26話
翌日、私はまたギルドに来ていた。ちょっとでも人が少ない時間がいいなと思って、ギルドが開く少し前から待っていた。ルナは何か言いたげだったけど、何となく私もルナが言いたいことは分かるようになってきた気がする。
多分、「もうちょっとくらい余裕をもって良いのよ」って言いたかったんだと思う。すると、私の腕の中にいるルナがこちらを見上げる。
「あら、あなたも私の考えていることが分かるようになったのかしら?」
「………うーん。ルナの考えてることかぁ………気になるけど、あんまり知りたくない気もする…………」
「失礼ね。私の心の中はあなたへの愛で満ち溢れているわよ?」
「でも、私に言えない事もいっぱいあるでしょ?」
「ふふ、良く分かってるじゃない」
だと思った。相変わらずなルナに呆れつつも気安いやり取りにちょっとだけ笑みが浮かんでしまう。そしてルナの頭を撫でながら、まだ人の少ないギルドに入る。
また人混みになっちゃったら意味ないし、早く依頼を取って受けちゃおう。昨日と同じカウンターに向かうと、フェリさんは私を見て驚いたような表情をしていた。
「あ、アリスさん!?今日も護衛依頼を受けられるんですか!?」
「えっ、え?も、もしかしてダメでしたか………?」
「あ、いえいえ!受けていただくのは歓迎なのですが、昨日の仕事ぶりならば1日くらいは休養を取るかと思っていましたので………」
「み、皆そう言うんだ………」
依頼表をフェリさんに渡しながら、苦笑を浮かべる。まぁ、ここまで来ちゃったし。それに、あの様子だと少しでも人は多い方がいいと思う。臆病な私だけど、それでも出来る事だけはしたいから。
「………はい!それでは受注を受け付けましたのでよろしくお願いします!」
「分かりました」
依頼を受けてギルドを出ると、私は昨日と同じように樵さん達の仕事場へ向かった。正直、昨日は何処へ行けばいいのかちゃんと分かっていなかったから、ダイアさん達に同行できたのは運が良かったと思う。
本当に困ったらルナに教えてもらうつもりではあったけど。どうにかしてこの方向音痴だけは何とかならないかなぁって思いつつ、私は街を出て森へと歩いていく。
「ルナ、今日も襲撃あると思う?」
「どうかしらね。けれど、最近は襲撃の頻度が多いとも言われていたでしょう?どうあれ、恐らくあるものとして考えた方がいいと思うわ」
「そうだね………」
襲撃が終わった後のダイアさん達の話では、あんな数の襲撃はそう多くはないと言っていた。少なくとも、昨日くらいの大群ではないにしろ、多少の襲撃は覚悟しておくべきだと思う。
そう考えつつ、私は昨日の森へと着いていた。朝早い時間だからか、樵さん達はまだ準備をしているみたいで、森の外で道具の確認や体をほぐしたりしていた。
「え、えと………こ、こんにちは」
「ん?もう冒険者が来………お、親方ぁ!!昨日のすげぇ子ですぜ!!!」
「ふぇ………」
突然大声を出されて、思わずもの凄く情けない声が出てしまう。2歩ほど後ろに下がると、男性は申し訳なさそうに声を落として話し始める。
「あ、悪い………昨日は俺達の間でもあんたの話で持ちきりでな。つい興奮しちまった。来てくれたら嬉しいとは思ってたんだが、正直昨日の戦いを見てたらな」
「そ、そうだったんですね………………ねぇルナ。そんなに連日仕事をするのって変?」
「まぁ、普通だったら魔力の回復に1日………いえ、昨日の事を考えれば2日は費やしてもおかしくないわね」
「………あー、え、えと。今日はどこにいればいいですか?」
そうはいっても、私自身は特に何ともないし。ここでそんなことを言っててもしょうがないや。そう思って私は今日の持ち場を訪ねると、男性の後ろから昨日の纏め役さんが歩いて来る。そして、私の姿をしばらく見つめた後、話し始めた。
「嬢ちゃんは昨日ダイア達と一緒に居た場所を頼めるか?」
昨日と同じ場所なら大丈夫かな。迷うことはなさそうだし。私は頷き、森の中に入って樵さん達が機能作業をしていた辺りを探す。
多分この辺りだった………かな?大体の当たりを付けて、私は近くの木に背中を預ける。すると、今まで私の腕の中にいたルナがいつものように肩へ飛び移る。
「ふふ。久しぶりだったけど、あなたの抱っこは居心地が良かったわ」
「じゃあもうちょっといても良かったんだよ?」
「それじゃあ何かあった時に戦えないでしょう?仕事は始まってるんだから、切り替えは大事よ」
「………それもそうだね」
杖を取り出して、取り敢えずいつでも応戦できるようにはしておく。と言うより、ここで待つだけなのも勿体ないかもしれない。
私が右手を空へと掲げると、広げた手のひらから小さな魔法陣が浮かび上がる。
「『行って』」
私の声と共に数十羽の光の鳥が魔法陣から飛び立ち、森の中へと飛んでいく。これで相手の接近があれば、先に迎え撃つ準備が出来る。取り敢えず、近くを周回するグループと、少し奥の方を探索するグループに分けて見落としは絶対ないようにしなきゃ。
鳥たちから入ってくる情報を見ながら、取り敢えず付近にはモンスター達が居ない事を確認する。
「近くにはいないね」
「そうみたいね」
「………このまま何もないと良いんだけど」
「あら、フラグかしら」
「ごめん。なんでもないからやめて」
ちょっとだけ思っちゃったけど、そんな不吉な事になって欲しくない。小さなため息を付きつつ、飛ばした鳥たちの視点に少し意識を向けようとした時、森の外から樵さん達が森に入ってくる足音が聞こえて来た。
「嬢ちゃん。さっき少し見えたんだが、あの青い鳥はあんたかい?」
「え、あ、はい………えっと、こっち側には飛ばしてないので、邪魔にはならないと思うんですけど」
「いや、邪魔になると思ったわけじゃない。色んな魔法を使えるのに驚いただけだ。それじゃあ、俺達も仕事を始めるから、頼むぞ」
「はい、わかりました」
と言っても、やることは変わらないけど。暫くは鳥たちの視点を見ることに集中しよう。
それからお昼前くらい。やっぱりフラグみたいなこと言わなきゃよかったと後悔しつつ、やっぱり始まった襲撃に私は後悔していた。
「もう………!」
「どうせ来るなら何を言っても一緒よ。昨日よりは少ないんだから、もうあんな美しくないやり方はダメよ?」
「分かってる、よ!!」
戦いに美しいとかあるのかは正直疑問だけど。それでも、ルナに教わったやり方はそう言うのばかり教わってるから、それ以外のやり方も分からない。
幾つかの魔法陣を浮かべて青い光弾を放ち、敵の群れと接触すると同時にまるで花火のように拡散する。その爆発によって散らばった光の粒子が舞って、更にそれが小爆発を連鎖的に起こしモンスターを次々と吹き飛ばしていく。
「シューーーー!」
大きな蛇のモンスターが私に何かを口から発射する。恐らく色からして毒だろうけど。流石にあんなのに当たるわけにもいかないし、私は杖をそれに向けて大きな光の花を作り出す。
花は発射された毒を呑み込んで花弁が閉じると、輝きを増して再び花開く。巨大な光線が花から発射され、迫るモンスター達を薙ぎ払う。
「これで………最後!」
7つの魔法陣を後ろに浮かべて、そこから私が両腕で抱えられるくらいのクリスタルが発射される。それらは弧を描くように最後の集団に向かい、それぞれがぶつかり合うと同時に甲高い音を響かせながら色鮮やかな光の爆発を起こす。砕け散ったクリスタルに光が反射して、見た目だけならとても綺麗だ。
これが命の奪い合いじゃなければだけど………はぁ。命を奪う事への抵抗もまだあるけれど、一切の割り切りすら出来てない訳じゃない。ため息を付きつつ、私はもう一度周囲へと光の鳥を放つ。
「………」
「アリス。そんな顔したら駄目よ。折角の綺麗な顔が台無しじゃない」
「ん………」
取り敢えず、もう周囲にはモンスターの姿は無いみたい。私はホッと一息ついて、水筒を取り出して喉を潤していく。昨日ほどは多くないし、今日は多分50~70体くらいかな。蛇のモンスターや鹿のモンスターとか、やっぱり種族はそれぞれ違う。昨日よりはランクは高そうだけど、その辺りはあまり分からない。
水を飲みながら、そう考えていた時だった。
「あんな戦い方もあるんだな………」
「んっ!?げほっ、げほっ………!あ、え、援軍でしたか………」
背後から声が掛かって思わず咽てしまった。後ろを見ると、鎧を着こんだ人たちが数人。多分私が魔法使いだから、前衛を呼んで来てくれたんだろう。その人たちは咽てしまった私を見て申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「ごめんよ。驚かすつもりはなかったんだが」
「勝手に驚いただけですので………え、えっと。もう終わっちゃったんですけど」
「見てたから知ってるよ………………君の魔法凄いな。すごく綺麗だった」
「え、と………あ、あはは………」
綺麗、と言われて返す言葉が見つからなかった。代わりに愛想笑いを返しておくけど、やっぱり変かな?と、水筒を魔法でしまいながら考える。
結局その日はそれ以上の襲撃は無かったけど、やっぱりモンスターの襲撃は切羽詰まった問題なんだなと再認識する。昨日の推測が、万が一だろうと外れてくれればいいんだけど。そして、私はそれまでに………ダインさんへの答えを出さないといけない。




