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主人公覚醒イベント(のようなもの)後編

力の覚醒したって、まだ敵は出てこないんだよぉ!


『判定対象 逆鏡響也』


 本を開くと心に響くのは、優しい声だった。これがおそらく、ガウスさんの言っていた本の声なのだろう。でも、怖いな。この優しい声でお前魔力とかねぇから!とかボロクソ言われたらどうしよう。


 そんなことを考え、若干震えつつあった俺の心に飛び込んできたのは。覚悟していたとはいえ、残念な知らせだった。


『潜在魔力判定 無し 詳細測定値 不定 』


 ……だよな、と思う。俺はこの世界の住人じゃないんだし、逆にあったら怖いし、仕方ない、か。


 そう、思った時だった。


『判定エラー 潜在的な魔力を感知しました』


『エラー   潜在的な   を感知 しま た』


 "は?"


 そう思ったのと同時に、本からの声が途切れ途切れになり、ノイズのような音が感覚として心の中に走る。


 ザッー


『検知 検知 検知 検知 検知』


 ザッーザッー


『特殊対象者に対し、言語化を開始』


 ザッーザッーザッー


『特殊対象者に向け、メッセージがあります』


 ザッ


『……おかえり。君がくれていた力、ようやく返せるね。あの時は、ありがと。そして、さよなら』


『以上 判定を強制終了します』


 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ーーー様!キョウヤ様!!お目覚めですか!?」


「良かったっ!?爺や!早く彼を寝室へ!」


「いけませんお嬢様!軽い脳震盪を起こされていますっ!ですから魔術強化してかつごうとするのはおやめください!シャエル!?お前も足を持とうとするんじゃない!」


 意識が戻ってくる。ふらふらと目が力なく彷徨うが、ようやく焦点が合った。

 ふと左を見ると、エファちゃんとガウスさんが仲良く口論をしていて、シャエルさんがなぜか俺の足を持とうとしているようだ。

 てんやわんやということしか把握が追いつかないが、ふと。自分の頭が柔らかい物に寝かされているのに気がつく。どうやら、リスタさんが膝枕をしてくれているようだ。


 勿論、無表情で。


「目覚めたか」


「えっと、はい。なんか、すみません」


 起きたら女性の膝枕。男として非常に嬉しいシチュエーションなのだろう。だが俺は、そんな事にその時は集中できる状態ではなく。

 先ほど聞いたメッセージの声を思い出し、なぜか、ひどく悲しくなった。

 ―――――――――――――――――――――

「爺やはまったく、なにをしているの!?」

「申し開きようがございません。いかようにも処罰を……」


 意識が完全に覚醒し、状況が飲み込めたのはすぐのこと。

 どうやら魔証の本を使ったあと、俺は意識を失って昏倒してしまったらしい。ガウスさん曰く、そんなことは初めてであり、異常に気がつくのが遅れたのだそうだ。


 今の俺は大事をとってシャエルさんとリスタさんから魔術による診察を受けている。


 ガウスさんには深々と謝られてしまったのだが、貴重な体験ができたのだから俺が怒る理由もなく。むしろ感謝したいくらいなのだが。

 そんな俺とは対照的に、エファちゃんは激怒していた。


「っ、ガウス!貴方は何をしたのか本当にわかってるの!?ねぇ!?」


「誠に申し訳ありません。お嬢様……」


 どうやら俺の意識が飛んだ際、相当に心配してくれたらしく、今は心配が安堵となったことで怒りになっているようだ。

 ガウスさんのことを爺やではなく名前で呼ぶのは、怒っているということだと昨日今日で学んだし。


 そらにしても、短い付き合いなりにそんなにも心配してくれたんだな、と思うのと同時に。ガウスさんに申し訳なくなってくる。


「あの、エファちゃん。もうその辺で。頼んだのは俺なんだし、逆に感謝してるくらいだし」


 そういうと、ワナワナと震えてはいるもののピタッと叱責の言葉を止めるエファちゃん。だが、俺を振り返った目は涙で潤んでいて。


「だって!私っ!わたし……!」


 そのまま、涙を堪えるように震えてしまい、二の次が出てこない。

 俺はシャエルさんとリスタさん二人に診断を中断するように頼むと、エファちゃんの方に向かう。

 どこか不安げなガウスさんと目が合うが、俺は強く頷き、任せてもらうように頼んだ。


「見てよほら?俺ピンピンしてるし。ガウスさんだって悪気があったわけじゃなくて、寧ろ少しでも俺のためにってやってくれたことなんだ。だから、もうやめよう?」


 頭を撫でる。普段の俺ならこんなことイケメンにしか許されないとか、三十路近いおっさんが、とかマイナスの考えが浮かぶところだが。

 今は、そう。まるで年の離れた妹のようなこの子の心配を少しでも和らげてあげたかった。


「ほ、本当に!?本当に大丈夫なのですか?」


「うん。見てみぃよ?この機敏な動作!」


 体はもう問題ない。なら、とその場でクルクルと回ってみせ、似合もしないポーズまで決めてみる。昔流行った、某カエル侵略者がやっていたポーズだ。カエルといえば、とあっちでの嫌な記憶も出てきてしまうが、無視無視!

 俺はアフロなカエルになりきって更にポーズを決めていく。


 するとエファちゃんは俺の滑稽さが面白かったのだろう。まだ涙を称えてはいるものの、声をあげて笑ってくれた。


「ふ、ふふふ!なんですか、それ、あは、あはは!」

「よっ!ほっ!ほぅれほぅれ!」


 クルリンクルリンと、何度でも。恥も何もない。今はただ、この子を笑わせてあげたかった。

 ――――――――――――――――――――


「すみません、取り乱しました」


 あれから数分。エファちゃんの頬の怒りの紅潮は今や笑顔の紅潮へと代わり。

 場はすっかりと落ち着きを取り戻していた。


「爺や、私その、酷いことを言った気がします。ごめんなさい」

「いえ。私も軽率な判断でした。以後、気をつけることといたします」


 二人謝って仲直り。うん、いい光景だ。

 しかし、俺には一つ気になることがある。


「あの、ガウスさん。あの本の事なんですが。俺、妙なメッセージを聞いたんです」


 そういうと、ガウスさんは怪訝な表情をして俺の方に寄ってきた。


「メッセージ、ですか?」

「えぇ。最初は普通に魔力なんかないよ的なものだったんですが」


 俺は聞いた内容をかいつまんで話す。最後の感謝と、さよならの部分までは伝えなかった。なぜかはわからないが、それは他人に言ってはいけないと思ったからだ。


 だが俺の話を聞いて、エファちゃんも怪訝な顔をする。


「爺や、あの本って、そんなこと言いましたっけ?」

「いえ、そんな筈は。そもそも簡易的に使用者の魔力を把握、理解し、その結果を伝える物に過ぎません。それに、力を返す、とは?」


 むむむ、と二人考え込んでしまう。

 つられて俺もむむむ、とわかりもしないが悩んでしまい、場を沈黙が支配する。


 だが、意外にも。


 その場で口を開いたのは、リスタさんだった。


「お嬢様」


「「――――えっ?」」


 ガウスさんとエファちゃんが跳ねるようにリスタさんの方を向く。どうしたんだろう?


「キョウヤ様から、強い力を感じます」


 すると、リスタさんも合わせるように口を開く。


「その力の名は、鏡花水月」


 と。俺は何故この世界の住人であるリスタさんから俺の国の四字熟語が出るのかと気になったが。直後、そんな疑問は飛んでしまっていた。


 何故なら


「「二人が自分から喋ったあああああぁ!?」」


 と、ガウスさんとエファちゃんが素っ頓狂な叫び声をあげたからである。

この作品はコメディとパロディとシリアス、そしてほんの少しの愛情で作られています。


次回から前中後編のうち前中の二話ほどはシリアス編で、ほぼ同時掲載。

重たいのはサクッと終わらせたいね。ハッピーエンド厨だから。

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