27話
その日の夕方。襲撃のあとは特に何も起こらなくて、樵さん達の仕事が終わったら私の仕事も終わり。
ギルドに戻って報酬を受け取って、また勧誘を受けないために早足でギルドを出た私は宿へ帰っていく。ギルドを出る寸前に、見間違えじゃなければ数人程私を見て立ち上がったような気がするけど、見間違いであってほしいな。
なんて事を考えながらギルドから離れてしばらくすると、肩にいるルナが声をかけてきた。
「アリス。明日はお休みにしなさい」
「え、どうして?私はまだ大丈夫だよ?」
「言ったでしょう?普通の魔法使いなら今頃は魔力の回復に努めるものなのよ。けど、あなたは連日戦果を挙げてるわ。ただでさえ注目を集めているのに、これ以上話題を作るつもり?」
「あー…………うーん………」
そう言われると確かに………でも、私がいなくてあそこは大丈夫なのかな。そんなことを考えてしまうと、ルナが私の頬を右手の肉球で突く。
「いい?あなたがいなくても、今まで彼らはやってきてるのよ?それとも、ここにいる冒険者達じゃ彼らを守りきれないって言いたいのかしら?」
「そ、そんなことないよ!」
「じゃあ大丈夫でしょう?真面目なのは良いことだけど、あなたはもっと気楽に考えていいのよ。あと、私と話すときは大声を出さないようにね」
「あっ………」
周りの人たちの視線が集まっていることに気付いて、私はハッとなってフードで顔を隠し、足早に宿へと向かう。
ルナが話せることが当たり前過ぎて、たまに他の人にはルナの言葉が分からないことを忘れてしまう。周りからみたら、急に大声を出した変な子に見えてるだろう。
「アリス。ちょっと視線が集まったからって、すぐ顔を隠すのはやめなさい」
「だ、だって………」
ルナは呆れたように言うけど、こればっかりは恥ずかしいんだもん。少し顔が熱くなっている自覚をしつつ、私は宿に戻ってすぐに部屋へと飛び込んだ。
部屋に入ると、ルナは私の肩から降りて窓際へと向かう。何かを見てる様子もないけど、あそこが好きなのかな。
「はぁ~~…………」
私はベッドに飛び込んで、枕に顔を埋める。戦うことも勿論疲れるけど、沢山の人と関わるのも疲れる。
今までは単純な討伐依頼とか採取依頼みたいのばっかりだったから、こんなに色んな人がいる現場での仕事をしたことは殆どない。
「その様子だと、案外疲れているみたいだし丁度良かったんじゃないかしら」
「ん~………もう少し、人がいないところなら気が楽なんだけどな………」
「それだけ期待されてるのよ」
「人に期待されるのは慣れないよ…………」
「なら慣れなきゃいけないわね。無関心でいられるより良いでしょう?」
そう………かもしれないけど。そうだと思う気持ちと、期待されるのは苦しいって気持ちも感じる。
それがただの我が儘なのも分かってるけど。何回目かも分からないため息を着いて、思考を中断する。今考えても答えは見つからないし。
「…………明日はなにしようかな」
「そうね………まだしっかりと町を見れていないでしょう?観光だと思って出掛けてみるのはどうかしら」
「んー…………じゃあそうしようかな」
こっちの世界に不満があるわけじゃないけど、一人で出来る娯楽が少ないのは困ることがある。
本は高いらしいし、料理も出来るだけで好きじゃないし。
「なら、お洒落をしてみたら?エルリンから旅立つとき、騎士団長に洋服を貰っていたでしょう?」
「あっ………そういえばまだどんな服か見てないや………」
どんな服なんだろう?ライルさんのことだから、心配はいらないとおもうけど………そう思いつつ、私は魔法でライルさんから受け取った箱を取り出す。
ルナも窓辺からベッドに跳び移って、一緒に箱を見つめる。そして、私は少しドキドキしながら箱を開封する。入っていたのは…………
「あら、綺麗じゃない」
箱に入っていたのは、涼し気な真っ白のワンピースだった。美しいフリルがあしらわれて、これを人の手で作るとしたらどれだけの時間と労力が必要なのか想像できないくらいに綿密に編まれてるそれに、一体いくらしたんだろうとあんまり考えるべきじゃない疑問が湧いて来てしまう。
「ほ、本当に受け取って良かったやつなのかな………?」
「今更その心配は意味があるのかしら。今からエルリンに戻って返しに行くつもり?」
「それは………無理、だけど」
「それにあの大きな街で重要な役職に就いているんだから、稼ぎだって今のあなたよりずっと多いはずよ。馬鹿じゃないんだから、大丈夫じゃないプレゼントなんて贈らないでしょう」
「そ、そうだよね………」
本当に無意味なやり取りをしてしまって、ルナには明らかに呆れたような視線を向けられる。ただ、改めてみると………凄く綺麗でかわいいけど、肩が出てるしちょっと着るのはハードルが………
「それくらいで何言ってるのよ。ワンピースなら珍しくもないでしょう」
「わ、私こんなの着たこと無いもん………!」
「それは今まで外に出なかったからでしょう?着ないじゃ貰った意味が無いのよ。折角なんだから試着してみたらどう?結局、サイズが合っていなきゃ駄目でしょう?」
「う………わかった………」
お勉強のためとか、遊ぶお友達が居なかったとか。そんな言い訳は浮かんできたけど、結局外に出掛ける事が無かったのは事実だから口には出さない。
そのせいでこの世界の一般人と比べても体力も力もないなんて有様だけど。流石に運動した方がいいかな、という危機感はちょっとだけ感じてたりする。
なんて心の中で色々考えながらワンピースを着てみる。幸いにも、サイズはピッタリで特にキツイ所や、逆にブカブカすぎるところはない感じだった。
「ど、どう?変じゃない?」
「とても似合ってるわよ。自信をもって良いと思うわ」
「そ、そっか………」
本当かなぁ………大丈夫かなぁ………でも、ルナが言うことだし多分大丈夫だよね………一応自分でもくるりと姿を見下ろして確認する。自分でも変なところはない………と思うけど。多分。
「全く。あなたの自信は何処に落としてきちゃったのかしら」
「元々持ってないけど………」
「じゃあどこかで拾わなきゃいけないわね」
落ちてる物じゃないと思うけどなぁ………なんてツッコミは多分言ったところで上手い事躱されそうだから呑み込む。取り敢えず、もう一度ローブに着替えて私はベッドに入った。今日はもうすることもないし、早めに寝ちゃおうかな。
「そう。おやすみなさい、アリス」
「おやすみ、ルナ」
そう言って目を閉じると、すぐに眠気がやって来た。あまり自覚はしていなかったけど、思ってた以上に疲れていたみたい。お腹の上にそっとルナが丸くなる微かな重みを感じながら、私は眠りについたのだった。




