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24話

 森の奥の暗がりから唐突に飛来してきた無数の棘。ルナから直前に警告を受けたのもあって、私はすぐに意識を切り替え願いを想起する。


「守って!」


 私の声と共に、ダイアさん達も含め全員を隠せるほどの大きな結界が棘を弾く。

 ロウさん達は突然の出来事に動揺を見せていたけど、ダイアさんはすぐに構えを取って喝を入れる。


「てめぇらボサッとすんな!構えろっ!!」


 ダイアさんの指示に、ロウさん達も構えを取る。そして、騒ぎを聞いた樵さん達は作業を中断して避難を始めていた。


「いきなり来んのかよ………!」


 ダイアさんがそう悪態を着いた時、森の奥から多数のモンスターが飛び出す。その数は目測で測る事さえ困難なほどで。見えている分だけでも50体は超えていると思うけど、正確な数までは分からない。


「へぇ。本当に種族はバラバラなのね。低級のモンスターがほとんどみたいだけど」

「ルナ、やるよっ!」

「えぇ。いつでもいいわ」


 相手はゴブリン、フォレストウルフ、そして名前は知らないけど、尻尾に沢山の棘を持ったトカゲみたいなモンスターが集まった群れだった。

 前衛と接近する前に、広範囲攻撃でなるべく数を減らさなきゃいけない。


「お願い……!」


 杖を空へと向ける。別にそんな動作は必要ないけれど、動作によってイメージしやすいのならやるべきだとルナには教わっていた。

 迫る群れの頭上に複数の大きな魔法陣が浮かび上がり、それらは直後に巨大な光線を放つ。薄暗い森を照らす光に飲み込まれ、今見えてる分の3分の1ほどが蒼白い爆発と共に影も残さず消滅してしまう。


「…………マジかよ」

「り、リーダー………?なんて子を連れてきたんすか……?」

「ニードルリザードまで跡形もなく………」

「…………」


 ダイアさん達はその光景に一瞬だけ呆気に取られていた。既にこういう反応はエルリンで活動していた頃に何度か見ているけど、やっぱり慣れない。


「もうちょっと加減をした方がいいわよ?モンスターの素材が勿体無いもの」

「ごめん!今ちょっとそんな余裕ない!」


 目の前で仲間達が消滅したのに、モンスター達はまるで気にしていないかのように前進を止めなかった。もう最前線はダイアさん達との距離が近いから、さっきみたいな高範囲攻撃が出来ない。

 私は周囲に魔法陣を7つ浮かばせると、それらから蒼白い光の弾を放つ。そして、さっきモンスター達の頭上に作った魔法陣から再び巨大な光線を放って群れの後続を吹き飛ばした。


「はっ………かなりの当たりを引いたみたいだな。てめぇら!嬢ちゃんに負けてられねぇぞ!」

「は、はい!!」

「うっす!!」


 ダイアさん達も戦いを始め、次々とモンスター達を薙ぎ倒していく。信頼されているだけあってか、実力も相応に高いらしい。数で負けていても、それを感じさせない程に次から次へとモンスター達を一撃で切り伏せていた。

 けれど、やっぱり剣や斧などでは攻撃範囲に限界があるのは当たり前で。


「悪い、右抜けちまった!!!」

「っ………」


 ジスさんの声を聞いて、私は息を呑む。私が咄嗟にそちらを見ると、切り株に足を引っかけて逃げ遅れたらしい樵さんの元へ、一匹のフォレストウルフが真っ直ぐ向かっていた。

 ただでさえ一度に幾つもの攻撃をイメージしながら制御しているから、これ以上細かい事は出来ない。今も私が少し気を逸らしたせいで、7つの魔法陣が2つまで減ってしまった。迷っていたらみんなが傷ついてしまう。

 もう、なりふり構っていられない。


「………ごめん!」


 ルナにはこんな方法はなるべく使わない方がいいと言われたけれど、今は迷っていられない。フォレストウルフのランクはE。それくらいの低級のモンスターなら。


「『止まって』」


 その呟きと共にフォレストウルフの鼓動が止まる。声を発する事もなく、まるで眠るようにそれはただ静かに地に伏した。


「な、なんだ………!?まさか、今のあんたが………?」


 目の前でフォレストウルフが倒れ、腰を抜かしている樵さんが私を見て驚いたような表情を浮かべたけれど、私はそれに答えれるような気分ではなかった。

 申し訳ない気持ちと、こんな使い方をしてしまった事への後悔が湧き上がって来る。けれど、それに気を取られて集中力を切らしてたら、こんなことをした意味すらなくなってしまう。


「っ………!」


 さっきと同じように………ううん。さっきより集中力を高めて、作り出している魔法陣の数をさらに増やす。光弾を放つ8つの魔法陣と、連鎖する雷撃を放つ魔法陣を2つ作る。

 そしてそれぞれに明確なイメージを作り上げながら放っていく。この世界に来てからのルナとの特訓は、こうやって複数のイメージを可能な限り統一させながら同時に処理出来るようにすることだった。


「アリス、大丈夫か!」

「………」


 けれど、もし少しでもイメージが崩れてしまえば何が起こるか分からない。相手が誰であるかも分からず、掛けられた声を私は認識すら出来ていなかった。それほどに、私はこのイメージを保つことだけに集中していた。

 そうして、限界まで集中力を費やした攻撃に群れは一気に数を減らしていく。時間の意識すらないけれど、私にとってはとても長く思えた襲撃は、雷撃が最後のニードルリザードを射抜くことで終わりを告げた。

 一気に静寂に包まれた中で、私は荒い息を付きながらその場にへたり込んでしまう。


「はぁ………はぁ………」

「おい嬢ちゃん、大丈夫か!」

「ご、ごめんなさい………大丈夫、です………」


 呼吸を整えながら、駆け寄って来たダイアさん達に答える。汗が大粒で流れて地面に吸い込まれていくし、息も絶え絶え。正直に言えば大丈夫ではないんだけど、元々私は自分で魔法を使ってるわけじゃない。ルナに甘えている以上、弱音を吐くのはあまりに情けなさ過ぎる。

 すると、私の肩から降りたルナが私の前に座って少し怒ったように話し始める。


「自分に厳しくし過ぎよ。その類稀な集中力はあなた自身の力だもの。謙虚な姿勢は美徳でもあるけど、自分の事を低く見るのはやめなさい。いいわね?」

「………うん」


 小さく頷いて、私は少し落ち着いた所で水筒を取り出す。とにかく、今はちょっとだけ休みたい。でもその前に、ダイアさん達にしっかりと返事を返さなきゃ。


「えと………す、すみません。本当に大丈夫、です」

「………そうか。なぁ、これを聞いていいのか分かんねぇが、あんな強力な魔法を連続で使えるなんざ普通じゃ有り得ねぇ。嬢ちゃん、一体何者だ?」

「な、何者と言われましても………」

「悪い、嬢ちゃんを疑ってるわけじゃねぇんだ。ただ、あんなもん見せられたら………な」


 ダイアさんは先ほどまでモンスターの群れが居た場所を見る。ロウさん達もその視線を辿るようにそちらを見るけど、表情は凄く真剣だった。

 エルリンでも、私の魔法を見て驚く人は多くいた。けど、今日は相手の規模が今まで経験したことが無かったほどで、あんなに全力を出すのは初めて。当たり前だけど、それを人に見られるのも。


「はぁ………こりゃとんでもねぇ逸材を引き当てちまったな。どうだ嬢ちゃん。正式にうちに入んねぇか?」

「え、あ、いや、あの…………ごめんなさい。お誘いは嬉しいんですけど、その………」

「はっ、ただの冗談だ。うちのパーティーじゃ、嬢ちゃんには釣り合わねぇだろうしな」

「い、いえ!そういうつもりじゃなくて………!!」

「だがまぁ、嬢ちゃん。これからは覚悟した方がいいぞ」

「え………?か、覚悟って、何がですか………?」


 ダイアさんがそう言って見た先は、樵さん達が居た方。釣られて私もそっちを見ると、樵さん達と一緒に、知らない冒険者まで沢山来ていた。多分、樵さん達が援軍として呼んできたんだと思う。

 けど、彼らは一様に驚愕の表情を隠そうともせずに私達を見ていた。その原因は言うまでも無いし、私自身分かってるつもり。


「その………忠告ありがとうございます。で、でも!お誘いを断ったのは釣り合うとかそんなんじゃなくて………寧ろ、私がまだ未熟なんです」

「あんなのを見せられて未熟なんて言われても、俺達納得できないっすよ?まさか皮肉っすか?」

「え、や、そ、そうじゃなくて………!!」

「そこまでにしてやれよ。アリスにそんな悪気がねぇのは見れば分かるだろ。あんなのを見て興奮するのも分かるけど、少し冷静になれって」


 ジスさんがザインさんを窘めるように肩を掴む。また、上手く伝えられてないみたいだ。私は内心で自分に対してため息を付きながら、ゆっくりと立ち上がった。ルナが私の肩に飛び乗ったのを確認して、ダイアさん達に向き直る。

 

「………えっと。どう、しますか?まだ依頼は続いてるんですよね?」

「………あぁ、そうだな。依頼自体は夕方までの護衛だから、まだ続いちゃいるが………本当に大丈夫か?」

「大丈夫です。最後までやらせてください」


 なんだか、ネガティブになりすぎて逆に冷静になってしまった。呼吸も落ち着いたし、まだまだ頑張れる。まだ時間で考えれば始まったばかりもいいところだし。すると、私の背後の方で色んな声が聞こえ始める。

 でも、今は聞く気にもなれないや。私は色んな視線が集まっているのを感じつつ、元の立ち位置に戻る。程なくして樵さん達も仕事を再開して、援軍に来ていた冒険者達もそれぞれ戻って行ったけれど。それから、樵さんやダイアさん達にどことなく意識を向けられてるのは私でも分かったのだった。



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