54話
アリアさんからの話を聞いたあと、暫くして時間もちょうど良いからと言うことでそれぞれの宿に戻った。
でも、私は自室のベッドに横になりながら、アリアさんから聞いた話を思い返していた。
「…………ねぇ、ルナは気付いてたの?」
「あの襲撃を見た後なら可能性として考えてはいたわ。でも、わざわざ言うとあなたを余計に悩ませていたでしょう?今みたいにね」
そうだけど………ううん。どちらにせよ、私はあの件に積極的に関わるつもりが無かったんだから、ルナはその選択に水を差さないために黙っていただけ…………だと思う。秘密主義なルナだから、もしかしたら別の理由もあるかもしれないけど。
「それに、もし本当にあれが召喚術だとして、相手が誰かは分からないけど…………もしも人間の陰謀だったとき、あなたは戦えるのかしら」
「…………ううん」
人を相手にするなんて、私には出来ない。ようやくモンスターと戦う覚悟が固まってきた頃だけど、やっぱり人は違う。
…………でも、一つだけ腑に落ちないことがある。
「…………でももしも召喚術だとして、それを使った人があの森にいるとは限らない…………よね」
「まぁ、そうかもね」
仮にこの街に害を与えるための陰謀だとしても、数ヶ月も森の中で術式を展開し続けるなんて非効率でリスクの高い作戦なんか普通は取らないはず。
本当にあんなモンスターの襲撃が起こる規模の召喚術を人の手で組めるなら、街中で混乱を起こす方が簡単だし。
「…………つまり、森でしか召喚が出来なかった理由があるかも」
「そうね。じゃあ、それはなんだと思う?」
人目………ううん。この街でも人目を避けられる場所なんていくらでもある。
つまり、人じゃなくて立地の問題のはず。そして、あの森でしかダメな理由は、あの森の特徴にある…………
「…………森そのものが持ってる魔力?」
大規模な召喚と言えば、ダンジョンが筆頭だ。魔力以外にも色んな条件が必要だから、発生する場所や確率は低いけど、自然的な大量の魔力を対価にモンスターを召喚してるのは間違いない。
本来ダンジョン化するはずがない場所でも、大量の魔力さえ整っていれば理論上は召喚魔法の術式は組めるはず。
「可能性としては一番あり得るわね。アリアは意図的に召喚数を調整していると言っていたけど、単に周囲の魔力を掬い上げて術式が成長したことで、召喚規模が大きくなった…………と見るのが妥当だと思うわ」
「つまり、これからあの森は…………」
「えぇ。いくらオルムの木々の魔力が多いと言っても限りはあるわ。供給が絶えれば術式を維持できなくなり、勝手に消えると思うけど…………そうなった時にはもうあの森の魔力は吸い付くされ、林業は廃絶…………それどころか、周囲の生態系にすら影響があるかもしれないわ」
人間だけの問題じゃない。この周囲に暮らす生命全てに関わる問題だった。
勿論これが正解なんて確証はどこにもないけど、それを確かめるには一つしかない。
「…………明日、森にいってみよう。奥まで行くのは危ないけど、あの鳥の魔法なら確認くらいは出来ると思う」
「…………そう。あなたが来たことなら、私は異を唱えないわ」
「うん…………ねぇ、ルナ」
「なぁに?」
ルナは私を見る。けれど…………エルリンで感じたときのような、どことなく何かを憂うような雰囲気を纏っている気がした。
「もし、召喚術だったとして…………作ったのは誰だと思う?」
「…………分からないわ。街が発展することで何らかの不都合がある人物、または団体なんて領主ですら把握しきれないもの」
「でも大規模な召喚術式を組めるのはそう多くない、よね」
「…………憶測であなたを惑わしたくはないわ。それに、今のあなたなら何が起こってもきっと大丈夫よ」
「…………そっ、か」
ルナが言い淀むなんて、考えうる中でも最悪に近い事なんだろう。私は少し不安を抱えつつ、心の中で覚悟を決める。そして、明日の備えを始めたのだった。
そんな翌朝。私は朝早くからギルドに行って護衛の依頼を受けていた。
そして、森に向かうために他の街を出て、同じように護衛の依頼に向かう冒険者の人混みに混ざって向かっていた時………
「アリス!」
「えっ?あ、エルクさん。おはようございます」
人混みの中でも一際目立つ巨漢を見間違うはずもなくて。でも人混みを抜けた先で、エルクさんの側にいた人を見て思わず目を見開いた。ルインさんは勿論だけど、更にもう一人…………
「だ、ダインさん!?」
「やぁ、アリス。まさか、君がエルク達と知り合いだったとは思わなかったよ」
「俺もアリスがダインから声を掛けられていたとは知らなかったけどね。しかし………アリス、昨日アリアから聞いたんだろう?」
「…………はい」
なんでダインさんとエルクさん達が一緒にいるのかは気になったけど、それより先に投げ掛けられた質問に頷く。
すると、エルクさんは少し真剣な顔をして私をみた。
「今回の件は…………私たちが最初思っていたよりも大変なことになるかもしれない。それを承知の上でここにいると言うことは………もしや、ダインの誘いを受けて?」
「…………いや、結局あれから何も聞いていないけど」
「その…………ごめんなさい。まだ分かりません。私は人と戦う覚悟はないですし………でも、何も知らないまま見て見ぬふりをするのも嫌だったから、せめて何が起こってるのかを知りたいんです」
「そうか…………なら、今回は同じ区画を担当出来るように掛け合ってみよう。もし何か分かったら、俺たちにすぐ教えてほしい」
「はい、分かりました…………あと、なんでエルクさん達とダインさんが?」
「ん?あぁ、それはね」
ダインさんはさっきまでの真剣な表情を崩して、にこやかに笑みを浮かべて話し始めた。
「僕がまだ未熟だった頃、エルクに世話になった事があってね。それからたまにギルドを通して連絡をしていたんだけど………偶然、このオルムの近くにあるエルリンに来ていると聞いてね。今回の件で助っ人に来てくれないかと頼んでいたわけさ」
「ははっ。あの剣の振り方もなっていなかった子供が今では俺を超えてBランクとは、旅をしていると予想も出来なかったような事が多くて退屈しないな」
「ははは………昔の話はよしてくれよ」
つまり、ダインさんが言ってた仲間ってエルクさん達の事だったのかな、と一人で納得する。
取り敢えず、今回の件なら頼れる人は多い方が良いはず。そう思った私はエルクさんの提案に乗って、同じ区画の護衛を担当することになった。




