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主人公覚醒イベント(のようなもの)中編

少し長いぜぁ。

「ぎるど、でございますか?」


「あ、そういう感じのはないんですかね?冒険者とか。スキルとか、何ができるのか分かるのを示すパラメータカード的なものとか……」


「冒険者に、すきる、ぱらめーたーかーど、でございますか。いやはや、申し訳ありません。聞き及んだことはございませんな」


 屋敷の図書館に移動してきた俺は、ガウスさんに早速質問をぶつけていた。

 なぜ図書館で質問会なのかといえば、この世界のことを知らない俺に何か資料を交えて答えられる場合、ここの方が手っ取り早いからとのこと。


 しかし


 残念ながら異世界の醍醐味、冒険者とギルド。


 無し


「あー、そう、ですか……」


「いやはや、申し訳ありません。ご期待に添えず……」


 少し残念だが、ガウスさんが頭を下げることではないだろう。俺は慌てて言葉をかける。


「いやいやいや!すみません。勝手に期待して勝手に凹んだりして」


 そういうと、ガウスさんは頭を上げ、顎を摩りつつ、思案する。


「しかし、ふむ。お嬢様からキョウヤ様の置かれた現状は、軽くではありますが聞き及んでおりましたが。なるほど、私たちの世界とは根本からして違うのですなぁ」


 ちなみに。ガウスさんは俺が来た次の日の朝、軽くではあるがエファちゃんから俺がゲルパニウム・ジャポネスから来た者であり、この世界にない物を持っていたりする事は聞いてあったそうな。


 そのため、多分俺のいた日本はゲルパニウム・ジャポネスとやらではないですと強く否定しておいた。


「しかし、魔術がなく、機械工学が発展した世界だとか。興味がありますな?ぜひ詳しくお伺いしたい所なのですが、お嬢様とはその話はされましたか?」


「あ、いや実はまだ。屋敷の探検が終わった時、次は俺の世界の話を夕食の時に聞かせてくださいねーって言いながら行っちゃいました」


 去り際のエファちゃんは、実ににこやかだった。実に楽しそうな笑み。これは俺の短い人生の中で楽しかった思い出を総動員して語らなければなるまい。

 とはいえ。夕食の時も多分あの席配置だろう。満足に話をしてあげられるだろうか?とは思う。

 ガウスさんも同じ考えに至ったのだろう。苦笑いを浮かべていた。


「……お嬢様は全く。しかし、そうですか。であれば、私はまだお伺いするわけにはいきませぬな。お嬢様が拗ねてしまう」


そう言いながらも、とはいえぱらめーたーかーど、ぱらめーたーかーどとは?と口ずさむガウスさん。俺は慌てて訂正する。


「いやいや!それは所謂自分たちの世界での、そう。異世界での冒険譚とか、そういう小説的なものの中に出てくる空想の物でして!魔術があるこの世界ならもしかしたら、と思っただけなんです!」


 そう言うと、ガウスさんは合点が行ったようだ。


「ああ、なるほど。そういうことですか。機械工学とは人の資質すら見抜き、記録するのかと想像してしまいました。しかし、うむむ。期待していただいたのに何一つご期待に添えないということでは。私どもの名折れ」


 ぐっと立ち上がると、本棚から二冊、本を持ってきてくれた。


「まずはこちらを。我々の世界を軽く知っていただいてから、キョウヤ様のご期待に答えるといたしましょう」


 ガウスさんがそう言いながらパラパラパラと捲ったそのページには、恐らく地図のような物が見える。


「えと、これは?」


 だが、残念なことに俺はこの世界の文字は読めない。アラビア文字のような物が至る所に書いてあるが……


「はい。こちらはこの世界の地図でございます。文字は、恐らくお読みにはなれないという認識で間違いございませんか?」


「……すみません」


 なんか恥ずかしい!話通じるのに!

 しかしそんな俺を笑うこともなく、一つ一つ指を刺して教えてくれるガウスさん。なんて優しい。


「こちらを。まず、中央にあるこの大陸が、我々の住まう島、ソル・グレルと申します」


 地図で見る限りは相当大きな大陸だ。この大陸を中心とした周囲にいくつか、この大陸の半分ほどの島々がある。


「ここソル・グレルには商業都市が多く、魔術学院などがあり、各大陸との貿易や留学生の交換などが盛んに行われております。我々の住むこの屋敷も、商業都市の中にあるのですよ。ちなみに、ここです」


 ガウスさんが指さすその場所は、海に近く。また、地図上で見る限りは結構な大きさの街に見えた。


「街の名はソル・レグラ。ちなみに、海産品が有名です」


 そこからツツツ、と指を横に持っていく。


「この島と隣接する三日月のような島。ここはルナ・グレル。かつてこの大陸と一つであったと言われる兄弟大陸でございます」


 そういって、説明もそこそこ。ツツツ、とまた指を動かしてしまうが。


「あ、あの。ルナ・グレルは何が有名なんですか?」


 そう聞くと、ガウスさんは口を噤んでしまう。

 あれ、何かまずい事を聞いただろうか?


 そう思ったが。眉を何か苛立つように顰めた後、教えてくれた。


「ここは今や、忌々しき魔女たちの住まう島」


「私の、故郷なのでございます」


 ――――――――――――――――――――

「さて、我々の世界を知っていただいた所で、次はキョウヤ様のご期待に答えましょう」


 地図の説明はそこそこに。話はもう一冊の本の話に移っていた。

 残りいくつかの主要大陸の名前を教えてもらったが、ガウスさんが本当に忌々しげに呟いたルナ・グレルの魔女の話が耳から離れず、頭にはあまり残らなかった。

 とりあえず島の名前はともかくとして、製鉄技術の高い島と、大きな大樹がある島、造船技術が高い島、というのは覚えている。


「ガウスさん、この本はなんなんですか?」


「はい、この本はですな」


 ガウスさんはパラパラパラパラと本を捲ると。


「セイヤッ!」


 と、気合いと共に何かエネルギー波のような物を手から放ち、本を爆散させてしまった…………


 って、ええええええええ!?


「ガウスさん!?」


 あれか?イライラがピークに達してしまったのか!?


 そう慄く俺に、ガウスさんはにこやかに語りかけてくる。


「さ、キョウヤ殿。こちらへ」


 いや怖いよ!?俺は何されるの!?


 そう思いながらも、おっかなびっくりしながら破れた本のページが乱雑に散らばる場所へ。


「あ、あの。俺はここでな、何をすれば?」


 怖い。なんか初対面から力強さみたいなものを感じてはいたが、そりゃそうか。エファちゃんが魔術を使えるんだからそりゃあガウスさんも魔術を使えるだろう。

 まさか爆散されはしないだろうが………?


「そう怯えないでください。これが正しい使い方です。この本は魔証の本、と申します。利用する者が潜在的に持つ魔力を計ってくれるのです」


 ぱらめーたーかーどというものには遥かに劣るでしょうが、と言いつつ。ガウスさんは何やら手に光を集め、ちぎれ飛んだページたちに向ける。


 すると、"フォン"という音がしたかと思うと、破れてちぎれ飛んだページ達は俺の周りを飛び交いはじめた。

 それだけでも神秘的な光景なのだが、歌のようなものが聞こえ、心が落ち着いてくる。


「キョウヤ様、そのまましばしお待ちください」


 言われた通り、黙って立っている。

 今先ほど起きた神秘的な光景は、ほんの数秒で収まり、バラバラになっていたページは眩い光を伴って元の本の形に収まっていく。


「すげぇ……」


 俺が今まで見た魔術というものは、浮いていたエファちゃんと、気がつかない間にかけてもらったきつけの魔術、一瞬で移動する瞬間移動のような魔術。そしてトラウマになりかねない本の爆散であった。

 そのため、こうして神秘的な光景を目の当たりにしてしまうのは初めてで。思わず感嘆の声が漏れた。


「さて、キョウヤ様。ご覧ください」


 収まった光から現れた本を、俺に手渡して来るガウスさん。


「この本は、測った者の心に語りかけ、教えてくれます。字が読めずとも、その心に」


 わぁ、と正直少年の心のようなものが心中に現れ、期待してしまう。実はすごい素質持ってたらどうしようとか、そういう淡い期待。だがそんな俺を見て、ガウスさんは念を押すように言う。


「キョウヤ様。残念ながら貴方様は異世界の方。恐らく生まれ出た世界が違う以上、潜在魔力は持っていらっしゃらないでしょう。ですが、悲嘆なさらずに、恐れずにその本を開いてくださいませ」


これも一つの経験でございます、と。


 そう言われると、確かにそうだろう。恐らくこの本を開いたら、答えを知ってしまう事できっとがっかりするのだろうな、と思う。

 ファンタジー世界にいる以上は魔術とか使ってみたいなぁとか思ってしまっているし。

 

 "でも、あくまで俺は普通の日本人だし、そんなものを持っている方がおかしいのだから"


 "それに、素晴らしい神秘的な光景を見せてもらった上、最大限期待に答えようとしてくれた。その気持ちだけでお腹いっぱいだ"


 そう自分に冷静に言い聞かせて。確かにこれも一つの経験だと思い、諦観をもちつつ本を開いてみることにしたのだった。



覚醒するのかい!しないのかい!どっちなんだい!?


する(かも)よぉ?

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