48話
頭の中でズキズキとした痛みを感じながら、ゆっくりと意識が起き上がってくる。体も何だか熱っぽいし、ちょっと息苦しい。
左手は…………まだちょっとだけ痛いけど、だいぶマシにはなっていた。
「う、んん…………」
「あ、アリス!起きたのか!?もういいのか……!?」
「う………ご、ごめんなさい、頭が痛くて…………おっきな声は、ちょっと………」
「っ、わ、悪い………」
起き抜けからアウルさんの大声が頭に響いて、思わず顔を歪めてしまう。まだなんとなくぼーっとしてるけど、意識を失う前の事はちゃんと覚えていた。
でも、私はいつの間にか自室のベッドにいて、窓の外は真っ暗だった。辺りを視線だけで見渡すと、それに気づいたガウスさんが話し始める。
「あの後、大蛇を撃退したときに現れた転移陣で外に出れたんだ。んで、ルナに案内されてこの宿にあんたを連れてきたんだが………なあ、アリス。あんたいったい………」
「親父、そんなことどうだっていいだろ。俺達は帰ろう。人の部屋にいつまでも居座るもんじゃないし」
アウルさんがガウスさんの言葉を遮る。その言葉はぶっきらぼうに見えて、まだ具合の悪い私を気遣ってくれていたんだと言うことはすぐに分かった。
「…………そうだな。お前の言う通りだ。アリス、改めて礼を言わせてくれ。本当にありがとう」
「俺からもだ。ありがとう、アリス。元気になったらまたゆっくり話そう。その時は今日の打ち上げだ」
「はい…………お二人もお元気で。ありがとうございました」
ベッドから体を起こすのもしんどくて、私は横になりながら二人に別れの挨拶をする。
そうして部屋を出ていったのを見て、私は大きく息を吐く。そして、今まで黙っていたルナに視線を向けた。すると彼女はゆっくりと話し始める。
「アリス、体調はどう?」
「ん~…………あんまり、良くはないかも」
「でしょうね。初めて扱う魔法で詠唱もせず、媒体もなしで行ったんだもの。あなたに偶然天賦の才があったから無事で済んだけど、そうじゃなかったらあなたの左手はあの杖みたいになってたわよ」
「杖………?あっ………杖、壊れちゃったんだ」
「あれは見た目だけの木の棒だって話したでしょう。それなのに本当に魔法を発動させてしまうんだもの。負荷に耐えきれず壊れてしまうのは当然よ」
「魔法…………私、魔法を使ったんだ」
正直、あの時は何が何だか分からなくて、自分にいったい何が起こっているのかも分からなかった。
ただがむしゃらで、生きてやるって全力だったし。
「えぇ、それも並みの魔法じゃないわね。結界魔法の中でも最上位の大結界よ。それをあんな器用に扱うなんて芸当、連盟の人間が見たら腰を抜かすでしょうね」
「…………そうなんだ」
「魔力を適応させてから少しだけ感じていたけど、あなたには間違いなく魔法の才能があるわ。それも、歴史に名を残した大魔法使い達すら凌ぐほどの。その才能を磨けば…………もしかしたら、あなたは最初の『賢者』になれるかもしれないわ」
「…………賢者?なに、それ」
賢者という言葉を知らない訳じゃないけど、ルナが言っているのは私の想像する賢者ではないんだろうなって言うのは何となく分かった。
「魔法使いには7つの区分があるの。初級、中級、上級、魔術師、天位、王位…………そして賢者。そしてロードに名を刻んだ人間は三人。でも、賢者の席に着いた者は誰一人として存在しないのよ」
「誰も存在しない称号なんて、なんの意味があるの………?」
称号は偉業を成した人のために作れるものじゃないの?そう思った私の質問にルナは答える。
「そうね…………それを理解するには、原初の魔道書に記された人間が魔法を行使する上での六つのルールの事を知る必要があるわ。
一つ。魔法は等価交換である。
二つ。魔法は詠唱を行わなければならない。
三つ。魔法の行使には媒体が必要である。
四つ。命の対価に魔力を使う事は出来ない。
五つ。魔法は万能足りえる事はない。
六つ。人は星に至る事は出来ない。
これら六つのルールを克服し、完全な魔法を顕現させる。それが魔法使い連盟の命題であり、グランド以上の資格にはこのルールを克服した数が条件となるのよ」
「じゃあ賢者っていうのは…………その六つのルールを全て克服した人ってこと?」
「えぇ。とはいっても、二つ目だけならそれなりに克服者がいるのが実情よ。でも、グランドに必要な条件は最低二つの克服。あなたは既に、実績さえ積めばグランドの座に着く資格を得たのよ」
ルナの言うことが凄いのは何となく分かるんだけど、ぼーっとしている頭では上手く実感が出来なかった。
けど、一つだけ気になることがあるとしたら…………
「星に至るって、何?」
「さぁね。何かの例えだと思うけど………それを解き明かせない事も含めて、ルールなのかもしれないわね」
「そっか…………」
正直、私にとってはあんまり関係ない話だなぁ…………っていうのが正直な感想で。
守りたい物を守れるくらい強くなれれば、それでいいよ。
「なら、守りたいものが増えすぎたら困るわね」
「…………ルナは、私にどうなってほしいの?」
「貴女がなりたいものになって欲しいだけよ。それはずっと変わってないわ」
そっか…………とにかく、今はまだちょっと眠いや………
「そうね、今日は無理せずに休みなさい。でも、あなたが寝る前に一つだけ伝えなきゃいけないことがあったわ」
「…………なに?」
「大蛇を撃退した報酬として、宝箱が召喚されていたでしょう?あの宝箱には魔法によって鍵が掛けられていて、粛清者を撃退したあなた以外には開けられないようになっているわ。私が代わりに宝箱とあのモンスターの尻尾をあなたの異空間に仕舞っておいたから、動けるようになったら宝箱の中身を確認しなさい」
「ん…………」
「とにかく、今日は頑張ったわね。ゆっくり休みなさい、アリス」
「うん…………おやすみ、ルナ」
「えぇ、おやすみなさい」




