負けしたようだ。


「……う、うわー!わたくしめもー、椅子に吸い込まれてしまいますぅー!」


 演技下手なの貴方もですか!というツッコミが喉から飛び出そうにはなったものの。


 その後は、五人で楽しい晩餐を楽しんだのだった。


次回からしばしほんわか(?)編。なお、主人公の心労は考慮しないものする。

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