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凄惨な記憶(前編)

シリアス編

「シャエルさん、リスタさん。鏡花水月って、どうゆうこと?」


 俺はなぜか呆けてしまっている二人に変わって、質問をすることにした。


「その力は鏡花水月」

「鏡を渡りし者が得る、究極の力」


 二人は示し合わせたように俺に告げるが、はて。

 鏡は確かに通ってここにきたけど。でも、力なんて何も感じないぞ?


「その力は、危険です」

「その力は、祝福だ」


 今度は珍しく、二人が正反対な事を言う。

 戸惑っていると、意識が戻ったのだろう。エファちゃんが二人に詰め寄った。


「あなたたちっ!お話、できるのっ?」 


 どこか懇願にも似た口調で問いかける。それに対して、二人は揃って首を縦に振った。それを見て、エファちゃんは崩れ落ちてしまう。


「エファちゃん!?」


 それを見て何事かと焦り、駆け寄ろうとしたのだが。床にポタポタと広がっていく涙の後を見て、俺は立ち止まった。


「っ!あ、ああああああああ!うわぁぁぁ!」


 直後、堰を切ったように溢れだす嗚咽と、悲鳴にも似た、或いは祝福するかのような声。

 エファちゃんは肩をガタガタとゆらし、泣き喚いていた。シャエルさんとリスタさんがエファちゃんの肩をさすってあげにいく。すると、もっと泣き出してしまう。心なしか、無表情の二人も戸惑っているように見えた。


 そんな状況にみっともなくも戸惑っていると、ふと、ガウスさんと目が合った。


「ガウスさん!?これは一体……」


 問いかけようとする俺に、頷くガウスさん。


「キョウヤ様には、色々とお話せねばいけませんな」

 ――――――――――――――――――――


「どうぞ。汚いところですがご容赦ください」


 ガウスさんがそう言いながら俺を通してくれたのは、所謂使用人の寝室。つまり、ガウスさんの部屋らしい。

 だが、華美な装飾で飾られた屋敷の中にあるとは思えないほど質素。六畳ほどの空間にベットと、L字のデスク、それに伴う椅子だけが置いてある。ちなみに汚れひとつ、埃ひとつない。汚い部屋とは一体?


「ああ、今、お茶をお出しします。クッションはこちら。ああ、寝そべりながらでも大丈夫でございます。そうだ、座椅子をご用意いたしますな」


「えっ!?いやいやいや!!大丈夫です!本当にお構いなく!ガウスさんもお疲れでしょうし!」


 ちなみにこんな感じで、自分の部屋でも執事さん精神爆発である。気疲れとかしないのだろうかこの方は。


 さて、俺がガウスさんの部屋に来たのには勿論理由がある。ガウスさんが語る話に必要なものがここにあるからというのが一つと、あとは。


「しかし。動けないですもんね、あの状況じゃ」

「まったくですなぁ」


 あの後、泣き疲れたエファちゃんはシャエルさんとリスタさんの服を掴んで離さず、しかもそのまま寝落ちしてしまったのだ。

 そのため今俺の借りている寝室は、眠り姫の貸切状態。流石にそんな中で重要な話をするわけにもいかず、というわけである。


「さて、どこから話したものか」


 ガウスさんはそう言いながら、デスクの左に置いてあった手帳を手に取り、中にあった物を出す。それは、紛れもなく写真だった。


「おお、写真だ。あるんですね、この世界にも」


 なんか失礼なことを言ってしまっているような気もするが、素直に感じた通りに伝えてしまう。それに対してガウスさんは気を悪くするわけでもなく、深く頷いた。


「はい。キョウヤ様の世界にもあるのですな。なら話は早い。この写真に映る3人を見ていただきたいのです」


 そう言って差し出された写真を、よく見てみる。人物が三人、いずれも女性だ。



「……あっ!」


 そしてその三人は、いまと姿形は違えど。紛れもなく見覚えがある三人だった。


「エファちゃん、かな。あと、シャエルさんとリスタさん?」


「はい。その通りでございます」


 ガウスさんがニコリと頷く。そう、写真の中の3人。エファちゃんは幼稚園児くらいの歳だが、ニッコニコしているからすぐにわかる。そして、その隣の人物たちは間違いなくあの二人なのだ。

 

 だが、今の二人とは明らかに違う点があった。


「笑って、ますね」


 そう。確かに笑っている。今の無表情とは似ても似つかないほど自然な笑顔だったのだ。


「はい。その写真は今からおよそ10年前。忌々しい事件が起こる前の記録にございます」


 そう言って、ガウスさんは語り始めた。この屋敷で起きた、凄惨な出来事の記憶を。

シリアス編は中編まで。中編後編は本日の夕方ごろ、同時掲載

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