49話
次の日の朝。自然に目を覚ました私は、昨晩の苦しさが嘘のように体が軽かった。
すっきりとした頭の中で昨日のことをぼんやりと思い返していると、ルナがベッドの上に飛び乗ってきた。
「おはよう、アリス。もう元気になったのね」
「うん。左手ももう痛くないし」
「…………やっぱり、魔力への順応が異例なほどに早いわ。取り敢えず、起きたなら早く着替えなさい」
「ん、分かった」
ルナに促され、私はすぐに着替えを始める。その時に少し自分の左手をもう一度見てみたけど、やっぱり特に何かあるわけでもなくて、普段通りの簡単に折れてしまいそうな貧弱な腕だった。
「アリス。着替えを終えたら宝箱を開けてみましょう。あんなモンスターを撃退したんだもの。報酬もきっと凄いわよ」
「そうかな?………あ、そういえばあのモンスターの尻尾は?」
「あのままにしておくのは勿体ないと思って一緒に仕舞っておいたけど………私もあのモンスターがどのような種なのかは知らないの。尻尾だけとは言えかなりの大きさだし、解体を頼むならもっと大きな街の解体屋に行かなきゃ行けないでしょうね」
「そっか」
そう言いながら私は着替えを終えて、空間魔法からルナの言っていた宝箱を取り出す。鍵穴部分には魔法陣が結界のように張られていて、遠目で見た時から何となく大きなぁと思ってたけど、想像以上に大きくて私くらいなら二人は入りそうだった。自分で出したとはいえ、そんな宝箱が目の前に出てきたから、私はちょっとだけびっくりしてしまう。
「お、おっきいね………」
「そうね。いったい何が入ってるのかしら」
「罠………だったりしないよね?」
「こんな凝った魔法が掛けられた罠なんてあるわけないでしょう。早く開けちゃいなさい」
「はぁーい………」
ルナに急かされて、私は気の抜けた返事をしつつ宝箱に近付く。そして、鍵穴に浮かんでいた魔法陣は私が手を伸ばすと消えてしまった。それを見て私は宝箱を開け………
「おっ………っも………」
その重さに唸るような声を上げてしまう。大きさから何となく分かってたけど、どう考えても私みたいな貧弱な小娘が開けられるような重さじゃなかった。
何度かチャレンジして、びくともしないのを悟った私は宝箱に背を預けて座り込む。起きたばっかりなのにもう疲れたんだけど。
「………魔法を使えばいいじゃない」
「あっ………」
呆れたようなルナの声で、私は少しだけ顔を赤くする。必死になってた自分が馬鹿みたいだ………なんて思いながら私はいつものように『開け』と願う。
すると、宝箱はさっきまでの苦労が嘘のように簡単に開いてしまう。ほんと何だったのさっきの苦労。ため息を付きながらルナと一緒に中を覗き込む。そこに入ってたのは………
「杖?」
「あら………なんて都合のいい。それとも、あなたのために用意されたのだから当然と言うべきかしら」
宝箱に入ってたのは杖………でも、箱の大きさからして分かってもらえると思うけど、今まで私が使ってたような小さな杖じゃない。
私の身長より長いくらいの大きな杖で、すごい大魔法使いが持っているような感じの杖だった。先端には銀色の円盤と、それを囲うような銀のリング。どっちも中々に鋭くて、これ振るだけでも武器になるんじゃ?なんて思ってしまうくらいだった。
「眺めてないで早く取り出したらどうかしら?」
「お、重そうじゃない………?」
「別に振り回さなくても良いんだから、多少は大丈夫でしょう」
まぁそうだけど………そう思いながら杖を手に取る。けれど、疑問を持ったのはすぐだった。見た目に反して、全く重さを感じない。そのままひょいと持ち上げてみたけど、やっぱり中が空洞なのかと思うくらいには軽くて………え、これ玩具とかじゃないよね?と少し不安になってしまう。
「私のことを思い出しなさい。重量を軽くするのはそう難しい魔法じゃないのよ」
「あ、そういえば………じゃあ、この杖はそう言う効果がある杖って事?」
「それもあると思うけど、気になるなら『鑑定』で見て見たらどう?」
「ん………じゃあ、『鑑定』」
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『神月の長杖』
魔道具・S等級
「オリハルコンで作られた、月の女神の魔力を宿した杖。この杖を手にしたものは、偉大なる未来が約束される」
1.魔力を極限まで高め、この杖で魔法を行使した際の魔法の効果を増幅する。
2.杖に魔力を通した際、『月光の門』を開くことが出来る。
3.『月光の門』は使用者に永続的に魔力を与え、門に魔力を供給する事で聖光魔法を放つ。
4.杖の重さの殆どを軽減する。
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「え、S等級………」
「これは………神器系統のマジックアイテムね」
「神器系統………?」
聞きなれない言葉に首を傾げると、ルナは少し悩むような間を置いてから話し始めた。
「………そうね。シリーズと言ったら分かりやすいかしら?神々の力を宿す神器系統、伝説の古龍の力を宿した七龍系統、という感じでS等級には同系統のマジックアイテムがあったりするのよ」
「そうなんだ………凄いやつ?」
「えぇ、間違いなく国宝級ね。下手をすれば国が傾く程の希少性と価値があるわ」
「つ、使えないじゃん………」
そんな杖持ってたらトラブルの元になるに決まってる。というか、トラブルで済んだらいい方だ。争いが起こったらどうしよう?折角手に入れたのに、もうお蔵入りなの?と思った時、ルナがゆっくりと首を振る。
「鑑定でもしない限り、この杖がそうだと分かる人なんていないわよ。目の利く人なら、かなり等級の高い杖だと見抜けるでしょうけど………この世界でも屈指の実力者ならそういった武器を持っている事だってあるもの。あなたが持っていてもおかしくないわ」
「わ、私そんなすごい人じゃないよ………」
「Sランクモンスターを撃退しておいて何を言っているのかしら………とにかく、これからはそれを使いなさい。魔法の出力先を変えるだけだから、普段使ってる力にも効果があると思うわ」
普段使ってる力………ルナに願いを叶えてもらう力の事なのは分かったけど、昨日の話だと魔法には媒体とか、詠唱とか、万能じゃないとかの制約があるって話だったよね。
あの魔法はルナを通して使っているのは分かってるけど、ルナは媒体なんて持ってる様子は無いし、詠唱も聞いたことがない。願いを叶える力なんて、万能だと言っても良いはずだし………
「………あれってルナが発動してるんだよね?ルナってあのルールを克服してるの?」
「あれは人に対しての原則よ。私が人間に見えるかしら?」
「………ネコ?」
「えぇ、ネコでしょう?」
「………じゃあ大丈夫なのかな?………え、ルールってそんなものなの?」
「そう言うことにしておきなさい」
話してくれないって事だね。まぁいいや。今更隠し事が増えた所で気にしないし………どちらにせよ、ルナがいてくれるだけで私はそれでいい。今も昔も彼女が私の心の支えだし、彼女が居なければ私はずっと自分で未来を決めるチャンスを得ることは出来なかっただろうから。私は杖と空になった宝箱を仕舞う。そして、ルナに声を掛けた。
「よし。ルナ、冒険者ギルドに行こ」
「あら、もうお仕事?少しは休んでも良いのよ」
「もういっぱい休んだよ。それに、ダンジョンから帰ったんだから、報告しておいた方がいいかなって」
「相変わらず真面目ねぇ………でも、行くのなら注目されるのは覚悟しておきなさい。ギルドカードの履歴に、多分載ってるわよ」
「………何が?」
「召喚されたSランクの粛清者を撃退したって言う履歴よ」
………ま、また具合が悪くなってきたかも。




