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凄惨な記憶(後編)

今回でお屋敷の中だけのお話はおしまい⭐︎

「呪い、ですか?」

「はい。左様にございます」


 語り終えたガウスさんは一息つくように、写真をしまいこむ。

 そのままツカツカと窓の方へ歩いて行くと、カチリと鍵を、開け放った。

 外はもう夜だ。夜風が場を冷やしていく。色々あったせいで今日も晩御飯食べ損ねたかも?なんて。勤めて明るい方向に考えつつ、ガウスさんの話の続きを待った。


「……呪いを受けたのは、あの三人でございます。シャエル、リスタの二人は、二度と癒えぬと言われた魂への呪い」


 ガウスさん曰く、かつてのここの主人。つまりエファちゃんの両親が魔女と融合してしまった所を目の当たりにしたことで二人の精神に傷がついた。そこに決して傷が治らぬよう、塩を塗り込んでいくようなエグいものらしい。

 魔女の呪いは精神を蝕みます。と、続けて言ったときのガウスさんの目は憎悪に彩られていたように見えたのはきっと間違いではないのだろう。


「2人の表情は、成長するにつれて氷のように。しかし、成長する間も凄惨な記憶のフラッシュバックに苦しみ、嘆き。ついには命を断とうとしたこともあったほどでございます」


「命を……」


 所謂PTSDに悩まされる患者さんが、そういうふうになったりする事例を聞いたことがある。恐らく耐え難い苦しみが襲っていたのだろうと想像する。


「はい。ですが、当時の私はそれもまたよしと考えました。もはや二人の救いになるのなら、と」


 ですが、と。ぎりりと拳を握り締め、吐き捨てるように続ける。


「しかし、魔女の呪いは命を断つことすら許さず。二人との会話は、いつしか問われたことに対する返答でしか成り立たないようになっていったのです」


 だからこそ、先ほど自主的に口を開いたのは本当に驚いたとガウスさんは締め括った。


「……となるとエファちゃんもなんですよね?」


 ぱっと見、おかしいようには見えない。いや、色々とあの位の歳の子にしては天真爛漫すぎる気もするし、俺の世界基準だと警戒感がなさすぎる気もするけど。そんな考えとは裏腹に、ガウスさんが言った言葉は驚きに満ちたものであった。


「……お嬢様への呪い。それは、魔女の―――」


 ガウスさんは語り始める。彼女に降りかかった呪いについて。そしてその影響についても。


「……じゃあ、ガウスさんが言ってたエファちゃんと俺が出会ったことが救いってのも?」


「はい。このためでございます……」


 魔女の呪いの話を聞けば聞くほど、腑に落ちる点が多かった。


 思えば妙な違和感があったのだ。

 いくら魔術がある異世界とはいえ、例えばこの規模で三人しか使用人がいない屋敷。中庭での、外に出たがらないエファちゃん、そして急に降ってくる雨。


 "そしてこの屋敷の人たちが、出会ったばかりの俺に好感を持って接してくれていたのはなぜなのか"


 合点がいったのだ。俺がいるこの状況に対して。


「……黙っていて申し訳ありません」


 そう言って、今日何度目かわからないほど頭を下げてくるガウスさん。俺はそんなガウスさんに苦笑と、エファちゃんたちの様子を見てくるとだけ返し、部屋から出た。


 ――――――――――――――――――――


「考え事するとお腹減るって本当なんだな……」


 昨日は俺の寝坊、今日は探検やらトラブル続き。それ故に俺はこの世界に来てまだ朝食しか食べていないのである。

 正直、昼ごはんの事なんか考えないくらい楽しい時間だった、ともいえるのだがそれはそれ。

 つい先程聞いた話を考える中で鳴り始めた腹の虫だけは、どうにも治りそうもなく。


「そもそも森歩く前に腹に入れたのだってマスターのコーヒーだけだしなぁ。お腹空いたぁ」


 意識するとぐるるると腹がなり始める。なんか足だってふらついてる気もするし。屋敷の中で行き倒れとか、そんなもの洒落にならない。


「さっき、ガウスさんに作って貰えば良かったなぁ……」


 ふらふらと歩き、たどり着いたのは俺の寝室。万が一起こしてしまったら申し訳ないと、そっとしゃがみ。音を立てないように扉を開け、隙間から中を覗こうとする、が。


「おかえりなさいませ」


 俺の目と丁度同じ高さ。相手からも覗き込むように、氷の表情のシャエルさんと目が合ってしまう。

 向こうも中腰だからだろうか?ガクンと曲がった首のせいで、ホラー映画の幽霊に一瞬見えて―――


「キィャアアアアアァァ!!!」


 情けないことに、俺はこの世界に来て二度目の絶叫をしたのだった。


次回。だーれにもーないしょーでー

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