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44話

 ガウスさんの治療を終え、私達は彼の意識が回復するのを待っていた。

 隣に座っているアウルさんの表情は安堵したように和らいでいて、彼は今までも穏和な態度ではあったけど、やっぱりどこか固いような緊張感があったから、今の彼の表情を見て私も凄く嬉しかった。


「…………親父が持ってるバックパックさ、俺が冒険者になって稼いだ金でプレゼントしたやつなんだ」

「…………そうだったんですね」

「あぁ。大事に使ってくれよって言ってはいたけど…………」


 意識の無かったガウスさんは、これだけは絶対に離さないというとようにバックパックを抱えていた。

 アウルさんが家族思いなのは父親譲りなんだなぁって思いながら、私は膝にいるルナを撫でる。やっと肩の荷が下りたからか、静かな時間が流れていたときだった。


「うっ…………ぐっ…………?」

「っ!親父!」


 意識を取り戻したのか、小さく唸るガウスさんにアウルさんが立ち上がって駆け寄る。私もルナを抱き抱えて腰を上げたけど、まずは二人で話したいだろうなと思って、その場からは動かなかった。


「…………ア、ウル……?ついに………息子の幻覚が、見えるようになるなんてな…………」

「馬鹿!何が幻覚だ!俺達が必死に止めたのも聞かずにこんなところまで来やがって!!」

「…………何?幻覚じゃない、のか?」

「当たり前だろ。死神の迎えはまだ来ねぇよ」

「…………」


 ガウスさんは暫く黙り込む。しかし、少しずつ意識がはっきりしてきたのが、朧気だった視線が少しずつ纏まり始め…………


「…………アウル!?何故お前がここにいる!?」

「あんたを助けに来たからに決まってんだろ!」

「ばっ、おま…………ここがどこか分かってるのか!?もしもの事があったら母さんを頼むと――――」

「勝手な事言い残して消えてんじゃねぇよ!!俺が守りたいのは母さんだけじゃなくてあんたもだよ!!!」

「っ…………」


 起きて早々始まる親子喧嘩。けど、止める必要がないのは流石の私でも分かっていた。そもそも、部外者の私が色々言える立場じゃないんだけど。


「俺、まだあんたに教わってない事がいっぱいあるだろ………俺を一人前の冒険者にしてくれるって、約束もしただろ!?なのに、一人で背負おうとして、こんなことになるなんてやめてくれよ…………!」

「…………アウル」

「…………なんだよ」


 アウルさんがまた赤くなった目尻を拭い、ぶっきらぼうに答える。すると、ガウスさんはそっと頭を下げる。


「…………すまなかった。本当に、俺は―――」

「その先は言わないでくれよ。俺にとっては、親父は最高の父親だし、一番尊敬してる冒険者だ。だから帰ろう。絶対に」

「あぁ、そうだな…………!」


 取り敢えず、一段落付いたみたい。けど、次は今すぐここを出る、なんて事は難しかった。

 回復魔法で傷は塞いだけど、流れた血を元通りにするなんて事は出来ない。失った体力は自力で回復するしかないし、意識を取り戻したからと言って、今のガウスさんは一人で歩くことすらままならないはずだった。


「…………あと、父さんに紹介しなきゃいけないな。この子が、俺を助けてくれたアリスだ。俺と歳はほぼ変わらないのに、Bランクのドラゴンを一人で倒した凄い魔法使いなんだ」

「Bランクのドラゴンを1人で…………そうか。嬢ちゃん…………いや、アリスさん。今回は俺のせいで迷惑を掛けた。本当に申し訳ない」

「アリスで大丈夫ですよ。それに、迷惑だなんて思ってないですから。ご無事で良かったです」


 ガウスさんが意識を取り戻したあと、取り敢えず彼が一人で動けるようになるまではここで待機することになった。

 私達はガウスさんより圧倒的に体格が小さいし、今の彼を支えながら帰るというのはかなり危険だったから。

 とにかく、体力を回復するには食事が一番!そう考えた私は、思えばこの世界に来てからは初めてとなる料理を作っていた。


「あなたの料理、向こうの世界にいた頃は食べさせてくれなかったから、私も楽しみね」

「普通のネコには人間のご飯は食べさせちゃダメなの」

「ふふ………私の分、忘れないでちょうだいね」

「うん、分かってるよ」


 作ってるのはお肉多めのシチューと、焼いたお肉と野菜を調味料で少し味付けをしてパンで挟んだ簡単なサンドイッチだけど。

 旅の中で使うかも、と思ってこう言う場所で使える調理器具や机は用意してたけど、結局使ってなかったなぁ…………


「おい、アリスは本当にお前と同年代なのか?話を聞けば聞くほど信じられなくなってくるぞ」

「俺も信じられないと思ってたけど、ここまでアリスの実力は見てきたから本物だよ」

「はっ…………本当にうちの息子が世話になったみたいだな。おまけにメシまで振る舞ってもらえるなんざ、この恩をどう返したらいいか分かんなくなっちまう」


 二人は私が料理をしている間、このダンジョンでの道のりを話していた。

 ガウスさんは息子の大冒険の話に興味津々なようで、さっきまでと比べて凄く元気になっていた。


「いえ、そんな…………私も今回の事は自分の成長に繋がったと思います。人付き合いが苦手な私が、ここまで話せるようになったのはアウルさんのおかげですし」


 なんて言ってみたけど、いざ初対面となると緊張しちゃうんだろうなぁ…………ガウスさんは、アウルさんからいっぱいお話を聞いてたからそんなに緊張はしなかったけど。


「…………話を聞いた限りじゃ誰かに下手(したて)に出る必要なんかなさそうだが、随分と謙虚だな」

「あはは…………その、私はまだ一人の人間としては未熟なので…………でも、そんな私でも誰かを助けられるって思えたのは、私にとって凄く大きな事でした。だから…………えっと、アウルさんには感謝してるくらいです」


 私はそう言って少しだけ笑みを浮かべる。思えば、オルムに来てからは街にいたときよりここに来てからの方が笑うことが増えた気がする。

 

「はっ………今の時代、強さと優しさを兼ね備えてる若者なんざ滅多にいないってのに………アウル、良い縁を持ったな」

「…………あぁ、俺も今回の事は凄く良い経験になった。親父も見つけれたしな。アリスがいてくれなかったら絶対に無理だったよ。だから、こちらこそ本当にありがとう」

「…………はい、どういたしまして」



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