表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/63

25話

「ひゃ、130体!?」


 夕方のギルド。冒険者達が仕事を終えて、その報告のためにギルドに続々と戻ってくる時間。

 そんなギルドに、驚きに満ちた叫び声がカウンターを揺らす。私の戦績を確認するために、ギルドカードを確認したフェリさんの声だった。

 周囲の喧騒がパタッと止まり、その原因になったフェリさんはその事にすら気が付かないままダイアさんに尋ねる。


「あ、あの………すみません。大変失礼なのですが、これは何かの間違いでは………」

「おい、ギルドカードはそう簡単に小細工出来るようなもんじゃねぇのはあんたが一番知ってんだろ。俺はこの目で見たぞ。嬢ちゃんが襲撃してくる群れを魔法で一掃していくのをよ」

「じ、事前の情報収集からランクに見合った実力ではないとは予想していましたが、そこまでですか………」

「はっ。長いことCランクでやってる俺らなんかじゃ、まず嬢ちゃんには追い付けねぇだろうな」


 当の私を省いて話し続けるフェリさんとダイアさん。話の中心になっている私は周囲からの好奇の目線に晒されてしまって、流石に数時間も経って普段の調子に戻っていた私は気まずくて仕方がなかった。


「聞いたか?ダイアがあそこまで言うなんて、あの子只者じゃないぞ」

「お前うちに誘ってこいよ」

「バカ。そんなに強いならもうあいつが誘ってんだろ」

「あの様子じゃ加入したわけじゃないんでしょ?言うだけ言ってみたら?」


 そんな話し声が隣のカウンターから聞こえてくる。誰の事かは流石に分かるけど、やっぱり注目されるのは苦手。そんな空気に耐えきれなくなって、私はフードを被って顔を隠す。


「いつかはこういうのにも慣れないといけないわよ。あなたが活動する上で、これからも目立つのは避けられないもの」

「うぅ…………」

「全く………せっかく綺麗な髪とお顔を隠しちゃうなんて勿体無いじゃない。まぁ、こういう視線を避けたいなら、早めに冒険者ランクを上げることね。今はランクが低いことも悪目立ちする理由でしょうし」

「うん…………」


 ランクアップは実力だけじゃなくて、達成した依頼や討伐したモンスターをポイントとして加算して、それが基準値を満たせば試験を受ける資格を得ることが出来るらしい。

 明確な基準やポイントは明かされていないけど、ゴブリンやフォレストウルフみたいな低級のモンスターばかりと戦っているようではいつまで経ってもCランクには上がれないとは聞いたことがある。


「で、では………ダイアさん達の討伐数も合わせて合計217体となりますね」

「…………分かっちゃいたが、俺ら全員を足しても嬢ちゃんには届かねぇか」


 ダイアさんはやや自嘲混じりに笑う。それを見て何か言った方がいいんじゃないかと思ったけれど、上手く言葉が出てこない。

 下手なことを言っても何にもならないどころか、寧ろ悪化してしまうんじゃと思って。結局、私は無言を選ぶ。こういう所が自分でも嫌いだ。


「こちらが報酬です。受注された際に言っていた通り、5人分に分けて端数はアリスさんの分に入れています」

「おう。ありがとよ」


 ダイアさんが全員の報酬が入った袋を受けとると、それを全員に配っていく。私も勿論受け取ったけど、その時ダイアさんは「あー……」と小さく言葉を迷うような声を上げ、話し始める。


「………本当に俺たちと均等で良いのか?今回の手柄の殆どは嬢ちゃんのもんだ。納得できねぇなら、分け前を見直してもいいと俺は思ってる」

「ぇっ、あっ、だ、大丈夫です!最初から納得してパーティーに入れさせて頂きましたし………えと、だから………本当に大丈夫です!」

「そうか………んじゃ、今日はありがとよ。嬢ちゃんのおかげで助かった」

「いえ、えと………こちらこそ、ありがとうございました」


 私はダイアさん達にお辞儀をすると、ダイアさん達は小さく頷いて去っていく。その後ろ姿を見送りながら、私は人の少ないギルドの隅の方に寄って今日の事を思い返した。

 仕事場を襲撃するモンスターの群れ。聞いていた通り、群れを成す種族は本来お互いに混じり合う者達ではないはずだった。高度な連携が出来ていたわけではないけれど、明らかに一つの意思の元に統率された動きだったのは自分の目で見た。


「そうね。けれど、本来なら競い合う者同士でも、場合によっては手を取り合う事だって出来るわ」

「………共通の敵が出来た時、だよね」

「えぇ。そして、大きくなった集団には必ずリーダーが必要になる。今回の襲撃の規模を見る限り、たかが1000匹という訳でもないでしょう」

「でも、この街を直接襲ってこないのは………勝てる自信が無いから?」

「多くの冒険者が集まりつつあるこの街と総力戦をする程の力はないんでしょう………やっぱりあなたの見立て通り、今回は相手の思う壺になる可能性が高いわね」


 私はルナの言葉にゆっくりと頷く。でもこの推測が正しければ、殲滅隊は自ら相手の罠に掛かりに行くようなものだ。

 それを分かっていながら、私は何も出来ないんだろうか。それは人の命を見殺しにするのと何が違うんだろう。


「なら、やっぱり参加するのかしら?」

「………」

「いい?自分が全てを背負うだなんて、ただの驕りでしかないわ。あなたは神様でも無ければ、彼らの責任を負う立場にもないの。それなのに、何でも自分のせいにする必要があるのかしら」


 ルナの言うことは至極正しいことだと思う。私は見ず知らずの人の責任を負う立場じゃない。その人たちは、自分で選んだんだから。

 けれど、やっぱり考えてしまう。願いを叶えるなんて力を持ってしまった私は、この力を自分のためだけに使って良いのかって。


「はぁ………本当に、あなたは生きるのが下手ね」

「………上手く生きるってなんだろう」

「さてね。その答えはあなたが見つけるべきだもの。けれど、今回の件はあなたの中で諦めを付けなさい。それが出来ないのなら、今からでも殲滅隊に参加するべきよ。何かを選択するというのは、何かを諦める事だといい加減に理解しなさい」


 ルナの説教に、私は小さく頷いた。そして数十秒くらい考えて………………


「………………やっぱり、行かないよ」


 どれだけ考えても、殲滅隊に参加する気にはなれなかった。色々と考えたけど、結局深い理由なんてない。

 ただ、死ぬのが怖い。理由はそれだけだった。どれだけ理想を言っても、私には分の悪い賭けに命を懸けるだけの勇気なんて、あるわけがなかった。


「それでいいのよ。あなたが死んでしまったら何にもならないんだもの………答えが出たなら帰りましょう。今日は疲れたでしょう?明日くらいは休んでも良いのよ」

「………ううん。もう少し、護衛のお仕事は頑張ってみるよ」

「真面目ねぇ………」


 まぁでも、疲れたのは事実。今日は宿に帰って休もう。そう考えて私は背を預けていた壁から離れて出口へと向かう。けれど、その途中。


「ねぇ、君」

「えっ、あ、は、はい。なんでしょうか………?」

「俺、君が戦う所を見たんだ。正直、なんて言葉にすればいいか分からないけど、本当に凄かった。だから単刀直入に言うけど、俺達のパーティーに入ってくれないか?」

「あ、えっと………ご、ごめんなさい。私、今はそういうのは考えてなくって………」

「今は、だろ?魔法使いなら、前衛が欲しいと思う事もあると思うんだ。絶対に後悔はさせないから、もう少し考えてみてくれないか?」

「え、えっと………わ、私は、その………」


 なんて言えばいいんだろう。今はやっぱり、誰かと正式にパーティーを組む気にはなれない。仲間には憧れがあるし、戦う時は人が多い方が安心できる。

 けれど、今はもっと多くの事を知って、私自身を変えて。仲間を見つけるのはその後がいいと思ってる。でも、それを伝えるにはどうすればいいんだろう。その答えが見つからなくて、私は誤魔化すようにフードを掴んで深く被る。


「え、と………」

「その、俺は本気なんだ。君がいれば、きっと誰も見たこと無いような――――」

「そこまでにしておいたらどうかな?彼女も困っているみたいだし」


 言葉に迷って視線を右往左往させた時、一人の男性が割って入って来てくれる。そしてその声は、昨日聞いたばかりの声。


「ダイン、俺は別に………」

「君を悪者にしてるつもりはないさ。けど彼女の意思をもっと尊重するべきだと思うよ。それに、僕も彼女の話を聞いて誘おうと思っていたし、他にも彼女の事が気になっている人は大勢いる………君だけが、そんな風に強引に迫るのは不公平じゃないかな?」

「………はぁ。そう言われたら仕方ないか。けど、気が変わったらいつでも言ってくれ」

「え、あ、は、はい………」


 男性はそう言って去っていく。その事に少し安堵しながら、私を庇ってくれたダインさんに向き直る。


「えっと………ありがとうございます。ダインさん」

「はは。君が困ってそうだったからね。随分と派手にやったそうじゃないか」

「あ、あはは………」


 派手だったのは否定できないけど、ああでもしなかったら誰かが傷ついてたのは明らかだった。その事に後悔はないけれど………でも、やっぱり力の使い方はもう少し慎重になるべきだったって反省はしていた。


「え、と………」

「あぁ、さっきの僕の言葉はあまり深く考えないでいい。君が来てくれるというのなら、僕は歓迎するけどね」

「あ、い、いえ………」

「はは、だろう?まぁ、皆も今のは見ていただろうし、強引な誘いはあまり心配しないでいいと思うけどね」


 そう言いながら、ダインさんは一瞬だけ周りを見た。それはまるで周囲に対する牽制のようで、彼と目があった人達はそっと視線を逸らしていた。


「え、えと………本当に、ありがとうございます」

「大丈夫だって。今日は頑張ったみたいだし、早く帰って休むといいよ」

「はい………えっと、それでは失礼します」

「あぁ。またね」


 私は一礼してギルドから出た。あの様子だと、ダインさんは謙遜してたけどやっぱりあのギルドの中でもかなりの実力者なのかもしれない。


「はぁ………これからああいうのも増えるのかな」

「だから言ったでしょう。注目を浴びるのにも慣れなさいって」

「………難しい事がいっぱいだなぁ」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ