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凄惨な記憶(中編)

…………残酷描写注意

「じいゃあ!こっち!こっち!」


「全く、お待ちください。お嬢様」


 私たちの一族は、このフォス家に代々勤めてまいりました。私の仕えた旦那様の父上は私の父上が、その祖父は私の祖父が。そう考えると、永く永く続いてきた縁でございます。

 さて、その日は普段多忙な旦那様と奥様が帰られる日だったため、お嬢様も普段より張り切っておられており。


「こっちー!こっちー!ここにこれ、飾って!」


 そう言って、私にお嬢様が手渡してきたのは、旦那様と奥様に向けて書いた一枚の絵。

 家族三人と、おそらく私が手を繋いでいる絵でございます。

 そして、まだ幼く、下手ではありますがフォス家の力強さを表すかのような文体で、お帰りなさい、と書いてあったのです。


「ぱぱとまま、よろこんでくださるかしら?」

「勿論でございますとも!お嬢様、早速飾りつけましょう!」


 ありふれた日常は、私にとって。いや、きっと、私たちにとって幸せでした。


 そしてその日、新しい家族が二人加わった事も。


「さぁ、二人とも。今日から貴女達も私達の家族になるのよ?」

「そうだぞ。遠慮はいらない。エファちゃん。おいで。新しく家族になる二人だ」


「リスタだ。じゃなくて!リスタです」

「シャエル、です」


「あの、奥様、旦那様。この子達は……?」


「南部で魔女との小競り合いがあったろう。とはいえ、規模は相当なものだったんだが。その時の、まあ。孤児というやつでな」

「他の孤児の子達は一応、行く当てが見つかったの。でも、この子達は……」


 お二人は事業をする傍ら、戦争の被害者に対する支援などの慈善活動を行っておりました。

 その際、孤児の貰い手を探したりなどもされてはおられましたが。直接引き取ってこられたのは、その時が初めてでございました。


「ほんと!?おねぇちゃんたち、一緒に住むの!?こっちきて!わたしの部屋!こっち!」


「「えっ、ちょっとまっ!」」


 お嬢様は当時から天真爛漫。すぐに二人とも打ち解け、仲良く屋敷の中を駆け回る。そんな日々がすぐにやってきたのです。


 笑顔が絶えない楽しい生活。少なくとも私にとってはそうであり、きっと三人にとっても、旦那様と奥様にとっても。そうであったと思いたいものです。

 

 たまに三人から魔術で軽いイタズラをされたり、三人揃って苦手な物を残したり。宿題をサボって遊び呆けたりしていた時には、この家はどうなることかと思ったものですが。


でも、何もかも。


あの時に―――――


「くそっ!兵は何をやってるんだ!ここまで火の手がきているぞ!?」「忌々しい魔女め!?」

「死にたぐない!ぁぁあ!」「体が!?体がとげるぅ!!」「あれ?ワタシ、人食べてル?あはあはは!」


 あの日


 外から聞こえた怒号や、聞くに耐えない悲鳴で目が覚めた私は、異変を察知。

 すぐにお嬢様とシャエル、リスタの部屋に行きました。


「お嬢様っ!シャエル様、リスタ様!ご無事ですか!?」

「「「爺や!?」」」


 小さな目を輝かせて駆け寄ってくる三人を、私は深く抱きしめ、安心させました。


「大丈夫、大丈夫でございますよ。旦那さまたちととすぐ合流して……」


 そう、告げた時でした。


「爺や!旦那さまたち、外に様子を見に行くって行ったきり帰ってこないの!」

「奥様に、爺やを起こそうって言ったんだ。でも、きっとなんでもない、疲れてるだろうから寝かせてあげてって!」


「それから、それからぁ!ぱぱと、まま…かえっでごないの…!じぃやぁ!!」


 泣き喚く3人を見て、血の気が引いた思いでございました。

 

 いつから、いつからこの騒動は始まっていたのだろうか?と。


 私は自身の手が震えるのを自覚しつつ、しかし三人に不安を気取られるわけにもいかず。

 グッと三人を抱きしめて兎に角安心させ、この屋敷の地下にある隠し通路から街の外へと向かおうとしたのです。そっと三人を連れて部屋を出て。

 かくれんぼをするかのように静かに。メインホールに出て、階段裏にある隠し通路へあと少しというところ。


 その時でした。


『あぁら?美味しそうな子達ねぇ』


 声を聞くなり全身の血の気が引いていく感覚。背筋が凍るとは、まさにこの事。


「っ!ゼェァッ!」


 咄嗟に声がしたほうに攻撃魔術を放ち、直後現れる爆炎と閃光。私の持つ最大火力を、その声の主に叩きこみました。


 ですが……


「「「爺や!?」」」


「お逃げくださいお嬢様!二人も早く!!」


確かな手応えはありました。直撃の筈。


しかし


『あらあら、この程度で逃げられると思って?』


 奴はズルズルという音と共に、爆炎の中からまるで効果がなかったかのようにその姿を表したのです。

 なんとも醜悪な巨体。裂けた口が全身に這うように着いた、大蛇。その頭に当たる部分には、人に似た何かが蠢いていました。


「貴様!?よもやその姿、獄奏かっ!?」


 獄奏、それは魔女の中でもより強力な魔女に与えられる、所謂階級のようなものであり。その強力な魔力ゆえ人間から著しく見た目が乖離したもののことを言います。

 当時の私は、なぜこのようなものがここにいるのだと、脳が理解を拒んでいたのを覚えております。


そして、忌々しき奴の名も。


『あら、よくご存知ね?そう。私は獄奏の魔女、名をグーラ』


 そう言うと、魔女は巨体をものともせずふわりと浮き上がり


『いただきます』


 おぞましい笑顔を顔に貼り付け、お嬢様たちに向かって行ったのです―――――


「ヤメロォォォォォォォ!!!!」


 三人をなんとしても救おうと手を伸ばすも、魔女は圧倒的に早く。どう考えても、届かず。


 失われる


 楽しかった日々が


 失われる


 走馬灯のように過ぎる、過去の記憶。


 断じて、そんなことはさせられない。だが、だが絶望的に足が、手が届かない。


 そう、諦めかけた時でございました。


『ギャアオオオオァ!?』


 魔女はおぞましい悲鳴をあげ、のたうち回りながらその場に落下したのです。私はその間に三人に駆け寄り、庇うように抱き寄せました。


「「あ、あ……」」


 ……最初に異変に気がついたのは、シャエル、続いてリスタでした。抱きしめた隙間から、奴を見ていたのでしょう。

 

 そして見えてしまった。


「「旦那さま、奥さまっ……!?」」


 魔女と融合してしまった旦那様と、奥様を。


『逃げ、ナサイ』

『生き、ナサイ』


 私の耳は理解を拒みつつも、確かにそう聞こえたのです。苦しさにもがきながら、しかして自らの娘たちを救おうと、必死になる声を。


 しかし、魔女の執念は恐るべきもの。


『グゥアアア!!!おのれぇ!喰えぬというのならぁ!』


 ――――奴は、恐るべき呪いを。置き土産として置いていったのです。



後編は本日10時に予約掲載予定。

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