呪いの姫と、ゲルパニウムジャポネス(前編)
一応この章の締めみたいなもんだぞ。タイトルふざけてんのか
「もどりましたー!てっ、エファちゃん!?」
急いでシャエルさんを追って、共に帰宅したあと。ガウスさんとリスタさん、そしてエファちゃんが出迎えてくれた。
といっても、なぜかエファちゃんはリスタさんの背中に隠れるようにして、半分だけ顔を出している状況だったのだが。
「「おかえりなさいませ」」
「あ、の。おかえり、なさい……」
何かを気にするように目を伏せ、こちらの様子を伺うエファちゃんに、俺は努めて明るく返事を返す。
「ただいまです。さて、エファちゃん。今日はご馳走だってさー」
そう言いながら、買い物袋を上下にガサガサし、たくさん買ってきたよーと語りかける。
ちなみに、買い物袋は帰りがけシャエルさんに渡してもらって俺が持って帰ってきた。シャエルさんは意地でも渡そうとはしてくれなかったが、メモを渡されたのは俺、つまり俺の仕事ですよね?と説得したところ(無表情なのになぜか渋い顔に見えたが)渡してくれた。だって、それくらいしないと子供みたいにスーパーではしゃいだだけになっちゃうし。
「それは、その。楽しみです」
だが、いまだにエファちゃんの反応は薄く。笑顔を見せてはくれたが元気がない。これはもう、話をするべきなのだろう。
俺はガウスさんとアイコンタクトをとり了承を貰い。シャエルさんとリスタさんにもエファちゃんを連れて行く事を伝え。
話が勝手に決まって戸惑うエファちゃんを連れ、噴水のある中庭に向かうのだった。
――――――――――――――――――――
「爺やから、話は聞いたと思います……」
「うん、ごめん。聞いたよ、全部」
というかあの状況で聞かない選択肢、ある?と聞くと。ですよね、と肩を落とすエファちゃん。
「ならもう、隠す必要は、ありませんね。ベンチでも出しましょうか。"ここには元からベンチがあった"」
そういうと、空気が歪み、いつのまにか現れるベンチ。そこに2人並んで座り、噴水を眺める形で無言になる。
数秒とも、数分ともいえない時間の中。隣にいるエファちゃんの横顔を見ながら俺は、ガウスさんが言っていたエファちゃんの受けた呪いの内容を思い返し。
『……お嬢様への呪い。それは、魔女の―――』
「願い、か」
「え…?」
つい口を衝いてでた。その言葉に反応し、こちらを向くエファちゃん。
「ガウスさんが言っていたよ。君は魔女の呪いを受けてるって」
その力の名は
「"願いの呪い"っていうんだね」
「……はい」
願いの呪い。これは魔女がかける最大級の祝福でもあり。あまりの強力さ故に、呪いともされる。
なぜならその力は。
「……私の力は、口に出したことが現実になってしまうんです。意識的に抑えれば、ある程度は制御できるんですけど。基本的には無意識に言った事にすら反応してしまって」
爺やと喧嘩する時も言葉を沢山選んでるんですよ?そう言いながら、俺に対しても言葉を選ぶよう、エファちゃんは続ける。
「だから食事の時とか、思わず気が緩んでしまったりした時に、ふと出た言葉が現実になったりして。街の人にたくさん、たくさん迷惑をかけたりしたことがあったんです。もしかしたら、爺やから聞いてるかもしれませんね」
私が語ってしまうと、そこで何が起こるかわかりませんから。そう呟くエファちゃんの言うとおり、俺は昨日の夜、ガウスさんからこの呪いに纏わる話を聞いていた。
熱い時期に雪が降ったらいいのにとうっかり呟いてしまい雪が降ってきた、なんて可愛らしく感じるエピソードもあったものの。
決して笑えないものが一つだけあった。
しかしそれはエファちゃんが望んでその混乱を巻き起こした訳ではない。というのも、魔女の呪いをかけられて数年の間、エファちゃんは両親を無くしたショックと、二人に呪いがかかった事を気に病み、声が出なくなっていた時期があったらしく。その為、まだなんの呪いかが判明していなかったのだ。
だが、エファちゃんが少しだが声を出せるようになり、精神的には不安定ながらも学校に出席できるようになったとき。事件は起きた。
屋敷が魔女に襲われた事を酷くからかってきた子が居たらしい。その子の親御さんはエファちゃんのお父さんとは一種のライバル関係にあり。その関係もあって、エファちゃんはその子から一方的に敵視されていた。
その子に対して『私じゃなくて、あなたの大切なものが無くなったら良かったのに』と言ってしまったのだそうだ。
結果は、お察しの通りだろう。
幸い、誰かの命を奪うことはなかった。だが、その子の家は全焼。仕事や財産、その他一切が諸共なくなった一家は離散。
その後、エファちゃんが呟いた事は現実になってしまうことが判明し、ついには外にも学校にも行けなくなり。
魔女騒動の後も残って働いていたあの3人以外の使用人たちも気味悪がるように離れていき、街では呪いの姫などと揶揄されることとなってしまった。
「だから街になんて私は絶対出られませんし。本当に屋敷の外に出たい時は私有地で羽を伸ばしてるんです。ほら、キョウヤさんと初めてお会いした迷いの森。あそこ、実は私有地なんですよ?」
自嘲気味にくすくすと笑うエファちゃんは、更に続ける。
「国の偉い人からも、昔は変な依頼が沢山来てたんです。やれ敵国のだれかをなんとかしてほしいとか、そういうの。でも、そういうのは絶対に嫌で。逆に爺やにこの国の偉い人を脅してもらったら、毎年とんでもない額のお金が入ってくるようになりました」
使っても使ってもなくならないほどに、と。屋敷の装飾はそういった事情からだろうか。
一庶民の俺からしたら羨ましい限りだが、エファちゃんからしたらそんなもん望んじゃいないんだろう。
だが、それらを踏まえた上で、だ。
「エファちゃん。君に確認しておきたい事がある」
「っ!」
一瞬震える彼女に対して、言葉を選ぼうとも思ったが。俺は言葉を濁さず、実直に俺は問いかける。
「俺があの日、この世界に来た日。君は一体何を願ったの?」
タイトルふざけてんのか