23話
カーテンの隙間から差し込む朝日と鳥のさえずりが眠っていた私を起こし、ゆっくりと瞳を開く。
「ん………ん~~………」
ベッドから体を起こして大きく伸びをする。外での野宿はやっぱり緊張感はあるし、ゆっくり眠るのは難しかったから、久しぶりにベッドで寝れて凄く幸せな気分だった。
「おはよう、アリス」
「おはよ、ルナ」
私が起きたことに気付いたルナと挨拶を交わして、私は朝支度を始める。今日から本格的にこの街での冒険者としての活動だし、頑張らなきゃ。
「今日は例の仕事場に行くんでしょう?」
「うん。どうするかを決めるにしても、自分の目で見てから考えたいから」
「その考え方はとても大切ね」
ルナと会話をしながら支度を済ませて部屋を出る。今はオルムに滞在している冒険者が多いらしくて、街の宿は大体満室らしい。理由は勿論、襲撃の件で仕事が多くて稼ぎやすいから。
やっと見つけた宿は食堂がなかったけど、あんまり贅沢は言えない。私は食べ物だったら沢山保存出来るし。
「はい、ルナ」
「あら。ありがとう」
ギルドに向かう道中でパンをルナと分けて食べる。そうして辿り着いたギルドは、朝なのもあって凄く人が多かった。エルリンのギルドでもここまでは多くなかったし、その光景に少し圧倒されながらギルドを見渡す。
えっと、護衛依頼はどこに貼り出されてるのかな………
「あっちのボードにあるわね。でも混んでいるし、少し待ってからでいいんじゃないかしら」
「分かった。ありがと」
ルナに教えてもらったボードの近くの壁に背中を預けて人が減るのを待つ。冒険者は体格がしっかりしてる人が多いけど、私はそれに比べるとちっちゃい。すごくちっちゃい。
そんな私が冒険者の人混みに入ったら、それはもう悲惨なことになる未来しか見えなかった。身体能力も貧弱だし。
「別に気にしなくていいのよ。あなたが剣や槍を振るうなんて似合わないもの」
「………まぁ、うん」
似合うか似合わないかで決めるものじゃないんじゃないかな?と思ったけど。どうせ握ろうとしても絶対向いてないからいいや。
でもやっぱり人が多いだけあって、なかなか人が減らないなぁ………って思っていたら、一人の男性から声が掛けられた。
「よう嬢ちゃん。魔法使いかい?ランクは?」
「えっ!?あ!は、はい!ランクはD、です………けど……」
「そうかい。護衛依頼を受けるんだったら、臨時でうちのパーティーに入らねぇか?後衛が足りてねぇんだ」
そんな誘いを持ちかけてきたのは、スキンヘッドで遠慮なく言えば強面の男性だった。背中におっきな斧を背負っているのもあって、威圧感がすごい。
「え、えっと………報酬はどんな風に分けますか?」
「基本報酬とパーティー全員の戦績を合計して最終的な報酬が決まるから、あっちで待ってる奴らと俺、嬢ちゃんを入れて5人で均等になるように分ける。端数分は一番戦績が良かった奴が取るってのでどうだ?」
男性が指差した先には、3人の男性がカウンターの近くに立ってこちらを見ていた。多分全員前衛…………かな?ギルドには色んな冒険者が集まるから、こんな風に誘いが来ることは珍しくない。
そして報酬の話はトラブルが起こりやすいから、組む前に聞いておくのが定石だとルナには教わっていた。
「えっと……分かりました。じゃ、じゃあお願いしてもいいですか?」
「よし来た。こちらこそよろしく頼むぜ。依頼はもう取ってるから、カウンターで受注登録をしたら出れるが、準備はいいかい?」
「だ、大丈夫です!」
私が頷くと、男性も頷いて待っていたパーティーの人たちのところへ向かう。こういうと凄く失礼なんだろうけど、見た目に反して気の良い人だ。報酬の分配も良心的だし。
「魔法使いを一人見つけたぞ。分かってると思うが、後衛が攻撃されるなんてことがあったら恥だからな。お前らいつも以上に気張って前線張れよ」
「うっす!」
「お~。随分可愛い子を捕まえましたねぇ………」
「お前子供にまで手ぇ出すなよ?」
「俺を何だと思ってんだ!?」
「はっ。文句は女癖を直してから言えってんだ。なぁリーダー?」
「間違いねぇ」
この人たちも仲良いなぁ………三人ともアイシャさん達より年上みたいだし、活動を始めて長いのかな?
と言うか、ナチュラルに子供認定されてる。いや、間違いなく子供ではあるから仕方ないけど………言いようのない納得のいかなさを感じながら、臨時パーティーを組んで依頼を受けることができた。
待ち時間も減ったし、ラッキーだったかも。
「そうかしら?パーティーを組んだせいで、あなた一人の報酬は減ると考えられるわよ?」
「ルナ。失礼だよ」
「冒険者をやる上では大事な判断基準よ。あなたは特に強力な魔法を無詠唱で使える分、殲滅力はそこらの魔法使いなんて足元にも及ばないのは分かってるでしょう?」
「世の中お金だけじゃないの」
小声でルナと話ながら、依頼場所へと向かう。ルナは大事な家族だけど、彼女の声が他人に聞こえなくて良かったと思うことが度々ある。
それに、こう言ったらあれだけど今の所お金には困ってないし。装備の補修とかに必要な経費がないし、元々私物を買う事もあんまりなかったから、Dランクの報酬でも貯まる一方だ。
「嬢ちゃん、この依頼は初めてか?」
「あ、そ、そうです………」
「そうか。ま、あんま緊張すんなよ。襲撃が多いっつっても毎日って訳じゃねぇ。何にも起こらず一日が終わることもあるしな」
「そ、そうなんですね………」
「あぁ。そういう時は基本報酬だけになるから、殆ど儲けもねぇが」
リーダーさんは軽い口調で言うけれど、まるでモンスターの命をお金のように見ているように聞こえて、あまりいい気はしなかった。私が深読みしているだけな気もするけど。
そんな風に勝手に一人でマイナスな気分になりながら、樵の仕事場に辿り着く。そこでは既に木を伐採する音が聞こえて来ていて、切り株がたくさん残っていた。
「………これ、残したまんまなんですか?」
「ん?あぁ、切り株か?定期的に除去はしてるらしいが、最近はかなり滞ってるみたいだな。ま、襲撃が増えてきてそんな余裕もねぇんだろう。邪魔だからさっさと片付けて欲しいところだが」
「………」
危ないなぁ………戦いの時に躓いたりしたら、本当に命取りになりかねない。樵さんに確認して取っても良いのかな。そう考えつつ、森の中へと入っていくリーダーさんに続く。そういえば、まだ名前聞いてないや。
「あの………な、何とお呼びしたらいいですか?」
「………そういや自己紹介もしてなかったな。俺はダイアだ。嬢ちゃんは?」
「あ、アリスです」
「俺はロウだ。よろしくな」
「ザインっす。よろしくっすよ」
「ジスだ。ロウには気を付けとけよ?こいつ女に目がないからさ」
「おいやめろって!」
そんなやり取りに、私は「あはは………」と下手な愛想笑いを返す。そして、私達はここ全体の管理をしているらしい樵の纏め役の所へ来て、ダイアさんが挨拶を交わしていた。
「よ。今日はどこを担当すればいい?」
「ダイアか。怪我はもう良いのか?」
「はっ。元々大した傷でもねぇよ」
「そうか………ところで、そこのお嬢ちゃんは?まさか新入りか?」
「いや。そろそろ前衛だけでどうにか出来る数じゃねぇからな。魔法使いに臨時で入ってもらった」
「なるほどな………いつも通り仕事場から一番近い区画を頼む。お前らがいない間、戦績にばかり気を取られてまともにうちの連中を守ってくれる奴らが少なかったんだ。頼んだぞ」
「あぁ、任せろ」
2人の話を聞いて、多分さっきのは本当に私の考え過ぎだったんだろうなぁと思った。凄く信頼されているみたいだし、そんな人たちのパーティーに入ったからには私だってそれに恥じない仕事をしなきゃ。
ダイアさんに付いて行って、持ち場に着く。と言っても、樵さん達の仕事場のすぐそばだから、殆ど移動は無いけど。
「わりぃな。この通り、俺達は森の奥から一番離れた所を担当してる。大漁は期待出来ねぇが、今日は我慢してくれ」
「え?………え、あ、いえ………えっと………謝らないでほしいです。そんな大事なお仕事のお手伝いをさせて貰えるなんて、それだけで光栄ですから」
「………………そうか。若ぇのにしっかりしてるな」
「アリスちゃんめっちゃいい子っすね………今どき珍しいっすよ」
「え、えっと………あはは」
さっきから愛想笑いしか返せてないや。それはともかく、ダイアさんが陣形を指示していく。当たり前だけど、後衛として呼ばれた私は一番後ろ。
「アリス。期待はしているが、無理はするんじゃねぇぞ」
「は、はい………分かりました」
樵さんからも一番近く、ダイアさん達が抑えきれなかったモンスターを優先的に排除してほしいらしい。勿論、余裕があれば援護を頼むとも言っていたけど。
「アリス。色々と難しい事を考える必要は無いわ。結局やることはいつも通りなんだもの。まさか、今更襲って来るモンスター相手に可哀想だから、なんて言わないわよね?」
「………うん。気は進まないけど、ここで私が迷ったら、私はもっと後悔すると思うから」
「それでいいわ。じゃあ構えなさい」
「え?」
「来るわよ」
「………っ!?」
その時、私がルナの言葉を理解し杖を取り出して構えるのと、森の奥から鋭い棘が無数に飛んでくるのは同時だった。




